見事な復活劇
近年はほかのMacシリーズの影に隠れて目立たないものの、Macミニは2005年の登場以降、変わらずに愛されてきた息の長いMacである。これまで15回モデルチェンジを行い、大きなデザイン変更は3回のみ。四角くコンパクトなスタイルは登場時のままだ。
発売当初はアルミニウムにポリカーボネートを組み合わせたボディにPowerPC G4プロセッサを搭載していたが、2006年モデルでインテル化。2009年にサーバに特化したモデルが登場後、2010年に当時のMacBookシリーズが採用していたアルミ削り出しのユニボディを取り入れる大きなモデルチェンジを行った。
翌2011年モデルでは、光学式ドライブを廃したボディ構造を採用。その後もプロセッサや拡張ポート類をその時代に合わせてアップデートし続けていたが、2014年以降、ぱったりとモデルチェンジがストップ。近年は製造終了になるのではないかとも噂される存在だった。それが突然、2018年11月に新モデルが登場。最新スペックを備えたMacとして、見事にリボーンを果たしたのだ。
2005年【Mac mini(Early 2005)】
ローエンドコンシューマ向けに登場した最初のMac mini
ディスプレイやキーボードを廃し、これまでにない小型Macとして登場した最初のモデル。当初はまだプロセッサがIntel化されておらず、PowerPC G4を採用していた。フロントには光学式ドライブ、ハードディスク容量は40GBまたは80GBを搭載。翌2006年、Intel Coreプロセッサを採用したモデルが発売され、以降マイナーアップデートを繰り返していく。
2010年【Mac mini(Mid 2010)】
アルミ製のユニボディにモデルチェンジして薄型化
このモデルからアルミニウム削り出しのユニボディを採用。プロセッサはデュアルコア化し、ACアダプタを使っていた電源も本体内蔵になった。カメラの画像データ保存用として知られるSDXCカードスロットが搭載されたのもこのモデルからだ。サーバ利用としても重宝されたことから、同じ筐体で光学式ドライブを廃した専用モデル・Mac mini Server(Mid 2010)も登場した。
2011年【Mac mini(Mid 2011)】
Thunderboltを初搭載Mac miniデザインの完成形
これ以降続くMac miniの基本形ともなったモデル。光学式ドライブが完全に廃止され、Mini DisplayPortの代わりにThunderboltポートを新たに採用。以降、新しい世代のプロセッサを取り入れ、2012年モデルではUSB 2からUSB 3へと転送速度をアップ。2014年モデルではFireWireを廃止して、従来の2倍の速度になったThunderbolt 2を2ポート搭載した。
2018年【Mac mini(2018)】
4年間の沈黙を破って生まれ変わった最新モデル
2014年モデル以降、久々のモデルチェンジとなった現行モデル。クアッド(4)コアまたは6コアのプロセッサにPCIeベースの高速SSD、最大64GBのメモリを搭載。背面ポート類もThunderbolt 3ポートを4つ搭載するなど最新のものに一新された。従来のコンシューマ向けモデルからプロシューマ向けへの変化を表すように、ボディカラーはスペースグレイになった。
プロユースにも対応できる拡張性を獲得
Mac miniというマシンの価値
2005年の登場以降、Mac miniとはMacカテゴリの中でどんな存在だったのだろう。いくつものアップデートでその価値や立ち位置がどう変化してきたのか、最新アップデートでどんな存在に変わったのかを解説していく。
Macミニ誕生の背景
iMacやMacBookシリーズのようにディスプレイやキーボード、マウスなどが付属していない本体のみのMacミニは、一見するとMacプロのようなハイエンドユーザをターゲットにした存在と捉われがちだ。ところが、最初はまったく違ったコンセプトのもとに誕生した。それは、ウィンドウズユーザをMacの世界に取り込むことを狙った製品だったのだ。
今まで使っていたウィンドウズPCのディスプレイやキーボード、マウスをそのまま使えるので、本体だけをMacに入れ替えれば、すぐに乗り換えできる点が一番の魅力だった。初期の頃はDVI─VGAアダプタが、その後はHDMI─DVIアダプタが本体と一緒に同梱されており、古い規格のディスプレイも接続できるようになっていた。価格も5万円台からと安価であり、手軽にMacを体験できる“入門機”としての役割を託されていたのがMacミニだったのだ。
アップルの戦略は見事に成功し、多くのウィンドウズユーザがMacのプラットフォームへ移行した。また、Macミニは初めの1台としてだけでなく、自分の好きな周辺機器を使える2台目のMacとして、さらにそのコンパクトなボディからサーバ専用機としても活用された。しかし、進化の歴史でも触れたように、それまで1~2年間隔で行われてきたアップデートが2014年モデル以降ストップ。2014年モデルは最新のmacOSモハベをインストールできるものの、プロセッサは第4世代ハスウェル(Haswell)アーキテクチャのまま、メモリも最大16GB止まり、グラフィックスも数世代前のものと、見劣りする内容のままだった。その間、iMacやMacBookシリーズは着実にアップデートされていたため、ここ数年は「Macミニは過去のモデル」という認識が一般的だったように思う。
突如ステージ最前列に
ところが10月30日、アップルのスペシャルイベントで発表されたMacミニの最新モデルは、クアッドコアまたは6コアの最新プロセッサに最大64GBの高速メモリ、PCIeベースのSSDと内容を一新。グラフィックコントローラこそプロセッサ内蔵のインテル UHD グラフィックス630だが、アップルT2セキュリティチップの搭載やギガビットイーサネットの10倍の速度を誇る10ギガビットイーサネットにもオプション対応するなど、最強と呼ぶべき内容に生まれ変わった。
新Macミニは標準モデルで8万9800円~12万2800円という価格帯だが、すべてのハイエンドオプションを追加すると46万3800円まで跳ね上がる。こうした拡張性ゆえに、新Macミニは2013年以降アップデートが停滞しているMacプロの代替としても利用できるようになっている。
さらに、アップルがプロユースできる製品として本モデルを送り出したことは、MacプロやiMacプロのように黒くなった筐体カラーからも明らかだ。登場当時のコンセプトをそのままに、最新技術を搭載してプロまで使えるようになった、最強の“安価なMac”へと生まれ変わったのである。