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MacとCD/DVDドライブの歴史。なぜ搭載され、なぜ廃止されたのか。

著者: 今井隆

MacとCD/DVDドライブの歴史。なぜ搭載され、なぜ廃止されたのか。

※本記事は『Mac Fan』2017年4月号に掲載されたものです。

– 読む前に覚えておきたい用語-

CDとDVDBlu-rayディスクUltra HD Blu-ray
CDはPhillipsSONYによって開発されたデジタルオーディオ用光ディスク。アナログレコードを置き換えるメディアとして開発が進められ、1982年に音楽CD、プレーヤの販売が開始された。一方DVDはVHSやLD(レーザディスク)などを置き換えるメディアとして1995年に発表され、国内では1996年からDVDビデオとプレーヤの販売が始まった。Blu-rayディスク(BD)は日立製作所LG電子パナソニックパイオニア、Phillips、Samsungシャープ、SONY、トムソンの9社による「Blu-ray Disc Association」により2002年2月に策定された、DVDの後継となる第3世代光ディスク規格。HDビデオに対応している。策定当時、「HD DVD」と市場を分けて争ったが、Blu-rayが勝利した。Blu-rayディスクの次世代規格となるのが、「Ultra HD Blu-ray」だ。Blu-ray Disc Associationが2015年5月にリリースしたこの規格は、Blu-rayディスクの記録フォーマットを拡張し、4K解像度(3940×2160ピクセル)、最大輝度レンジ1万nitのHDR、BT.2020の色域信号に対応した広色域表現などをサポートする。

マルチメディアの普及と光ディスクの進化

世の中に光ディスクが登場したのは、オーディオCDが普及し始めた1980年代前半のこと。アナログレコードよりも広いダイナミックレンジと周波数特性、ノイズの少なさなどを武器に、一気に普及した新メディアだった。

音楽の再生メディアとして普及したCDをデジタルデータの格納に転用したのがCD−ROMであり、読み取り装置として設計されたのがCD−ROMドライブだ。

Macに対応したCD−ROMドライブは、1988年にAppleからリリースされたSCSI接続の外付けドライブ「Apple CD SC」が最初となる。その後、1992年12月にリリースされたOS「漢字Talk7.1」ではインストールメディアとしてCD−ROMが採用され、MacユーザにCD−ROMドライブが急速に普及した。

ロジテックのMac用外付けBDドライブ「LBDW-PUD6U3MSV」。USB 3.0対応のBD書き込み対応薄型ドライブで、USB-C変換アダプタやRoxio Toast 15が標準添付。BDXL100GBメディアやM-DISCへの書き込みにも対応している。

初めてCD−ROMドライブを搭載したMacは1992年8月登場の「Macintosh IIvi/IIvx」で、1994年2月登場の「LC520」、「LC630」以降のモデルには標準で搭載されるようになった。

オーディオのデジタル化、光ディスク化に続き、1996年9月にはDVDの規格策定が完了し、各種ビデオコンテンツがリリースされた。Macでは1997年11月にリリースされた「PowerMac G3」が初めてDVD−ROMとCD−ROMを読み書きできる「コンボドライブ」を搭載し、DVDビデオの再生機能をサポートした。

さらに2001年1月にはDVD書き込み対応の「スーパードライブ」を搭載した「PowerMac G4 Digital Audio」を発表。業界初のDVDオーサリングソフト「iDVD」と組み合わせて、ユーザにDVDビデオ作成の門戸を開いた。その後、スーパードライブはMacの標準搭載ドライブとなっていたが、2008年1月にリリースされたMacBook Airでは薄型化のためにスーパードライブを廃止。

その後ブロードバンド環境の充実によって大容量ファイルのインターネット配信が可能となったことから、PC業界全体が光学式ドライブの搭載を見送り、Appleも2016年12月に販売終了したMacBook Proを最後に、光学式ドライブを搭載したMacをラインアップから除外している。

フルHDに対応した次世代DVDを巡ってはBlu-rayディスク陣営とHD DVD陣営の対立が市場を二分したが、最終的にはBlu-rayディスクに一本化された。

Appleはすでにビデオインフラの需要はインターネット配信に移行したものとみなし、次世代DVDにはほとんど興味を示さなかったため、Blu-rayディスクドライブを搭載するMacは存在しない。

ただし、OS自体はBlu-rayディスクへのアクセスをサポートしており、対応の外付けドライブを接続することでデータの読み書きは可能だ。

2015年5月には4K、HDRに対応する次世代Blu-rayディスク規格「Ultra HD Blu-ray」が策定され、すでに対応コンテンツもリリースされているが、これに対するAppleからのリリースやアナウンスは、今に至るまで特にない。

※1:DVD-RAMは独自のアドレス方式やトラッキング技術の採用によりランダムアクセス性能に優れており、部分的な書き込みや消去が可能。

バックアップに最適なBlu-rayディスク

このようにAppleから忘れ去られた感のある光ディスクだが、保管性(長期安定性)に優れ、容量単価が安いという大きなメリットがある。

一般的にデータのバックアップにはHDDやSSDが用いられるが、HDDは高速回転する磁気ディスクに磁気ヘッドで情報を記録するという特性上、衝撃に弱く、また抗磁力の問題からデータの長期保管には適していない。

またSSDやUSBフラッシュメモリ、メモリカードなどはNANDフラッシュメモリを記録媒体とするストレージだが、フラッシュメモリの書き換え回数は有限であり、またトンネル酸化膜の劣化に伴うセル電荷(記録データ)の消失も避けられず、特に使い込んだフラッシュメモリほどデータ保持時間が短くなる。

その点、光ディスクは直射日光や薬品などに晒さない限り、安定した保管が可能だ。他のメディアよりも記録に時間がかかるものの、DVD−RやBD−Rなどの書き換えできないメディアを使うことで、HDDやSSDでは起こりがちな「うっかり上書き」や「うっかり消去」によるデータ消失を防げるメリットも大きい。

また、Blu-rayレコーダの普及に伴ってメディア単価が大きく下がってきており、たとえば25GBのBD−Rメディアで1枚あたり50〜100円程度、50GBのBD−R DLメディアでも150〜200円程度と手頃で、リムーバブルメディアという特性も含めてデータの保管に適したメディアだ。

さらに長期保管に特化した光メディアとして、米Millenniata社が開発した「M−DISC」がある。色素層や反射層を設けず、無機系薄膜に高出力レーザで穴(くぼみ)を記録する方式で、耐光性、耐熱性、耐湿性に優れており、同社によれば数百年の長期保管が可能だという。

「M-DISC」は米Millenniata社の開発した長寿命・高耐久性記録メディアで、国内では2015年9月より三菱化学メディアが生産している。現在4.7GBのDVD-Rメディア、25GB、50GB、100GBの各BD-Rメディアが販売されている。
画像●http://www.mcmedia.co.jp/corporate/news/information/release_2015/2015_004.html

現在、DVD−R、BD−R、BD−R DL、BD−R XLメディアが販売されており、M−DISC対応ドライブで書き込みできる。

光ディスクの大容量化は今後も続く見通しだ。産業技術総合研究所は2016年12月、大幅な多層化と高速記録が可能な、長期間保存用光ディスク向け記録材料の開発を発表した。

BDドライブはCD、DVD、BDといった記録方式の異なる3種類のメディアに個別に対応するために、それぞれ波長の異なる3つの半導体レーザと、開口数の異なる2つの光学レンズを搭載したピックアップを採用している。

この技術を使えば0.1ミリの記録層に最大50層を蓄積でき、Blu-rayディスク並みの記録密度が実現できれば、ディスク1枚で最大1.25TBの記録が可能になるという。

さらに透過特性を活かして0.8ミリの記録層に最大400層を実現できれば、10TBの大容量も夢ではないとしている。

このところ市場規模は縮小傾向にある光ディスクだが、今後の流れ次第では大容量記録メディアとして再び脚光を浴びる日が来るかも知れない。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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