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iPhone 17 Pro 分解レポート。新しい冷却システムの構造とユニボディの弱点。カメラバンプが傷つきやすい!?

著者: 今井隆

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iPhone 17 Pro 分解レポート。新しい冷却システムの構造とユニボディの弱点。カメラバンプが傷つきやすい!?

Photo●iFixit

修理情報の提供やツールの開発販売を手がける「iFixit」は9月23日、iPhone 17 Proの分解調査結果を公表した。ユニボディに包まれたその内部構造と、新たに採用された放熱テクノロジーを探る。

リア面からの内部アクセスは不可能な構造に

iPhone 17 Proは、iPhone 7以来となるアルミニウム製のユニボディを採用している。ユニボディは1枚のアルミニウムプレートからCNCフライスなどを用いて目的の形状を削り出す製法で、継ぎ目のない一体構造によって高い堅牢性を特徴とする。

ユニボディは2008年10月リリースのMacBook Proで初めて採用され、その後ほかのMacやiPadなどに展開された。iPhone 17 Proのユニボディは切削加工の前に熱間鍛造を行うことで、強度としなやかさを向上している(参考記事)。

iFixitでは、まず最初にユニボディ背面の開口部を覆うガラスパネルを取り外している。ガラスパネルの裏側にはMagSafeの受電コイルとUWBアンテナ3基が設けられており、コネクタを介してロジックボードと接続されていた。ガラスパネルを外してもそのコネクタとバッテリの一部が見えるのみで、iPhoneの内部にはアクセスできない。バッテリ交換を含めたあらゆる内部パーツへのアクセスは、フロントのディスプレイパネルを外すしかないことがわかる。

iPhone 17 Proのガラスパネルを開いたところ
リア面の下半分を覆うガラスパネルを開いたところ。ガラスパネルのうら側にはMagSafeの受電コイルと、その下部に「探す」機能で使用される3基のUWBアンテナが配置されている。これらの部品はフレキシブルケーブルを介してロジックボードとコネクタで接続されている。
Photo●iFixit
iPhone 17 Proのリア開口部
ガラスパネルを取り外すと、コネクタの下部に金属製のバッテリケースがわずかに見えるが、ここからは内部の部品にまったくアクセスすることができない。ユニボディの開口部を覆う黒い部分は電磁シールドだと思われる。
Photo●iFixit

とはいうものの従来のProシリーズでも、リアパネル側から内部部品に容易にアクセスできるのはiPhone 16 Proだけだった。iPhone 15 Proでもリアパネルを取り外すことはできたが、インナーパネルが邪魔をして内部パーツへのアクセス性は決して良いとはいえなかった。iPhone 14 Pro以前はリアガラスがサイドフレームに強力に接着されていて、リアガラスの交換は破壊的手段を必要とした。

iPhone 17 Proはディスプレイパネルを外すことで、ようやく内部へのアクセスが可能になる。

iPhone 17 Proのディスプレイパネルを開いたところ
ディスプレイパネルを開くと、黒いグラファイトシートで覆われたインナーフレームが現れる。ディスプレイパネル背面にも放熱シートらしきものが貼られており、ディスプレイやタッチパネルなどはフレキシブルケーブルを介してロジックボードと2つのコネクタで接続されている。
Photo●iFixit

グラファイトシートで覆われたインナーフレームは、14本ものトルクスビスでユニボディに固定されていた。インナーフレームを取り外すと、アルミニウムケースを備えたリチウムイオンバッテリがそのうら側に接着されており、インナーフレームはバッテリトレイとしての機能も備えていることが判明した(参考記事)。

iPhone 17 Proのインナーフレームを外したところ
インナーフレームのうら側にはアルミニウム製のケースに守られたバッテリが取り付けられており、フレーム自体がバッテリトレーとしての役割を兼ねていることがわかる。
Photo●iFixit
iPhone 17 Proのインナーフレームに取り付けられたバッテリ
バッテリはインナーフレームに固定されているが、その周辺には接着シートを剥離するためのプルタブなどは見当たらない。
Photo●iFixit

バッテリをインナーフレームに固定する方法として、iPhone Airでも確認された電気式剥離シートが用いられている(参考記事)。インナーフレームと電極の間に電流を流すことで、容易にバッテリとフレームを分離することができた。

iPhone 17 Poのバッテリの分離
インナーフレームと電極の間に一定時間電流を流すと、電気式剥離シートの接着力が著しく弱められ、手で簡単にバッテリを取り外せるようになる。この機能と金属製ケースを備えたバッテリによって、バッテリ交換時のリスクが大幅に低減されている。
Photo●iFixit




iPhone 17 Proの革新的な放熱機構に迫る

バッテリを取り外したインナーフレームには、グラファイトシートとともにベンパーチャンバーが取り付けられている。ベイパーチャンバーの周辺部はインナーフレームに溶接されており、Appleシリコンから発生した熱はインナーフレームを通じてユニボディへと導かれることが判明した。

iPhone 17 Proのベイパーチャンバー
インナーフレームにスポット溶接されたベイパーチャンバーを取り外したところ。背面のグラファイトシートはその熱をインナーフレームやディスプレイのバックパネルに効率よく拡散する役割を担う。
Photo●iFixit

iFixitでは実際にiPhone 16 Pro MaxとiPhone 17 Pro Maxに高負荷を掛けた状態で、その表面温度をサーモグラフで計測した。その結果、両者の温度差が約4℃に達しただけでなく、iPhone 16 Pro Maxではサーマルスロットリング(発熱による障害や故障を防ぐための性能抑制機能)が発生したことを確認したという。

またサーモグラフからはiPhone 17 Pro Maxの表面温度がほぼ均一に分布しており、ベイパーチャンバーによる熱拡散設計が極めて有効に機能していることが見てとれる。

16 Pro Maxと17 Proのサーモグラフ
高負荷状態における、iPhone 16 Pro Max(左)とiPhone 17 Pro Max(右)の表面温度の違い。最高温度もさることながら、iPhone 17 Pro Maxでは全体の温度が均一に上昇していることがわかる。さらにiPhone 17 Pro Maxでは、ユーザがよく触れる部分がホットスポット(温度の高い場所)になっていない点にも注目したい。
Photo●iFixit

さらにiFixitではベイパーチャンバーを分解し、その内部を顕微鏡で観察している。そこにはチャンバー内に整然と並ぶ突起(整流板)と、内部の片面に配置されたウィックの姿が鮮明に捉えられている。ベイパーチャンバーの動作原理は別の記事で解説しているが、この突起は蒸発(気化)した作動液をなめらかに周囲へと導く整流板としての機能に加えて、冷却部で液体に戻った作動液をウィックへと導く役割を兼ね備えている。

ベイパーチャンバーの内部
ベイパーチャンバーの内部には整然と配置された突起(整流板)が並んでおり、反対面の内側にはウィックと呼ばれる微細な格子が設けられている。ウィックは冷やされて液体に戻った作動液を再び熱源へと戻す毛細管としての役割がある。
Photo●iFixit
ベイパーチャンバー内のウイック
ベイパーチャンバー内のウイックは、拡大すると金属製の極細繊維が繊細に織り込まれた構造になっており、その緻密さに驚かされる。
Photo●iFixit

iPhone 17 Proの心臓部、A19 Proを搭載するロジックボード

iPhone 17 Proのロジックボードは、iPhone Airと同様にカメラブロックの下、バッテリ上部に配置されている。従来のProシリーズのロジックボードは長らくバッテリ横に配置されていたが、今回のモデルチェンジを機会にロジックボードの配置と形状を大きく見直すことで、放熱設計の見直しとバッテリ容量の最大化を実現している。

iPhone 17 Proのロジックボード
iPhone 17 Proのロジックボードは、iPhone Air同様に本体上部のカメラブロックのすき間に埋め込むように配置されている。このレイアウト変更は熱設計の見直しとバッテリの大型化を実現するためのものだ。
Photo●iFixit
iPhone 17 ProのロジックボードはiPhone X以来採用されてきた二層構造になっており、2枚のボードの寸法はほぼ同じとなっている。これは厚みに余裕があるProモデルでは、iPhone Airのような極端な薄型化(局部的な二層化)の必要がないためだ。
Photo●iFixit

iPhone 17 Proのロジックボードには、心臓部である「A19 Pro」と新たに自社開発された無線通信チップ「N1」、そしてQualcommのSnapdragon X75 5Gモデムチップセットなどで構成されている。つまりiPhone 17 ProにはまだAppleオリジナルの5Gモデムチップ「C1X」は採用されていない。

A19 Pro
2枚のロジックボードのうち、プロセッサ基板の内面にはA19 Proが搭載されており、その周辺には主にAppleオリジナルのPMICをはじめとする電源回路が搭載されている。外面にはストレージであるNANDフラッシュメモリとコネクタ類が配置されている。
Photo●iFixit
N1チップ
一方無線基板には、Wi-Fi/Bluetooth/Threadに対応する無線通信チップ「N1」(左上)、UWB無線チップである「U2」(右下)、そしてQualcommのミリ波対応5Gモデムチップセット「Snapdragon X75」(左下)が搭載されている。
Photo●iFixit

分解を行ったiFixitでは、新しいアルミニウム製のユニボディに対して強度面でのリスクを指摘している。アルミニウムは比較的軽量で放熱性に優れる反面、柔らかい素材のため傷が付きやすい。表面にはアルマイト(陽極酸化)処理によって優れた耐食性と耐摩耗性を獲得しているが、従来のステンレスやチタン合金に比べると耐摩耗性で劣る。

またアルマイト処理は平滑な平面部では均一に生成される一方で、鋭角部分では皮膜が均一に形成されにくく脆くなりやすい。このため平面部への傷には強い一方で、端面は皮膜が剥がれやすい欠点がある。iFixitでは特に鋭角なカメラバンプ頂点に着目し、そこにキーやコインが擦れることで皮膜が剥がれやすいと警告している。従来モデルではこの部分は強化ガラス製だっただけに、同じような扱いでも傷つく可能性が高い。iFixitは「すぐにケースなどで保護しないとカメラバンプが傷つく」と警告している。

iFixitではiPhone 17 Proのカメラバンプ部分が鋭角になっており、そこはアルマイト処理では傷を防げないと指摘している。一般的にアルミニウムのアルマイト処理では、コーナー部分はゆるやかな曲面にすることが推奨されている。
Photo●iFixit
iFixitでは実際に金属でカメラバンプに傷をつけてみたところ、アルマイト皮膜が剥がれて内部の(未着色の)アルミがむき出しになる「スクラッチゲート」が起きることを確認している。
Photo●iFixit

iPhone 17 Proの分解から革新的な冷却システムの全容が明らかになり、優れた放熱性能を持つアルミニウムユニボディがその効果を後押ししている。その一方でユニボディ構造によってリア面からの内部アクセス経路が絶たれ、メンテナンス性の観点からはiPhone Airや従来モデルには及ばない。この一見矛盾した課題をどのように解決していくのか、今後の進化に期待したいところだ。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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