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ソフトウェア遺産を次世代に伝えるプロジェクトが始動!

Apple IIのゲームを未来に伝える異能のミュージシャンに迫る

著者: 栗原亮

Apple IIのゲームを未来に伝える異能のミュージシャンに迫る

500本以上のゲームを収集

ハードもソフトもシンプルで美しく、オールインワンで誰にでも使いやすいアップル製品の原点は、1977年に発表された「Apple II」にあるだろう。もはや歴史的なデジタル技術遺産として博物館入りしてもおかしくないが、「今使っても十分に面白い」とその魅力を語る人物が現れた。アナログシンセサイザを駆使した作品で知られる、音楽家の安西史孝氏である。

スティーブ・ウォズニアックがApple IIの開発に勤しんでいたのとほぼ同時期に、国内の楽器メーカーでコンピュータ音楽の変革を目の当たりにしてきたという安西氏。その後、Apple IIと出会ってから現在に至るまで、音楽や映像など多くの作品を、アップル製品も利用して生み出してきた。その傍ら、趣味として収集してきたのがApple II用のゲームソフトだ。

海外通販なども利用して継続的に集め続け、そのコレクションの数はなんと500本以上にのぼる。ネットオークションでは1本数千円から数十万円という高値で取引されることもあるApple IIのゲームだが、一部の熱狂的なマニア以外にはまったく顧みられることがないのが実情のようだ。

「今ではこうしたゲームは“レトロゲーム”と総称されることが多いのですが、一般的には任天堂のファミリーコンピュータなどのコンシューマ機のゲームを意味していて、そこにApple IIのゲームを含めて語られることは稀です。もっと多くの方、特に若い人たちにもこういう面白い世界があるのだということを、知ってもらいたいと考えています」

過去を未来につなげる活動

有名なゲームのビッグタイトルも、元をたどればApple II用のゲームだった、ということも珍しくはない。コンピュータゲームの原点でありながら、表立って語られることの少なかったこれらのゲームの魅力を伝えるために安西氏が採った手法は、自らの創作活動の中でゲームをレビューしていくというものだ。

具体的には、トークアプリ風のインターフェイスを持つテキスト投稿サイト「ストリエ」で、Apple IIのゲームの内容を1本ずつ丁寧に解説している。キャラクターが軽妙に会話するスタイルと、実際のプレイ動画を交互に挟むことで、昔のことを知らない世代でも新鮮な気持ちで楽しめるよう配慮しているという。

確かに、最近の高精細なゲームに慣れているとApple IIのゲームは非常にプリミティブに見えるが、当時のマシングラフィック性能を最大限まで引き出している様子や、少ない要素でゲーマーの想像力を掻き立てる挙動は意外にも古さを感じさせず、むしろ現代のiPhoneネイティブ世代には目新しく感じられるかもしれない。

レビューではニコニコ動画やユーチューブなどで人気のジャンルである「ゲーム実況プレイ動画」風の演出もなされているが、その理由も興味深い。

「コンピュータゲームですから、エミュレータ上で操作してキャプチャすることも可能です。しかし、それでは単にソフトウェアの解説にしかなりませんし、著作権上の問題もあります。なので、私が実際に当時とまったく同じ操作環境を用意して、そのプレイの様子を別のカメラで撮影しています」

撮影も編集も非常に手間のかかる作業であり、現在のところ6本目の投稿だが、今後は一般の人にも関心が高いと思われる「ウィザードリィ(Wizardry)」など、往年の名作についても取り上げていきたいという。コレクションを死蔵することなく、当時と同じ感動を再現すべくプロジェクトを始動した安西氏、今後はWEBだけでなくイベントや展示など、リアルな場所でも展開できれば、と抱負を語った。

安西氏が所有するApple II用ゲームコレクションは500種類以上にのぼる。初代「ウィザードリィ」(1981年)や、現在はグーグルに勤めるビル・バッジが開発した「Pinball Construction Set」(1983年)など数々の名作が揃っており、手描きのパッケージアートは現在も輝きを放っている。

キーボーディスト、作曲家の安西史孝氏は、1980年代にテクノポップユニット「TPO」のメンバーとして活動、TVアニメ「うる星やつら」「あらしのよるに」の劇伴音楽や、つくば万博のテーマソングの作曲などを行う。その後も初音ミクやMac音ナナを用いた作品をニコニコ動画で公開するなど、独特な活動を精力的に行っている。

ゲーム実況動画は自宅のスタジオで収録している。使用するApple IIはApple IIe、IIcなど。ビデオ出力がNTSC信号のため、動画のキャプチャはファイアワイヤコンバータで変換してiMacの「iMovie」で取り込みを行っている。操作用のジョイスティックも、5インチフロッピードライブの「Disk II」も、当時のものがそのまま動いている。

安西氏はトークアプリ風の読み物を投稿できる「ストリエ(Storie)」で、ゲームの解説とプレイの様子がわかる実況動画で構成される「レトロゲームへようこそ」の連載を開始した。【URL】https://storie.jp/creator/story/11384

【NewsEye】

動画制作も行っている安西氏。「レゴ」を利用したストップモーション・アニメーション「ジョブス博士の研究所」は機材を含めて1000万円近く投じた労作だ。費用がかかりすぎて制作は休止中とのことだが、安西氏のアップルフリークぶりがよくわかる。【URL】http://youtu.be/sWwMDbspO7g