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Why not Mac?「 Employee Choiceの価値」

Why not Mac?「 Employee Choiceの価値」

与えているのではない、選ばれているから価値がある

アップルのビジネス向けのWEBサイトが更新され、「アップル・アット・ワーク(Apple at Work)」のプログラムがスタートして1年が経過しようとしている。国内においても、アップルのチャネルパートナーを通じて、本プログラムの展開が本格的に始まる段階だ。アップル・アット・ワークとは、シンプルで直感的に使うことができ、セキュアで簡単に導入できるアップルデバイスを、ビジネスの現場でも活用するためのプログラムである。従業員の生産性を高めるだけでなく、従業員が使い慣れたツールを使うことで、意欲の向上、当事者意識の芽生え、ロイヤリティの向上などのメリットを得られるものである。

現代の従業員の働き方はあらゆる役割が「ナレッジベース」に変わってきており、組織構造に束縛されず、より自立することが求められている。また、モバイルの普及により、常につながり、どこでも仕事ができ、他社とのコラボレーションや豊富な情報&データを共有しながら、その場で意思決定ができる状態も望まれている。

このようなニーズに対して、職場全体で従業員がアップルデバイスを最大限に活用できるようにするのが、「選択制(Employee Choice)プログラム(Employeeは従業員という意味)」である。業務で利用するIT機器を従業員が選択可能になることは、企業の競争力を維持することにもつながるほか、企業文化にまで良い影響を与える。たとえば、人事や採用部門では有能な人材を惹きつけ、定着させるために活用できるのだ。選択制プログラムを実現するには、日頃からIT部門が社員に対して、テクノロジーをどのように提供しているか、活用方法をどのようにサポートしているか、IT部門の姿勢を根本的に変える必要がある。

企業内におけるiOSデバイスの浸透により、アップルデバイス導入の障壁は下がってきている。モバイルデバイス管理(MDM)によるワイヤレスな管理によって、導入時のプロビジョニングやアプリの配付、運用時のセキュリティ対策も容易になった。さらにアップル・ビジネス・マネージャ(Apple Business Manager)のDEP(Device Enrollment Program)とMDMの連携によるゼロタッチ展開を採用することで、導入時のキッティング工数を大幅に削減することが可能だ。このiOSデバイス導入の成功体験を元に、Macでも同じ方式を採用することができる。

現に、Macの企業導入は加速している。海外の事例としてはIBMやSAP、キャピタル・ワンのような企業が、iOSデバイス同様のユーザ体験や、Macの市場残存価値、ソフトウェアコスト、管理コスト、サポートコストといったPC導入時のTCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)がウィンドウズパソコンと比較して低いことなどを理由に、Macを採用した。また、アップルデバイス向けに統合デバイス管理システムを提供するJamfが行った調査レポートで、従業員のほぼ4人に3人が職場でウィンドウズパソコンよりもMacを使いたいと答えていることも、他の企業がMac導入を検討する後押しとなっている。

しかし、ここで重要なのは、Macを従業員に与えることではなく、従業員が望む環境をいかに提供できるかだ。Mac導入を検討するうえでもっとも大事なのは、従業員が選択できる環境をなぜ提供しなければならないかをよく考えることだ。企業におけるMac導入は一過性の流行ではなく、一人一人が自分の好むデバイスで仕事に取り組むことが、もっともパフォーマンスを発揮でき、企業の成長や競争力に貢献できるからである。

その目的を見誤らなければ、これまで企業内でIT部門が対応することができなかったMacを既存のシステムと統合したり、ウィンドウズパソコン中心に作られてきたセキュリティ基準と同等にMacを管理することなども、大きな壁に感じることはないはずだ。

TOPIC 1

Apple at Workとはどんなプログラムか

従業員の能力を引き出すために

アップルは常に人々が望んでいるデバイスやサービスを作り続けてきた。それはコンシューマの分野だけでなくビジネスの分野にも当てはまる。アップル・アット・ワークは、ビジネス分野の中でも比較的多くの従業員を擁する法人ユーザ(大企業・中堅企業・官公庁)を対象に、アップル製品の調達・導入・サポートを円滑に進めるためのプログラムだ。

このプログラムの計画や実施、導入後のサポートに直接関わるのはIT(情報システム)部門や総務の担当者であるのが一般的。しかし、組織の意思決定を担う経営層はもちろん、従業員もその仕組みの理解を深めておくことが重要だ。なぜなら実際にアップルデバイスで仕事の生産性をアップできるかどうか、働くことへのモチベーションを高められるかどうかは紛れもなく一人一人の従業員の受け取り方次第だからだ。

同プログラムは会社から与えられたデバイスを唯々諾々と使わせるためのガイドラインではない。アップルはこれまで培ってきたユーザ体験を重視する姿勢やクリエイティビティを発揮する環境を、企業の従業員に向けて提供しようとしている。この本質さえ押さえておけば、アップル・アット・ワークについてもその大きな枠組みや狙いが理解しやすくなり、あなたのオフィスでもアップルのテクノロジーを自らの意志で選び取ることができるようになるはずだ。

とはいえ、IT部門の人間でもアップル製品のビジネス導入について詳しく知っているのは少数派だろう。アップル・アット・ワークではこのビジネス導入にまつわるリソースが専用のポータルサイトにまとめられているので、ここを確認して基礎知識を整理しよう。

たとえば[製品とプラットフォーム]のページでは、iPhone、iPad、Macというデバイスが、いかにビジネスと好相性なのかが書かれている。特にiOSデバイスのタッチやスワイプといった操作が新しいアプリなどでも共通して使えること、搭載されているプロセッサが拡張現実(AR)や機械学習など最新のテクノロジーに対応していることなどはチェックしておきたい。

また、フェイスIDやタッチIDなどOSレベルでのセキュリティは、法人用途では必須の要件と言える。そのほか、マイクロソフト・オフィスやエクスチェンジ(Microsoft Exchange)、シスコのワイヤレスネットワークとの連係など、既存のIT資産を活用できることも示されている。こうした柔軟性は、選択制プログラムの実施とも大きく関わってくる。ゼロベースで業務システムを作り直すことなく、従業員が望む最適なデバイスやサービスを導入できる環境はすでに整いつつあるのだ。

この選択制プログラムのガイドはPDFでも配布されている。さらに、アップルデバイスの導入やコンテンツの購入・配布等に必要な「ABM(Apple Business Manager)」についての解説や、さまざまな技術リファレンスもリンクされているので、導入前に目を通しておきたい。

●Apple at Work

Apple at WorkのWEBページ。Apple製品の特徴やソリューション、成功事例等がまとめられており、Apple製品を企業導入するうえでは必ずチェックしておきたい。【URL】https://www.apple.com/jp/business/

●Apple Business Manager

「Apple Business Manager(ABM)」は、Appleが企業向けに用意しているWEBベースの管理者向けポータル。DEPやVPP、MDMの登録作業などを行うことができる。

●Employee Choiceガイド

IT部門向けの「Employee Choiceガイド」もPDF形式で配布されている。準備から実施、運用までのワークフローなどもコンパクトにまとめられており、一読の価値がある。【PDF】https://www.apple.com/jp/business/resources/docs/Employee_Choice_Guide_for_IT.pdf

●Apple School Manager

教育機関向けには「Apple School Manager(ASM)」が提供されている。管理者はメンバーやデバイス、コンテンツの一元管理、DEPやVPPへの登録が行えるようになっている。【URL】https://school.apple.com/

TOPIC 2

従業員選択制が求められる理由

会社支給やBYODを超えて

企業がコンピュータを導入してきた歴史は半世紀を超える。当初はコンピュータ自体が高価なもので、個人が所有するのが難しかったという時代背景もあり、90年代のパーソナルコンピュータ普及後も業務用途でのシェアが高いウィンドウズPCを導入する「会社支給」には合理性があった。

だが、近年の技術革新による製品価格の低下や、iPhoneやiPadの登場はこの状況を大きく変えた。今では最先端のデバイスは一般消費者の手元にあり、従業員もまた消費者である以上、普段使い慣れているデバイスを業務でも使いたいと考える。

そこで、自分の所有するデバイスを業務でも利用可能にする「BYOD(Bring Your Own Device)」が生まれた。柔軟性の高さや運用・習熟コストの低さが大きなメリットとして挙げられる一方で、個人と会社の費用負担の配分や運用ポリシー制定の難しさ、管理の不徹底によって業務システムに未登録デバイスが接続される「シャドーIT」、情報漏洩に直結するセキュリティ上のリスクなどが顕在化し、国内の企業では浸透することはなかった。

こうした問題を克服するために現在注目されているのが、デバイスを企業側が調達して支給するものの、従業員がデバイスを選択できるようにする「CYOD(Choose Your Own Device)」(選択制プログラムと同意)である。デバイス自体は市販されているものと同じなので、会社から支給されたデバイスをプライベートでも使えるようにするケースも多い。なお、企業がデバイスを指定しつつプライベート利用を一部許可する「COPE(Corporate Owned Personally Enabled)」やBYODとCYODのハイブリッド運用もある。

●BYODとCYODの比較

BYOD、CYODのそれぞれにメリット・デメリットがあるが、従業員の満足度を維持しつつ企業としてのデバイス管理を実現するにはCYODが最適な選択肢と言えるだろう。

TOPIC 3

成功しているMac導入事例

大きな効果が出ている海外の導入事例

アップル・アット・ワークにおける従業員選択プログラムの成功事例としてよく知られているのが、米金融大手のキャピタル・ワンだ。クレジットカードと銀行業務を手がける同行は全米で812支店を構え(2017年時点)、勤務する従業員すべてがアップル製デバイスを業務で選べるようになっている。同社のチーフエンタープライズオフィサーのFrank LaPrade氏は、「データとテクノロジーによって顧客の資金運用を支援するためには、まず従業員の成功を支える環境が必要だった」とビデオの中で導入の目的を述べている。いわゆるIT専業ではない同銀行が、従業員のパフォーマンスを発揮するためにアップル製品の可能性をいち早く見出した点は、他の業種においても大いに参考になるだろう。

また、エンタープライズの代名詞とも言えるIBMも、2015年より独自の従業員選択プログラム「Mac@IBM」を開始している。実施から半年の時点で、日本を含む全世界のオフィスで13万台のMac/iOSバイスが導入され、この数は今後も増やしていく方針だという。さらに、IBMは「Mac@IBM」を実施するにあたり、社内ヘルプデスクへの問い合わせはPCユーザが40%であったのに対し、Macユーザはわずか5%であったことを発表するなど、アップル製品の利便性の高さを裏づける結果も公表している。

●金融機関の業務を変革

キャピタル・ワンは銀行業務の変革のためにiPhone、iPad、Mac、Apple Watchを導入し、全従業員が慣れ親しんだこれらのデバイスを選択して利用できるようにした。

●Mac@IBMはオープンソースに

教育機関向けには「Apple School Manager(ASM)」が提供されている。管理者はメンバーやデバイス、コンテンツの一元管理、DEPやVPPへの登録が行えるようになっている。【URL】https://school.apple.com/

TOPIC 4

Mac導入の効果と選択制の進め方

組織の変革を実感できる

アップルの「Employee (選択制)Choice」ガイドでは、どのようにプログラムを成功に導くかの重要な点が記載されている。まず、選択制のメリットとしては、「企業が競争力を維持するには、仕事に最適なツールを社員に提供することが非常に重要」と前置きしたうえで、①生産性のアップ、②意欲の向上、③当事者意識の芽生え、④社員の定着とロイヤリティの向上がもたらされると記されている。

ただし、こうした効果は、単にMacを従業員に配付すれば現れるものではない。選択制プログラムを実現するにあたり重要なのは、これまでIT部門が主導してきた一連の導入プロセスを見直すことから始まる。IT部門のみならず、人事や財務、 購買、情報セキュリティ、そして現場といった社内の各部門において、ツールの選定や調達、テスト、配付、サポート、効果測定といった各フェイズでどのように連携していくのか。これまでの管理側視点のテクノロジー導入から、エンドユーザ(従業員)を中心とする導入へいかに変えるのかを検討する必要がある。同様に、当事者である従業員にもまた、ステークホルダーであるという意識改革が求められる。

そのため、自社のユーザ視点で課題がないかどうかといった検証では、場合によって新入社員、中堅、ベテランといったそれぞれのユーザインタビューや小規模なテスト運用、シナリオ別の導入シミュレーションといったプロセスを踏むことも必要だろう。また、選択肢が増えたことによりサポート体制も各プラットフォームに対応できる体制を整えておく必要もある。選択制プラグラムを実施するためのワークフローの一例を左に記したので参考にしてほしい。

大規模な選択制プログラムの導入は容易とまでは言えないが、テクノロジー基盤の整備によって全社的にもたらされる効果は決して小さくない。将来を見据えた組織の競争力強化のためにも、アップル製品導入に取り組むべき時期が今まさに来ている。

●「選択肢」がもたらす効果

2013年に米国最大手の建設会社Genslerで行われた調査によると、従業員に利用するデバイスの選択肢を提供することで仕事に対する満足度が向上する可能性が示された。図は、Appleの「Employee Choiceガイド」より。

選択制プログラム実施のワークフロー例

?準備

・プログラムの目的を設定し、選択制の導入の意義を共有する

・プロジェクトリーダーを選任し、プロジェクト運用チームを編成する

・目標の設定と実現するまでのロードマップと中間指標となるマイルストーンを定める

?テストの実施

・小規模に試験的な運用を行い、既存のインフラとの互換性などを評価して課題を見つけ出す

・セキュリティ担当者と社内で運用する際のセキュリティ機能の評価

?ツールの選定

・MDMなど他社製管理ソリューションの機能や価格などの評価と検討

・管理チームによるツールの選定と運用ポリシーの策定

・さまざまなシナリオに基づいた導入ワークフローをテスト

?サポート体制の構築

・Mac、Windowsともに利用できるサポートページなどの作成

・ディスカッションフォーラムの設置や勉強会など継続的に行える学習機会の提供

?プログラムの実施

・選択制プログラムを実施する。返品ポリシーなどを定め、従業員の納得度を高める工夫を行う

?効果測定

・デバイス配布後に行う従業員満足度調査

・一定期間使用後の従業員のデバイス利用状況の調査

・従業員サポートの利用率などの測定

Yes, Mac

★従業員の生産性、満足度、ロイヤリティ向上などの観点から、これから国内でも選択制プログラムの導入が増加する。

★iPhoneやiPad導入と同様に、Macでも効率的かつシンプルに展開できる環境がすでに整っている。

★Appleは「Apple at Work」という企業導入促進ページを公開。成功に導くための方法論が書かれている。

★海外ではMac導入事例が増加。費用対効果が高く、サポートにかかる時間が短いなど、Macはコスト面でもメリットがある。

??次回の話題は「Macの良さとは何か」です。

福田弘徳

企業や教育機関向けのアップル製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple