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異色の存在「MacBook(White Unibody)」。唯一の“樹脂製ユニボディ”が生まれた背景

著者: 大谷和利

異色の存在「MacBook(White Unibody)」。唯一の“樹脂製ユニボディ”が生まれた背景

異色のポリカーボネート製

ユニボディといえば、アルミ合金の塊から切削加工によって作り出される高剛性の筐体が思い浮かぶ。2008年のMacBookシリーズに始まり、今では金属筐体を持つすべてのApple製品が、この製法によって作られている。しかし、MacBook史上で一度だけ、ポリカーボネート製のユニボディを持つモデルが存在した。それが、2009年に発売されたMacBook(White Unibody)だ。

面白いことに、MacBookは、このモデルの前にMacBook AirやMacBook Proと同じく金属ユニボディを纏ったバージョンに移行した。ところが、Appleはわずか約9カ月後にFireWireポートとSDカードスロット付きのMacBook Proの13インチモデルへと格上げしたため、空白となった無印のMacBookのポジションに、このWhite Unibodyモデルが投入されたのである。

謎なのは、Appleがこのポリカーボネート製ユニボディについて、一切、加工中の動画などを公開しなかったことだ。アルミユニボディのときには、この工法がいかに精密で剛性の高い筐体を生み出すかについて映像を交えて紹介していたのに、MacBook(White Unibody)については、単に樹脂製のユニボディということで済まされた。そもそも、ポリカーボネートならば従来の射出成形でも十分な気がするのだが、分解された筐体を見ると、確かに丸みを帯びた周辺部の内側も凹面になっており、金型を抜くには難しい形状である。だが内部には、パーツの取り付けのためのネジ穴などを備えた別の金属フレームが電磁波遮断も兼ねてはめ込まれており、あくまでも外板部分のみがユニボディ加工されているということのようだ。




その後、陽の目をみることはなく…。野心的なだけに弱点も

MacBook(White Unibody)が1世代で終わったことからも、これはユニボディを推進するAppleが、実験的に量産してみた樹脂製ユニボディ製品だと考えられる。結果的に、それほどメリットが感じられなかったために、2度と陽の目をみることはなかったが、それでもユニボディということで、デザイナー側も、あえて切削加工向きの形状を取り入れたのだろう。そのため、一見するとシンプルだが、ディスプレイカバー部のエッジよりも筐体の最大寸法の部分のほうが外側に位置するという、初代iBook以来の特異なデザインになっている。

このほかにも、アルミユニボディでは細かな艶消し加工されたパームレスト面が、このMacBookでは鏡面仕上げされており、いかにもApple的なこだわりを見てとれる。しかも、指紋や皮脂がつくのを防ぐコーティングまで施されているのだ。

さらに興味深いディテールは普段目にすることのない底面にあり、全面が滑り止めのための弾性シートでカバーされていた。しかし、滑り止めの効果が高すぎるのか、あるいは、固定方法が十分でないためか、このシートが剥がれる事例が多発し、Appleは無償の交換修理に応じることとなった。

MacBook(White Unibody)は、地味な存在ではあったが、特にディスプレイを閉じたときの佇まいは、今見ても美しい。環境問題への対応からAppleは2度と樹脂製ユニボディは作らないと思われるが、それだけに貴重な1台なのである。

※この記事は『Mac Fan』2023年9月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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