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充電のことを考えなくていい日はやってくる?

著者: 牧野武文

充電のことを考えなくていい日はやってくる?

読者の中には、常にカバンにモバイルバッテリやACアダプタなどの充電キットを入れて持ち歩いている人もいるだろう。iPhoneでもMacでも、バッテリがなくなると生活に支障が出てしまうからだ。私たちはいつまで、充電のことを気にしながらデバイスを使わなければならないのだろうか。これが今回の疑問だ。

ワイヤレス充電器、使ってる?

皆さんはいまだにライトニングケーブルを使ってiPhoneを充電をしているだろうか。iPhoneは、8/8プラスからワイヤレス充電規格・Qi(チー)に対応している。Qiは「ワイヤレス」とはいっても、電磁誘導方式なので、基本的には充電パッドと密着させる必要がある。距離があっても充電ができる磁界共振方式もQi規格に採用されているものの、現在のところその距離は40ミリ程度。離れた場所にあるデバイスに充電するというよりも、ポイントがずれているときにも充電できるという補助的な役割にとどまっている。

実際に使うとわかることだが、ワイヤレス充電の充電スピードは決して速くない。また、ワイヤレス充電時にはバッテリが充電と放電を同時に行うため、ケーブル充電よりわずかながらバッテリの劣化が進んでしまうとも言われている。これを聞くと、「充電パッドの上に置くのもライトニングケーブルを挿すのも、手間はさほど変わらない」と、あまり興味が湧かない方もいるだろう。

置き場所が決まると人の習慣が変わる

しかし、スタンドタイプのワイヤレス充電器を買ってみたところ、iPhoneの使い方が変わることがわかった。人間は不思議なもので、充電台という「iPhoneの定位置」ができると、自然とそこに置くようになる。家の中で、「iPhoneをどこに置いたっけ?」と探すこともなくなったし、どこかに置きっ放しにしてバッテリがゼロ近くになっているということもなくなった。充電ケーブルはカバンに入れっぱなしでよくなったので、外出時に充電ケーブルを持つのを忘れるということもなくなった。充電スピードはゆっくりだが、家に帰ってくると充電台に置く習慣ができたので、速度も気にならない。「置く場所ができる」という単純なことで、人の習慣が変わり、充電周りの煩わしさが少なくなる。

また、モバイルバッテリの場合は、多くの人が容量の大きなものを買い求めると思うが、最近登場してきているACプラグ付きのモバイルバッテリも同様に人の習慣を変えてくれる。デバイス用のACアダプタを持ち歩かなくてよくなるのだ。モバイルバッテリをACコンセントに挿し、USB出力に充電ケーブルを挿すだけでいい。ACコンセントがない場合はモバイルバッテリとして使うことができる。

モバイルバッテリは、その日使ったら自宅で充電しておく、という使い方をしている人が多いと思うが、ACプラグ付きのモバイルバッテリはACコンセントに挿しておけば充電できる。つまり、カフェなどでAC電源として利用いると、そのまま充電も完了するということだ。これもカバンの中に入れっぱなしにしておくことができるので、持って出るのを忘れるということがなくなった。

特に出張の多い人は、持ち物の数を減らすことを考えるべきだ。充電ケーブルをホテルに忘れてしまうというのはよくあることだし、忘れないように気を使う心理的負担も減る。

スマホから給電!ファーウェイの試み

中国の携帯メーカー「ファーウェイ(HUAWEI)」が、Mate 20 Proというスマホに面白い機能をつけた。Qiに対応したのだが、ワイヤレス充電ができるだけでなく、ほかのQi対応機器に給電することもできるのだ。つまり、スマホをQi対応モバイルバッテリの代わりとして使うことができる。スマホのバッテリはさほど大きな容量があるわけではないので使い時が難しいが、イヤフォンや電子ペンといった小物を充電することを想定しているのかもしれない。もちろん、ほかのスマホを充電することもできる。

一方で、Qi対応のモバイルバッテリも続々と登場してきている。これでACプラグ付きのQi対応モバイルバッテリでも登場したら、日常におけるバッテリ切れの不安はほとんどなくなるといっていいだろう。

アップルが構想する充電の未来

同様のことは、アップルもより洗練された形で考えているようだ。2016年4月に、アップルは「Inductive Charging between Electronic Devices」という特許を申請している。どのような特許かは、本誌読者であれば図を1枚見ればわかるだろう。さまざまなデバイス間で、本体の上に置くだけで充電ができるというものだ。

今、多くの読者がMacBookやiPhone、アップルウォッチ、エアポッズ(AirPods)あたりを持ち歩いているだろう。現在は、それぞれ別々に充電をしておかなければならない。それが、この特許によると、MacBookやiPadをモバイルバッテリとして利用できるようになる。コンセントが得られる場所では、MacBookをACコンセントで使うようにしておけば、ほかのデバイスの充電のことはほとんど考えなくてよくなる。

また、4メートルから5メートル離れていても充電できる給電システム「WattUp」が、遠隔送電技術を利用した民生品として米国の連邦通信員会の承認を受けた。ネットでは、アップルがWattUp開発元のエネルガス(Energous)とパートナーシップを結ぶでのはないかと話題になっている。

WattUpは、Qiのような充電方式とは異なり、発信された電波を受信することで充電する技術。出力が小さいと充電効率が小さく、大きくすると人体やほかの機器への影響が出てしまうことが技術的課題になっている。

さらに、Wi−Fi電波を使って充電するというPowerOver Wi-Fi(poWi-Fi)技術の開発も進んでいる。これが自宅やオフィスに導入、さらにカフェなどにも採用されれば、もう充電ということをまったく考えなくてよくなる。もちろん、WattUpと同じで、充電効率や人体への影響などが大きな技術課題になる。

現在は特に、IoT機器が爆発的に増加している。IoT機器への給電の必要性がさらに増すことからも、ワイヤレス給電技術が大きく注目されているのだ。もし、このような本格ワイヤレス技術が利用できるようになるのであれば、充電効率は悪くても実用性は高い。自宅やオフィス、カフェでは常に充電状態で使えることになり、急速充電の必要性は薄くなる。さらに外出するときも、モバイルバッテリや充電ケーブル、ACアダプタを持ち歩く必要がなくなり、普及すればデバイスのバッテリもごく小容量のもので済むようになる。そんな社会がやってくるかもしれない。

何かと話題のテスラ・モーターズのネーミングの元になった発明家、ニコラ・テスラは、1905年にニューヨーク州ロングアイランドに、ウォーデンクリフタワーという高さ57メートルの奇怪な電波塔を建設した。ここから電波を放射することにより、世界中に給電をし、「フリーエナジー社会」を実現しようとしたのだ。その結果は、電力を使いすぎてロングアイランド一帯を停電に陥れただけだったが、テスラが夢想したフリーエナジー社会実現までもうあと一歩。そんなところまで、テクノロジーは進んできているのだ。

Qiの充電台を使うと、iPhoneの定位置ができて自然とそこに置くようになる。個人的にはスタンド型がおすすめ。スタンド状態でムービー再生なども楽しめる。写真は「Anker PowerWave 7.5 Stand」。

今モバイルバッテリを買うなら、ACプラグ付きのものを選ぶといいだろう。デバイス用のACアダプタを持ち歩かなくて済むようになるからだ。写真は「Anker PowerCore Fusion 5000」。

HUAWEIのMate 20 Proは、スマホ自体がモバイルバッテリになる機能を搭載した。図のようにデバイスを重ね合わせることで充電が開始されるのだ。(https://consumer.huawei.com/jp/phones/mate20-pro/

Appleは、MacBookやiPadからワイヤレス充電できる仕組みの特許申請を行っている。上に置くだけで、iPhoneやApple Watchを充電できるようになる。「Inductive Charging Between Electronic Device」(WO 2016 /053622 A1)より引用。

Qi対応のモバイルバッテリも発売されている。iPhoneと重ねるだけで充電できるので、外出時の充電ケーブルが不要になる。写真は「TSUNEO モバイルバッテリー 10000mAh」。

1905年、発明家、ニコラ・テスラが夢想したフリーエナジー社会が、実現一歩手前まできている。Photo/Nesnad

文●牧野武文

フリーライター。「iPhoneはもはや成熟して、これ以上の進化は難しい」とよく言われる。しかし、充電についてはまだまだ進化の余地がある。アップルも関連した特許申請をするなど、充電を大きなテーマにしている様子がうかがえる。これからの動きに期待したい。