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会話のバリアを取り除く「Ava」の解答

著者: 三橋ゆか里

会話のバリアを取り除く「Ava」の解答

ロサンゼルスにしては珍しく雨続きで、家にこもる日が多かった1月。おかげで、長らくウォッチリストに入っていたラブコメディ映画「フォー・ウェディング」を観ることができました。主役のチャールズ(ヒュー・グラント)の弟は耳が不自由で、2人が手話を使ってやりとりするシーンが度々登場しました。

手話ができる兄との会話は、いたってスムース。その輪にもう1人くらい加わっても、兄が弟のために手話で通訳することで会話は成り立ちます。でも、現実世界では、耳の不自由な人のすぐ横に手話ができる人がいることのほうが稀。ましてや、大勢が参加するグループの場合、1人の通訳者がすべての会話を追うことは不可能に近いはずです。

テクノロジーがコモディティ化するこのご時世、どんな課題にも何らかソリューションが存在するはず。そう思って調べてみると、案の定、役に立ちそうなアプリがありました。サンフランシスコ発の「Ava」です。

iOSまたはアンドロイドのスマホアプリと、内蔵のスマートフォンのマイクがあれば利用でき、使い始めるにはまず参加者全員がアプリをダウンロードして簡単なプロフィールを登録します。そして、各自がスマホを近くに置いて発言すると、Avaが音声認識してその内容を文字に起こしてくれるのです。

チャットを思わせるインターフェイスに、各自の発言内容が時系列に流れてきます。耳が不自由な参加者は、そこに直接文字を入力することで会話に参加することも可能。また、たとえばスタバで注文する際など手話が使えない相手との一対一の会話でも、スマホを相手の口元に持っていくことでAvaを活用することができます。

2014年にクラウドファンディングサイト「Indiegogo」で資金調達をして始動したAva。キャンペーンは、目標調達額の161%にあたる約435万円(1ドル100円で換算した場合)を集めました。その後2016年に、ベンチャーキャピタルなどから総額1.8億円の調達に成功しています。

健常者に比べて、耳が不自由な人は唇の動きから会話を読み取る能力に長けている印象があります。ところが、そんな彼らでさえ、その正確さは20%にとどまるとか。相手の表情やボディランゲージ、会話の文脈に頼る部分が大きいためです。そもそも唇の動きを読み取るためには、相手が目の前にいる必要があります。たとえば、同じ家の違う部屋にいたり、夜や暗い室内など相手の顔がよく見えない場合は問題外。Avaが、そんな不確かだったコミュニケーションをぐんと正確なものにしてくれるのです。

Avaを創業したのは、現在CEOを務めるThibault Ducheminさん。Avaを開発する前は、人が手につけることでジェスチャーを文字に起こす手袋を開発していたことも。当時から、耳が不自由な人とそうでない人とのコミュニケーションを後押しする目的で活動していました。というのも、彼の家族は彼以外、全員耳が不自由。そんな家族と長年同じ屋根の下で暮らすことで多くの課題を実感していました。その中でも、もっとも切実で早急な解決を必要としていたのが、耳の不自由な人が“グループでの会話”に参加することだったのです。

フリーミアムモデルのAvaは、1カ月5時間までの利用は無料。月額29ドルのプレミアム版なら無制限で利用できます。さらに、企業などより大人数に対応する月額99ドルのプロ版もあります。正式リリースから2年強で、現在Avaは20ヵ国のユーザに活用されています。

Ava

【URL】https://www.ava.me

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp