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角丸狭額縁に挑む驚愕の最新液晶ディスプレイ

著者: 今井隆

角丸狭額縁に挑む驚愕の最新液晶ディスプレイ

読む前に覚えておきたい用語

液晶ディスプレイ(LCD)

偏光フィルタを備えた2枚のガラス板の間に液晶材料を挟み、これに透明電極から電圧を加えて液晶体を配向させることで光の透過率を変化させることで表示を行うディスプレイ。カラー表示を実現するためのRGBフィルタや光源となるバックライトなどが必要。

薄膜トランジスタ(TFT)

現在の液晶ディスプレイはX・Yマトリックスの交点(画面上の各サブピクセル)にトランジスタを配置する「アクティブマトリックス」方式が主流で、高コントラストや高速な応答速度が特徴。このときガラス面上に塗布されたシリコン素子を薄膜トランジスタと呼ぶ。

低温ポリシリコン(LTPS)

液晶ディスプレイのTFTに非結晶であるアモルファスシリコンではなく多結晶シリコンを使い、これをレーザなどを用いて低温で結晶化させたものが低温ポリシリコンで、応答速度が速い、素子が小さい(光透過率が高い)、省電力化が可能といった優れた特徴を持つ。

進化を続ける液晶ディスプレイ

パーソナルコンピュータが登場した当時はブラウン管(CRT)方式のディスプレイが主流だったが、1990年代に入ってノートPCの登場を機に液晶ディスプレイ(LCD)の実用化が加速され、21世紀に入ると市場のほとんどのディスプレイは液晶ディスプレイに置き換わった。そして、近年は有機ELディスプレイ(OLED)の量産が可能になったことから、スマートウォッチやスマートフォンの上位モデルを中心に、有機ELディスプレイを採用するモデルが増えてきた。

アップル製品でもiPhone Xやその後継機種であるiPhone XSシリーズ、アップルウォッチリーズ、MacBookプロのタッチバーなどに有機ELディスプレイが採用されている。しかし有機ELディスプレイは、まだコストパフォーマンスの面で液晶ディスプレイに遠く及ばない。そのため、MacBookのメインディスプレイやiPadなどの中・大型パネルは未だ液晶ディスプレイが使用されている。

しかし、有機ELディスプレイは、自発光デバイスのため、液晶ディスプレイのようなバックライトを必要とせず、また液体を閉じ込める必要がないことから、基材にガラスではなく樹脂フィルムを使うこともできる。このため非常に薄く軽量で平面以外のディスプレイも作ることができるメリットがあり、iPhone Xやアップルウォッチはこの特徴を活かしたデザインを実現した。

特に、iPhone Xは四辺狭額のラウンドコーナーディスプレイを搭載しており、従来このようなデザインは液晶ディスプレイでは不可能だとされてきた。

ところが、2018年にリリースされたiPhone XRは、エッジ幅はiPhone Xより広いものの、見かけ上遜色ないレベルでの四辺狭額を液晶ディスプレイで実現した。さらに新しいiPadプロではフェイスIDを搭載しながらも、従来のiPadより細く全周で均一な幅のフレームを実現している。

Liquid Retinaディスプレイ

iPhone XRに採用されたLiquid Retinaディスプレイは、従来液晶ディスプレイでは不可能とされてきた四辺狭額、かつ四辺ラウンドコーナーという画期的なLCDパネルだ。そのオールディスプレイの実現のために新規設計のバックライトシステムを採用している。【URL】https://www.apple.com/jp/

ベゼルレス化のための新しいテクノロジー

従来の液晶ディスプレイでは、四辺狭額のパネルを実現するのは容易ではなかった。その理由の1つとして液晶ディスプレイ固有のバックライトがある。液晶ディスプレイの光源であるバックライトには、その一辺(または複数の辺)に白色LEDアレイを配した光源があり、液晶パネルの背面にはそこからの光を画面全体に均一に行き渡らせるための光拡散板が配置されている。LEDは点光源であるため、LEDアレイと表示領域との間には、光量を均一化するために一定の距離が必要だ。これらが液晶ディスプレイの一辺に一定の幅の非表示領域を必要とし、四辺狭額を実現する妨げとなっていた。

この問題を解決したのがジャパンディスプレイ(JDI)の「フルアクティブ」をはじめとする最新のディスプレイ技術で、スマートフォン向け液晶ディスプレイでは初となる四辺狭額を実現しているのが大きな特徴だ。ミネビアなどのライティングデバイスベンダーとの共同開発による新しいバックライトシステムの開発により、全周でフレーム幅を1ミリ以下に抑えることに成功している。

さらに、液晶ディスプレイの四隅を丸めるラウンドコーナーも新しい技術だ。本来液晶ディスプレイの周辺部にはLCDドライバと呼ばれるICが搭載されており、そのための基板スペースが必要となる関係で、四辺すべてがラウンドした形状は不可能といわれていた。ラウンドコーナーディスプレイでは、このICをパネル内部にTFTにより埋め込むことでそのスペースを不要にすると同時に、四辺すべてに曲線を持ったディスプレイを実現している。iPhone XRやiPadプロではこの特性を活かしたデザインが施されていると同時に、iPhone XRではセンサハウジングを避ける切り欠き形状を作り出すことにも活用されている。

高い表示性能を発揮する低温ポリシリコンTFT

このようなデザイン的な要素だけでなく、表示性能を高めるための技術も進化を続けている。その1つが液晶パネルの表示性能である光透過率や応答速度を向上させる低温ポリシリコン(LTPS)だ。一般的な液晶ディスプレイではピクセルの駆動に使われるTFT(薄膜トランジスタ)にアモルファスシリコン(a-Si)を用いるが、画質や応答速度を向上させるには素子サイズを大きくする必要があり、不透明であるTFTを大きくすることは光透過率を下げる要因になる。

非結晶アモルファスに代わって多結晶シリコンをTFTに用いればより小さく高画質になる反面、多結晶シリコンを薄膜化するには高い温度が必要だった。LTPSはマキシムレーザなどの技術を用いて低温でTFTの形成を実現する技術で、これによってより明るく省電力の液晶ディスプレイを実現できる。さらにLTPSをLCDドライバに採用することで、非表示領域に配置されたTFTを大幅に小型化でき、結果として前記したディスプレイ周辺部のフレーム(非表示領域)を細くしたりラウンドコーナーを実現することが可能となった。

では、このような狭額ラウンドディスプレイがMacBookシリーズに搭載される可能性はあるだろうか。それを占ううえで参考になるのが、ウィンドウズノートPCの動向だ。デバイス全体がディスプレイ主体で構成されるスマートフォンやタブレットとは異なり、ノートPCには四辺狭額を妨げる要因が液晶パネル以外にも存在する。それが対面カメラ(Macにおけるフェイスタイムカメラ)だ。あるノートPCでは、潔く対面カメラを廃止したり、キーボード上に埋め込んでポップアップ方式とするケースが見られる。

iPhoneのようにセンサハウジング部分の液晶ディスプレイを切り欠くという手法もあるが、その場合メニューバーとの干渉をどうするかというUI上の問題が残る。アップルがどのような戦略でフェイスタイム(またはフェイスID)カメラを実装(または廃止)してくるのか、非常に興味深い。

一方、ラウンドコーナーについては、今のところ他社のノートPCに採用事例はないが、もともとMacはクラシックOS時代にはGUIにラウンドコーナーを採用してきたこともあり、MacBookシリーズなどに採用されてもまったく違和感はなく、操作上の影響もほとんどないと推測される。狭額ラウンドディスプレイを搭載した次世代MacBookの登場を期待したいところだ。

四辺狭額ディスプレイ「FULL ACTIVE」

2017年6月にジャパンディスプレイが世界に先駆けて量産化した四辺狭額液晶ディスプレイ「FULL ACTIVE」は、独自の高密度配線設計、加工・実装技術の組み合わせによって実現されており、同社のパネルはiPhone XRにも採用されているという。【URL】https://www.j-display.com/

HUAWEI「MateBook X Pro」

今年リリースされたファーウェイの「MateBook X Pro」は極めて狭額の13.9インチLTPS液晶ディスプレイを採用し、従来の13インチモデルの本体サイズを実現している。その画面占有率は約91%で、本稿執筆時点でもっとも画面占有率の高いノートパソコンとされている。【URL】https://consumer.huawei.com/jp/

インセルタッチパネル「Pixel Eyes」

ジャパンディスプレイはFULL ACTIVE以外にも、Pixel Eyesと呼ばれるインセル方式のタッチパネル機能も実用化している。液晶ディスプレイ自体にタッチパネル機能を埋め込むことで、ディスプレイパネル全体の薄型化と軽量化を実現している。【URL】https://www.j-display.com/

MateBook X Proのポップアップカメラ

ノートPCで狭額化の妨げになるのがディスプレイ上部に配置された対面カメラだ。MateBook X Proはこの対策として、対面カメラをキーボードのファンクションキー列にポップアップ方式で埋め込むという方法を採用している。【URL】https://consumer.huawei.com/jp/