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ネット上では得られない!「Today at Apple」の交流体験

著者: らいら

ネット上では得られない!「Today at Apple」の交流体験

写真、ビデオ、アート&デザイン、プログラミングなどを無料で学べる「Today at Apple」がリニューアルされた。「スキル」「ウォーク」「ラボ」の3つのフォーマットで、参加者が効果的にスキルアップしていけるようにプログラムを改善。新たに加わったセッションにも注目だ。

直営店に求められるもの

1月末より、アップルストアで同社製品の使い方を無料で学べる無料プログラム「トゥデイ・アット・アップル(Today at Apple)」がリニューアルされた。リピーターが多いことで知られる同プログラムに、新しいセッションが追加され、内容のブラッシュアップが図られている。

トゥデイ・アット・アップルは2017年4月にスタートした。アップルストアにおける店内セッションというと、2001年のストア誕生以降、さまざまなワークショップが開かれてきたわけだが、それとは異なる。トゥデイ・アット・アップルは新世代のアップルストアのコンセプトである「タウンスクエア」に基づいたプログラムだ。アップルのリテール事業の原点といえる構想である。

一般的に電化製品の小売り店というと、価格や製品情報を前面に、製品販売を最大化するようにデザインされているイメージだろう。しかし、アップルストアには最初からスタッフに販売ノルマはなく、コミッション制度(歩合制度)も存在しない。“人々の生活を豊かにする場所”がスティーブ・ジョブズの思い描いたものだったからだ。来店者が製品に触れ、スタッフと会話し、サポートを受けたり、使い方を学ぶことを通じて、カタログやネットからでは取得できないものを得る。その体験が、ひいてはアップル製品のリピートにつながる。

モバイル時代になってネットで情報を集め、ネットで買い物を済ませるのが当たり前になり、販売店として実店舗の存在意義が問われるようになった。アップルによるとストアを訪れる人の約8割が事前にWEBサイトで製品について調べており、来店者の多くは製品情報の説明を必要としていないのだという。それよりも製品を実際に使ってみたり、サポートやアドバイスといったことを求めているということだ。

だから、アップルはストアの原点に戻り、タウンスクエアという「公共広場」をイメージさせるコンセプトで2016年からストア改革に乗り出した。ストアもアップルの体験の一部であり、同社はアップルストアを「最大のプロダクト」と表現する。その街にある意義、人と人が交わる場所としての機能とデザインを盛り込んだ建物がハードウェアなら、店内での体験がソフトウェアであり、その中核を担うのがラーニングプログラムのトゥデイ・アット・アップルなのである。

製品やサービスの使い方を教えるワークショップも、今やネットに情報があふれ、自宅で受けられるオンライン講座だって簡単に見つけられる。知識を得たり、学ぶためにわざわざ外に出かける必要はない。しかし、創作は1人でやり続けるものではない。ちょっとしたテクニックやアイデアを交換したり、誰かと協力して大きなプロジェクトに挑戦、または作品を見せ合うといった交流が楽しく、刺激になる。トゥデイ・アット・アップルは、そうしたネットからでは得られない人と人が交流する価値にフォーカスしている。

テクノロジー企業によるワークショップというと、エンジニアのような講師が登場してアプリケーションの使い方をあれこれと教えてくれるイメージだと思う。でも、アップルにそれは当てはまらない。トゥデイ・アット・アップルは学校ではない。たとえるなら、好きな部活やサークルに参加するのに近い。

リニューアル後のToday at Appleのトピックは、「写真」、「ビデオ」、「音楽」、「コーディング」、「アート&デザイン」、「ヘルス&フィットネス」の6つ。写真とビデオが別々のトピックとなり、ヘルス&フィットネスが新たに加わった。

基本からスキルアップ

トゥデイ・アット・アップルの新しいセッションは58本。基本コンセプトはそのままに、「スキル」「ウォーク」「ラボ」の3つのフォーマットで提供される。

「スキル」は、基本的なテクニックや知識を学べるセッション。誰でも楽しめるが、特に初心者に最適だ。たとえば、音楽作りに興味が湧いたのにガレージバンドを開いただけで挫折したという人は、音楽関連のスキル・セッションを取ると、わずか30分の間にガレージバンドを使う楽しさを実感できる。

「ウォーク」は、クリエイティブプロと呼ばれるスタッフとともに、iPhoneやiPadを持ってストアの外に出て、街や自然の中で、写真、ビデオ、ドローイング、音楽、フィットネスの知識やスキルを実践的に学ぶ。“散歩形式”はこれまでのトゥデイ・アット・アップルでもっとも人気が高く、新セッションにおいて規模が拡大された。

「ラボ」は、プロジェクトに挑戦しながらテクニックや知識を深める。楽しみながら学ぶスキルやウォークに対して、さらに理論に寄ったセッションだ。著名なアーティストやクリエイターとともに作り上げたセッションが数多く用意されている。

トゥデイ・アット・アップルには新しいことに挑戦したくて参加する人が多いが、もっとスキルアップできる仕組みを求める声も挙がっていたため、スキルとラボを発展させた。新しく何かを学ぶ場合、スキル、ウォーク、ラボと進めていくと、基本、応用、上達とスキルアップしていける。また、ウォークとラボの拡充によって、アップル製品やソフトを使い慣れたユーザが楽しめるセッションの幅が広がった。

どこでも同じ体験を

新しいセッションはグローバル規模で、すべてのストアで提供される。そして、どこのストアでも同じ体験ができる。サンフランシスコの旗艦店でも、地方のモールの中のストアでも、日本のストアでも、セッションの質は変わらない。開発チームはすべてのストアで同じ内容で行えることを念頭にセッションをデザインし、そして何度もリハーサルを重ねて再現性を確認した。そうして完成したトレーニングマテリアルに従って、今は世界中のストアスタッフがリハーサルを繰り返している。同じような質でセッションを提供できるまで、トレーニング期間は3カ月にも及ぶという。ハードウェア面では、巨大スクリーンを備えていない店舗があるが、それも順次リニューアルし、数年後にはストア環境による差も解消する。

そして、もうひとつ。新しいセッションは参加者全員が満足するようにデザインされている。たとえ平均評価が高くても、楽しめなかった参加者が1人でもいたらプログラムの目的を満たさない。いくつかの新セッションに参加してみたところ、年齢も異なる初対面の人たちと学ぶのは緊張するものの、セッションが始まったらすぐに打ち解けられ、自然と内容を深めることができた。セッションは30分から90分。短い時間で学べることは限られる。だが、終わったときに参加して良かったと思えた。“継続していく意欲”という、知識やテクニック以上の大きな収穫を得られるだろう。 (文/山下洋一)

映像作家ザック・キングと共同開発したセッション「ビデオラボ=小さなスクリーンで魔法を起こそう」。ジャンプカット手法を学び、参加者は3人グループで「クリップス(Clips)」を使ってトリックビデオを作る。

「ミュージックスキル=GarageBandでドラムパターンを作ろう」は、ガレージバンド(GarageBand)のビートシーケンサーでドラムパターンを作成する。ガレージバンドに触ったことがない人でもデジタル音楽の楽しさを実感できるスキル・セッション。

タウンストア構想によるストア改革を導いてきたリテール担当シニアバイスプレジテントのアンジェラ・アーレンツ氏、トゥデイ・アット・アップルの新セッションをリリースしたあと、4月にアップルを退社することを発表した。