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未来を生み出すのは技術ではなくデザイン

著者: 林信行

未来を生み出すのは技術ではなくデザイン

ジョナサン・アイブ│アップルの動向に関心のある本誌読者なら、今さら説明は不要だろう。アップルの最高デザイン責任者だ。スティーブ・ジョブズはアップル復帰後、先行きに不安を感じ、しばらく経営に関わるのを拒んでいた。しかし、アイブとの出会いでアップルの未来に希望を抱き、経営トップに返り咲いた。その後、2人は、アップルをデザイン主導で物をつくる組織へと生まれ変わらせた。

新生アップルの最初の製品は21年前の初代iMac。ジョブズはこれを「まるで別の惑星からやってきたようなパソコン。いいデザイナーのいる惑星」と紹介した。技術レベルで言えば、同様のパソコンはインテルも提案していた。しかし、3ステップでインターネットにつながり、机の上に置いたときの設置面積も前後12センチ。そうなるべくブラウン管の形にあわせた卵型で、その形を優先したためにメイン基板は半円形。こんなパソコンはデザイン主導の会社以外からは出てこない、という形だった。その後、たくさんモノマネ品が出てきたが、真似していたのは表層だけだった。

iPodも同様で、技術的には似た製品がいくらでもあったが、「すべての曲をポケットに入れて持ち歩く」というコンセプトからデザインされたことで、あっという間に携帯型音楽プレーヤの代名詞になってしまった。後続製品の中にも、iPodに匹敵する見た目や使い勝手の製品はついに出てこなかった。

技術は真似できるが、デザインの本質は簡単には真似できない。未来を生み出すのは「しっかりとデザインする姿勢だ」とアイブは私に思い出させてくれる。

そんなアイブを筆者は何度かインタビューしている。中でも1998年夏は思い出深い。初代iMacを発表した直後、本人に直訴して、アップル社員でも普通には入れないIDg(デザイン部門)の建物の中で話を聞けた。

アップル入社前から注目を集めていた筆者と同い年の若手デザイナー(当時)に、パソコンのデザインだけで満足か? 車や、これから重要な携帯電話のデザインに興味がないかも質問した(まさか9年後に、本当に携帯電話をつくるとは…)。当時のアップルは倒産寸前の状態から挽回し始めた頃。アイブも「今はアップルの財政状態を安定させるためにiMacに集中したい」と答えていた。

好きな日本人のデザイナーについても質問をした。答えは即答で、深澤直人さんだった。実は深澤さんは、IDEOというデザイン会社の初期のメンバーで(当時はID TWOという名前だった)、この2人は一緒に「20周年記念Mac(コード名:スパルタカス)」というMacのデザインをした仲でもあることを、深澤さんから聞いていた。

そして2018年末、アイブを20年ぶりに取材するチャンスが訪れた。別の雑誌で申し訳ないが、日本を代表する老舗のデザイン雑誌「AXIS」の仕事だ。どうせなら筆者によるインタビューではなく、深澤さんとの対談にできないかと提案したところ、AXIS編集長も同じことを考えていたようで意気投合。30分という短い時間ではあったが、この歴史的な対談が実現した。

この20年、アップルはデザイン主導で、いくつもの画期的な製品を生み出し、素晴らしいイノベーションを起こしてきた。一方で、製品の作り方においても、物凄い革新を続けてきた。アイブは対談の中で、この数年間、心血を注いできた新社屋「アップルパーク(Apple Park)」の建設秘話も明かしてくれた。他誌の宣伝になって申し訳ないが、アップルのデザインに興味がある人は、ぜひともこのAXISは購入して読んでほしい。

筆者はこのデザインにアイブ復活を感じた。実はアイブがAppleに入社して一番最初にデザインしたのもペンの収納のデザインだった(Newton MessagePad 110)。

Nobuyuki Hayashi

aka Nobi/デザインエンジニアを育てる教育プログラムを運営するジェームス ダイソン財団理事でグッドデザイン賞審査員。世の中の風景を変えるテクノロジーとデザインを取材し、執筆や講演、コンサルティング活動を通して広げる活動家。ツイッターアカウントは@nobi。