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「Apple 仙台一番町」が閉店した本当の理由

著者: 氷川りそな

「Apple 仙台一番町」が閉店した本当の理由

2015年12月10日に東北エリア初の直営店としてオープンし、13年にわたって地域のファンに愛され続けていた「Apple 仙台一番町」が閉店した。一見、直営店ビジネスの衰退を示すようなニュースに思われるが、これによりアップルの投資戦略に基づく新たなロードマップを読み取ることができる。

杜の都へ別れ

去る1月25日、宮城県仙台市にあったアップルストア「アップル仙台一番町」が、その13年以上の歴史に幕を閉じた。国内では2016年の「アップル札幌」に次ぐ事例であり、これをもって北日本エリアに直営店がなくなったことを意味する。

折しも月初には、アップルが「ティム・クックからアップルの投資家への手紙」と題したプレスリリースを発表し、当初の売上高目標の大幅な下方修正を明かしたばかりだ。株価もここ数カ月で30%も下落しているなど、アップルに関する暗いニュースが続く中での先のストア閉店の一報のため、「日本でもアップルは衰退していくのか」と一抹の不安を抱える読者諸氏もいるだろう。

しかし、本件に関しては事情が別のところにあるようだ。アップル仙台一番町が店を構えていた仙台一番町一番街商店街「ぶらんど~む(VLANDOME)」は、宮城県下のみならず東北地方でも有数のトラフィック量を持つアーケード街である。エルメスやカルティエ、ルイ・ヴィトンなどが集中するいわゆる“ブランド街”などにも隣接する。

これだけを考えれば非常に好条件の立地だが、実際に確保できたアップル仙台一番町の店舗スペースは、お世辞にも十分と呼べるものではなかった。その構造も特殊で、間口は約7メートルほどと狭く、それでいて奥行きは約32メートルという“鰻の寝床”と呼ぶべき物件だ。このようなフロアでは、近年アップルストアが推し進めている「タウンスクエア」コンセプトに基づいた改修工事を行うと設計上無理が生じる。

もちろん、もっと広い場所に移転するというプランも検討していただろう。だが、アップルが直営店をオープンする場所の条件は厳しく、トラフィック量が高いだけでなく「ハイブランドエリアに隣接」「路面店」といった項目もクリアしなくてはならない。アップル札幌が「一時閉店」としながら未だに再開のアナウンスがないのも同様の理由のはずだが、ことアップル仙台一番町に関しては先々の仙台市の都市計画などを検討した結果断念し“閉店”と明言したと推察する。

選択と集中を図る

一方で、アップルの直営店ビジネスそのものは継続して進められる。ワールドワイドでの新規オープンはとどまることを知らず、現時点で25カ国、500店舗以上にまで出店数を拡大している。特に近年ではシンガポールや台湾、韓国にタイと、アジア地域の開拓が進んでおり、昨年オープンした「アップル新宿」や「アップル京都」も該当する。

今後も日本を含むアジアへの積極的投資は続けていくはずだが、中国の位置付けは特別なものになるだろう。事実、売上高を減少させた原因の多くは中国本土での購買不振であり、一方でマレーシアやベトナムなどでは過去最高の記録を打ち立てているからだ。

こと日本市場は、2020年の東京オリンピックなどによる「インバウンド需要」の増加が予想できる。中心となる東京はもちろんのこと、観光名所の多い東海や関西、そして新たな“玄関口”として成長を続ける福岡といった地域は世界でも有数の経済成長が見込めるはずだ。

アップルの国内における投資戦略はこれに基づいたものなのだろう。アップル公式WEBサイトにある採用ページも更新されており、神奈川県(川崎)だけでなく都内(東京駅周辺)に新たにオープンするスタッフの募集も始まったため、年内に最低でも2店舗増えるのは間違いない。

既存店舗のタウンスクエア化も同様で、昨年リニューアルした「アップル渋谷」に引き続き、まもなく「アップル福岡天神」がより大きな自社ビルの店舗へと移転、さらには「アップル銀座」や「アップル名古屋栄」も同様に準備が進められているという情報もある。

アップルストアの東北エリアからの撤退は残念な話だが、単なる小売店、ブランドショップというイメージから、“コミュニケーション拠点”になるために、アップルストアはこれからも成長を続けていく。

photo●apple.com