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最新Appleシリコン「M5」徹底解剖②AI性能を支える新技術「Neural Accelerator」とは何か?

著者: 今井隆

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最新Appleシリコン「M5」徹底解剖②AI性能を支える新技術「Neural Accelerator」とは何か?

Photo●Apple

Appleは2025年10月15日に最新のAppleシリコン「M5」と、これを搭載したiPad Pro、MacBook Pro、Vision Proを発表した。

M4からM5へどのように進化したのかはこちらの記事を参照いただき、本記事では、M5の進化の核心について深堀りしていこう。

M5の進化の核心「Neural Accelerator」とはなにか

M5の最大の特徴は、GPUコアに新設されたAIアクセラレータ「Neural Accelerator」にある。これはApple Intelligenceなどに利用される「Neural Engine」とは異なり、GPUのAI処理性能を大きく引き上げることがその目的だ。Neural AcceleratorもまたA19シリーズのGPUに初めて搭載され、M5へと継承されたテクノロジーの1つだ(以前の記事を参照)。

A19 ProのGPUコア
M5やA19シリーズの最大の特徴は、GPUコアに内蔵された「Neural Accelerator」だ。これはAppleシリコン初となるGPUコア内蔵のML(機械学習)アクセラレータ(Tensorコア)で、GPUにおけるAI処理能力を大きく引き上げることができる。これによりM4やA18シリーズに対して最大4倍のAI処理能力を発揮するという。
Photo●Apple

WWDC25においてAppleが発表したグラフィックAPI「Metal 4」では「機械学習(ML)とグラフィックの統合」が行われた。MLワークロードを処理するために「MTLTensor」と呼ばれるデータ構造が定義され、TensorFlowやPyTouchなどの一般的なAIフレームワークとの親和性(移植性)を向上させた。

そしてNeural Acceleratorは、まさにそのMetal 4のMTLTensorを処理するためのAIアクセラレータとして機能する。これによってM5では従来シェーダコアが担っていたMTLTensor処理をNeural Acceleratorにオフロードでき、より高効率にAI処理を実行できるようになると同時に、シェーダコアの負荷が大きく低減される。つまりMetal 4におけるTensor拡張は、Neural Acceleratorを有効活用するための伏線だったわけだ。

Metal 4に対応したアプリを書くことで、M5搭載デバイスが登場した時点でただちにNeural Acceleratorがその威力を発揮する。一方Metal 4には新たにTensor APIが用意され、アプリ開発者がNeural Acceleratorを明示的に利用することもできるようになっている。

LM Studio
LM StudioはOpen AIの「gpt-oss」やGoogleの「Gemma」などの学習モデルを使って、ローカル環境で動くLLM(大規模言語モデル)のプラットフォームだが、M5へのNeural Acceleratorの搭載によって生成速度が大幅に向上する。
Photo●Apple




Neural Acceleratorが促す、Dynamic Cachingとレイトレーシングエンジンの進化

M5のGPUにML処理を担うNeural Acceleratorが新設されたことによって、従来のシェーダコアとの異種混合ワークロードに対応するためにはGPU全体のメモリ管理を見直すことが必要になった。そこでAppleはM3以降のGPUで採用したDynamic Cachingを改良し、グラフィックデータとMTLTensorデータのキャッシュを用途に応じて適切に配分することで、メモリ帯域とキャッシュを有効利用するように再設計されたと考えられる。つまり「第2世代のDynamic Caching」は、GPUの利用効率を最大化するためにシェーダコアとNeural Acceleratorに割り当てるキャッシュを効率的かつ動的に管理するために再設計されたものだと考えられる。

同じようにNeural Acceleratorの搭載によって大きな影響を受けたのが、レイトレーシングエンジンだ。従来はハードウェアレイトレーシングアクセラレータとシェーダコアの連携によってレイトレーシング処理が行われていたわけだが、そこに新たにNeural Acceleratorが加わったことでそれぞれの役割分担に大きな変化が生じた。Neural AcceleratorはMetalFXのノイズ除去機能を高速化することで、レイトレーシング時に高フレームレートとリアルな画質を両立することができる。つまりレイトレーシング処理にNeural Acceleratorを組み合わせた異種混合ワークフローに合わせて再設計したものが、「第3世代のレイトレーシングエンジン」というわけだ。

第3世代レイトレーシング
Meural AcceleratorをはじめとするM5のGPU強化は、特に3Dグラフィックを多用するハイエンドゲームの画質やフレームレートを大きく向上させる。「Game Porting Toolkit 3」によるWindowsゲームの移植にも拍車がかかりそうだ。
Photo●Apple
M5のGPUベンチマーク
M5のGeekbench 6 Metalスコアを歴代のMシリーズと比較してみた。Geekbench 6はまだMetal 4に最適化されていないためNeural Acceleratorの効果は限定的だと見られるが、それでもM2 ProやM3 Proに迫るスコアを発揮しており、M4からの伸びしろは大きい。

M5シリーズが変える、AIテクノロジーの未来

2020年に「M1」が登場したとき、Appleシリコンに搭載されていたAIアクセラレータはNeural Engineだけだったが、2024年にリリースされたM4でAppleはCPUコアに新たなML Acceleratorを追加した。そしてM5ではGPUコアにもNeural Acceleratorが追加され、Appleシリコンの主なプロセッサコアすべてにAIアクセラレータが完備された。

MシリーズのAIアクセラレータ一の変遷
MシリーズのAIアクセラレータの変遷。M3シリーズまではAI処理は主にNeural Engineの役割だった。M4シリーズではCPUコアにAL処理を担うML Acceleratorが追加され、さらにM5シリーズではGPUコアにNeural Acceleratorが装備された。
M4の次世代ML Accelerator
M4の高性能CPUコアと高効率CPUコアには、次世代ML Acceleratorが搭載された。これはArmv9-Aに採用されたSME(Scalable Matrix Extension)ベースのものだと考えられる。
Photo●Apple

中でもGPUにAIアクセラレータが搭載されたことの意義は非常に大きい。Neural EngineはAシリーズからMシリーズのすべてに採用されているが、同世代のシリコンの間に性能差はほとんどない。(Ultraを除く)一方でGPUは各Appleシリコンにスケーラブルに展開されており、MシリーズではPro、Max、Ultraとおよそ2倍ずつのステップでコア数が増強されている。さらにAI処理で重要なメモリ帯域やメモリ容量もそれに合わせてスケールアップされているため、AI性能もスケーラブルに強化されるのが最大の特徴だ(以前の記事を参照)。

仮にM5 ProやM5 MaxがM4シリーズと同様のスケーラビリティを持つと仮定して、Neural Engine(NE)とNeural Accelerator(GPU)のコア数、そしてメモリ帯域やメモリ容量(最大構成)をM5を基準に比較した。Neural Engineの規模(コア数)がどのモデルでも変わらないのに対して、Neural Accelerator(GPUコア)数とメモリ帯域、メモリ容量はモデルごとにスケール(拡大)していることがわかる。ちなみにM5 Ultraが登場するとしたら、それはM5 Maxに対してすべて2倍の規模になる。

来年にはM5 ProやM5 Maxといった上位シリコンがリリースされると考えられるが、そのスケーラビリティを活かせばより大きなAIモデルをより高速に動かすことができる。AppleシリコンはM5の登場によって、AIテクノロジーの新たなステージへと大きな一歩を歩み出した。その秀でたAI性能がAppleデバイスを次の時代へと導いてくれることを期待したい。




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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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