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自宅でできる遺伝子検査「chatGENE」&腸内フローラ検査「chatFLORA G」。新世代のヘルスケアサービスを提供するKEAN Health代表・山路恵多氏が目指すウェルビーングの未来

著者: 徳本昌大

自宅でできる遺伝子検査「chatGENE」&腸内フローラ検査「chatFLORA G」。新世代のヘルスケアサービスを提供するKEAN Health代表・山路恵多氏が目指すウェルビーングの未来

画像●chatGENE

キャリア形成の多くは、計画されたものではなく、むしろ偶然によって決まる。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ博士が提唱した「計画的偶発性理論」は、まさに現代の働き方や人生観に深く刺さる視点を与えてくれます。

博士は、予期せぬ出来事や偶然の出会いを“機会”に変えるには、柔軟性・好奇心・持続力・楽観性・リスクテイクの5つの特性が必要だと説きました。

こうした考え方を体現するキャリアを歩んでいるのが、株式会社KEAN Health 代表取締役 山路恵多氏です。同社は「ゲノム・遺伝子をもっと身近にする社会をつくる」をビジョンに掲げ、遺伝子検査キット「chatGENE」などのウェルネスプロダクトを展開。個人の体質理解と行動変容を促す仕組みづくりを行っています。

株式会社KEAN Health 代表取締役 山路恵多氏。営業、コンサル、新規事業開発と多彩なキャリアを持つ。

もともと起業家マインドが強かったわけではないという山路氏。彼の現在地は、偶然と選択の連続の中で、自らの意思を持ってそのチャンスを活かし続けた結果だと言えます。

山路氏の原点。「閉じた世界」からイギリス留学へ。在学中には起業も経験

山路氏の原点には、特異な10代の体験があります。彼が中学・高校時代を過ごしたのは、広島にあるキリスト教系の全寮制学校でした。テレビやゲームは禁止、キャンパスの外に出ることも制限された生活は、いわば「閉じた世界」での思春期だったと語ります。

そんな環境で、山路氏の中には「もっと広い世界を見てみたい」という気持ちが徐々に芽生えていきました。そして選んだのが、イギリスへの大学進学。選んだ学校はオックスフォードにある総合大学で、専攻はBusiness and Managementです。

「専攻よりもまず、海外に出たい気持ちのほうが強かったです」と語る山路氏。彼にとってもっとも大きかったのは、「制約のない環境に身を置く」ことでした。

英語はまったく聞き取れず、課題提出にも苦戦。そんな中でも地元のパブに通い、労働者階級のおじさんたちと会話するなどして言語と文化を身につけていきました。日本人コミュニティにはあえて属さず、ギターを片手にオープンマイクに飛び込み、現地の空気を肌で吸収していったのです。

在学中には、友人とフリーペーパーを立ち上げたり、ワインを中国へ輸出するビジネスを試みたりと、小さな挑戦も経験しました。そして、卒業後は海外に残ることを考えつつも、帰国を選びます。




新卒で製薬業界の営業マンに。山路氏が学んだ、ビジネスの現場感と違和感

帰国後、山路氏が選んだのは、フランスの製薬会社サノフィの日本法人でした。留学生向けキャリアフォーラムを活用し、ボストンで就職を決めたといいます。

配属されたのは、希望どおり営業部門。「顧客に最初に触れる現場から始めたい」と考えての選択です。

製薬業界は、山路氏にとって「人の命や幸福に直結するプロダクトを扱える」という意味で非常に魅力的でした。一方キャリアを積むにつれて、医療用医薬品の需要が“営業やマーケティング”によって変わる現実に違和感を抱くようになったといいます。

たとえば、似たような効能の薬であっても、営業活動の巧拙で高額な薬が使われることがある。患者ではなく、売り手の論理で薬が動く。そんな構造に対して、「医療の本質とは何か」を問い直すきっかけとなったといいます。

約7〜8年にわたり、営業、マーケティング、デジタル部門の起ち上げ、グローバル連係などを経験し、「ビジネスの幅」も「現場のリアル」も身につけていった時期でした。

次なる道はコンサルタント。山路氏がたどり着いた「遺伝子」というテーマ

次に山路氏が選んだのは、アクセンチュアでのコンサルタントとしてのキャリアです。これまでの経験をより俯瞰的に捉え直すため、そして多様な業界・企業に触れるための選択でした。

「自分よりも優秀な人と働くことで、自分に何が足りないかが明確になる」と語るように、彼はこのフェーズを“自分を鍛え直す時間”と定めていました。赤坂インターシティや麻布十番のイノベーションハブでのプロジェクトを通じ、デジタルとビジネス、戦略と現場をつなぐ力を身につけていきます。

この時期に、彼の中で再び浮上してきたのが「遺伝子」というテーマです。かつて製薬業界で感じた違和感と、「本当に人の健康に寄与するサービスとは何か」という問いが、再び彼の中で輪郭を持ち始めていたのです。




スピンアウトから始まったKEAN Health。偶発と意思の交差点

その後、山路氏は遺伝子解析を扱う企業に転職。営業ではなく事業創出のポジションで、自らの価値を証明していきます。そして、社内の新規事業を別会社化する動きが生まれ、KEAN Healthが誕生しました。

山路氏は代表になるつもりはなかったと言いますが、外部ステークホルダーや資本関係の中で「自らが立たねば、人はついてこない」と痛感し、代表取締役を引き受けることに。ここから彼の経営者マインドが本格的に育まれていきます。

同社が掲げたミッションは、「ゲノムをもっと身近なものに」。KEAN Healthが展開する「chatGENE」シリーズは、その想いを具体的なサービスとして体現しています。400項目以上の遺伝子解析を、専門知識がなくても理解できるように設計されたレポートとともに提供。体質や健康リスクを可視化し、自分のカラダとの向き合い方を自然に見直せる構成が特徴です。

自宅で唾液を採取し、郵送するだけで遺伝子検査が行える「chatGENE」。その手軽さと、同ジャンルでは圧倒的に安価な価格設定、検査結果の明快さで多くのユーザを集めている。 画像●chatGENE
検査でわかる項目が増えるほか、祖先・民族解析、さらにはAI検索にも対応する「chatGENE Pro」も展開する。画像●chatGENE

ユーザ目線を追求したchatGENE。検査が終わりにならない仕組みづくり

山路氏が大切にしているのは、ただの情報提供ではなく、行動につながる体験設計です。

専門的になりがちな遺伝子の話を、生活者目線に置き換える。UIやUXの細部にまでその思想が宿っています。特に印象的なのは、chatGENE Proの検査レポート内で利用できるAI検索機能。自分に関連するワードを検索しながら読み進めることができるため、情報の理解度が格段に高まります。

実際に筆者もこのプロダクトを体験してみましたが、従来の遺伝子検査とは明らかに異なる感覚がありました。レポートが“企業からの一方的な結果通知”ではなく、ユーザと対話するように書かれている。だからこそ、自然と何度も画面を開き、自分の体質や生活習慣に目を向ける時間が生まれます。

「知って終わり」ではなく、「知ったからこそ変わりたくなる」。そんな構造が、プロダクト全体に通底しているのです。

また、企業向けの「健康経営」「従業員ウェルビーイング」領域にも進出。個人の体質に合った支援と、行動変容の設計を融合し、「検査して終わり」ではない持続的な変化を実現する仕組みを提供しています。




「chatGENEで一生に一度の遺伝子検査」。KEAN Healthが目指す社会とは?

山路氏は、「遺伝子検査は一生に一度でよい」と語ります。では、その価値をどう持続させるのか。彼の答えは明確です。「個人の遺伝子データを、社会と連係させる仕組みをつくる」こと。

chatGENE Proの検査結果の例。遺伝子検査でわかる傾向は変わることがないため、検査は一度きりでいい。

たとえば、ユーザが自らの遺伝子情報を製薬会社や研究機関に提供し、その対価としてトークンを受け取る「データの価値化・トークン化」モデル。海外ではすでに実装が進んでおり、KEAN Healthも国内導入を見据えて準備を進めています。

彼が本当に実現したいのは、「健康を自分で設計できる社会」です。変えられない自分としての遺伝子を知るだけでなく、腸内環境のように変えていける環境と日々向き合うことで、ライフスタイルそのものをアップデートしていく。その自律的なアプローチこそが、KEAN Healthの描くウェルビーイングの未来です。

遺伝子と腸内フローラ。固定要素と可変要素、両面で健康を支える

その思想を体現するプロダクトが、遺伝子検査「chatGENE」とともに展開されている腸内フローラ検査キット「chatFLORA G」です。

「chatFLORA G」は、自宅で採取した便を郵送し、腸内フローラ検査を受けるキットだ。画像●chatFLORA G

遺伝子情報が「変わらない設計図」なら、腸内フローラは「変えられる今の状態」。この二つを掛け合わせることで、自分自身の固定要素と可変要素の両面から健康を捉え、より具体的な行動指針へとつなげることが可能になります。

山路氏は、こうした個別化されたヘルスデータを使って、人々が自分のカラダを深く理解し、自分らしい選択を重ねていける社会の実現を目指しています。そのビジョンは、単なる検査サービスの提供にとどまらず、「生き方そのものを設計するためのプラットフォーム」へと進化しようとしています。




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著者プロフィール

徳本昌大

徳本昌大

広告会社でコミュニケーションデザイナーとして働いたのち、経営コンサルタントとして独立。複数のベンチャー企業の社外取締役やアドバイザー、ビジネス書の書評ブロガーとして活動中。情報経営イノベーション専門職大学特任教授。

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