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iPhone 17 Proの革新的冷却システム「ベイパーチャンバー」の仕組みと「UniBody構造」を徹底解剖

著者: 今井隆

iPhone 17 Proの革新的冷却システム「ベイパーチャンバー」の仕組みと「UniBody構造」を徹底解剖

Photo●黒田彰

iPhone 17 Proに採用されたベイパーチャンバーとはなにか

iPhone 17 Pro/Pro Maxには、iPhoneで初めて熱拡散システム「ベイパーチャンバー」が採用された。ベイパーチャンバーは2020年以降にリリースされたAndroidスマートフォンのうち、主にハイエンドモデルを中心に普及が進んだが、今回ようやくiPhoneにも採用された。

ベイパーチャンバーは薄い銅板の内部をくり抜いた構造になっており、その中に作動液として脱イオン水が閉じ込められている。内部の細かい突起は蒸発した作動液に乱流を発生させ、熱交換効率を向上させる役割を担っている。
Photo●Apple

ベイパーチャンバーは銅製のプレートの内部を中空にした構造になっており、そこに脱イオン水などの作動液が封入されている。ベイパーチャンバーの一部がAppleシリコンなどから発生した熱によって温められると、作動液が気化して蒸気となる。その気化時に作動液は熱源の熱を奪い、熱を持ったままベイパーチャンバー内に拡散する。そして熱源から離れた場所で冷やされると液体に戻り、その場所で連れてきた熱を放出する。液体に戻った作動液はベイパーチャンバー壁面に設けられたウィック(多孔質)の毛細管現象によって、再び高温部に吸い上げられる。この流れが循環することで、ベイパーチャンバーは熱源から発生した熱を高速に周辺に拡散し続ける能力を持っている。

ベイパーチャンバーの仕組み
ベイパーチャンバー内の作動液は高温に曝されると気化してその熱を奪う。蒸発した作動液はチャンバー内に拡散し、より温度の低い場所で冷やされて液体に戻るが、このときに運んできた熱を放出する。液体に戻った作動液はウィックの毛細管現象で再び熱源へと戻る。
ベイパーチャンバーによる熱拡散
iPhoneの中心部に設置されたベイパーチャンバーは、左端の部分でAppleシリコンが発生する熱を受け止め、この熱をiPhone全体に高速に拡散することでAppleシリコンの温度を下げる。これによってAppleシリコンがフルパワーで動ける時間を伸ばすことができる。
Photo●Apple

これはMacに搭載されているヒートパイプと同じ原理だが、ヒートパイプが点から点へと熱を移動するのに対して、ベイパーチャンバーは点から面へと熱を移動する。さらにその薄さはコンマ数ミリと極薄のため、iPhoneのようなスマートフォンには最適な熱拡散システムとなっている。

写真はMacBook Proの内部。上のロジックボード中央部に搭載されたAppleシリコンの熱を下の中央部にあるヒートスプレッダが受け取り、左右に伸びたヒートパイプの両側にあるラジエータをファンで強制空冷することで放熱する仕組みだ。
Photo●iFixit

作動液に純度の高い脱イオン水が使われているのは、ベイパーチャンバーを構成している銅の反応による腐食を防ぎ、気化および液化のサイクルを阻害しないようにするためだ。またベイパーチャンバー自体は銅製だが、銅は空気と反応して酸化しやすいため、表面にはニッケルなどによるメッキ処理が施されている。iPhoneのベイパーチャンバーが銀色なのは、このメッキによるものと考えられる。




放熱に欠かせないアルミニウム製UniBody構造

ベイパーチャンバーは高速に熱を拡散させるシステムだが、それだけではiPhone内部の熱を外部に排出することはできない。Appleシリコンなどから発生した熱は、ベイパーチャンバーによって拡散した上でiPhoneの表面から効率よく空気中に放出しなければならない。

従来のiPhoneでは、金属製のサイドフレームをフロント・リアの強化ガラスパネルでサンドイッチする構造となっていた。両面に強化ガラスが採用されているのは、フロントパネルにはタッチパネルと有機ELパネルを備えたSuper Retina XDRディスプレイ、リアパネルにはワイヤレス給電(MagSafe)の受電コイルとUWBなどの無線アンテナを備えていることから、光や電磁波を遮断する金属が使えないためだ。

しかしサイドフレームだけでは内部の部品を保持できないことから、アルミニウム製のインナーフレームが採用されていた。ロジックボード上のAppleシリコンはまずこのインナーフレームに放熱し、その熱がインナーフレームに取り付けられたサイドフレームから外部に放出される仕組みになっている。

左がiPhone 16 Pro、右がiPhone 15 Pro。いずれもリアパネルは強化ガラス製で、その裏面にはMagSafeの受電コイルやそれを覆うシールド材などが配置されている。大気中への放熱はもっぱらチタン合金のサイドフレームから行われる。
Photo●iFixit

従来の熱設計では、両面を覆うガラスパネルの熱伝導率が極めて低いことから、iPhone外部への放熱はほぼサイドフレームに依存する。従来モデルのiPhone/iPhone Plusのサイドフレームはアルミニウム製だが、iPhone Pro/Pro Maxのサイドフレームは熱伝導率がアルミニウムより低いステンレスやチタン合金のため、さらに放熱面では不利な条件となっていた。

Appleシリコンで発生した熱が速やかに大気中に排出できなかった場合、その熱はiPhone内に蓄積されてシリコンの温度を押し上げる。Appleシリコンの温度が一定以上に達すると、内部回路の保護機能が働き性能や機能を制限することでさらなる温度上昇を抑制する。これが一般的に「サーマルスロットリング」と呼ばれる状況だ。実際にはOSやアプリの動作が重くなってレスポンスが低下し、ゲームプレイや動画再生ではコマ落ちやちらつきなどが発生する。また高画質フォーマット(ProRes 4Kなど)でのビデオ撮影時にはドロップが発生する。

熱設計の抜本的な見直しとボディ材質の変更

このような高負荷時の発熱に対処するため、iPhone 17 Proではボディの熱設計を抜本的に見直している。リアパネルとサイドフレームを一体化し、単一のアルミブロックから成型する「UniBody」構造とした。2025年9月9日(現地時間)に開催されたApple Eventで、iPhone 17 Proは「iPhone初のUniBody」と表現されていたが、実はiPhoneにUniBodyが採用されたのは17 Proが初めてではない。「September Event 2016」では、iPhone 7のボディが単一のアルミニウムのブロックから削り出されるシーンが紹介されていた。

iPhone初のUnibody設計
今回の発表の中でAppleはiPhone 17 Proの一体成形されたボディを「iPhone初のUniBody」と呼んでいる。
Photo●Apple
しかしAppleは9年前の「September Event 2016」におけるiPhone 7の発表において、そのボディが単一のアルミニウムブロックから削り出されるシーンを公開していた。これはMacBookシリーズのUniBodyと共通する製法だ。
Photo●Apple

しかしiPhone 17 ProのUniBodyは、これとは少し異なる製法が用いられている。新しいUniBodyの製造工程では、形状を削り出すプロセスの前に「熱間鍛造」と呼ばれるプロセスが追加された。これは高温に熱したアルミニウムブロックをプレスで鍛造することで目的の形状に近づける方法で、同時に金属の強度や靭性を大きく向上させることができる。つまり、アルミニウムがより強くしなやかに生まれ変わる(ちなみに熱間鍛造は古くから日本刀を鍛え上げる工程でも用いられている)。強度と薄型化の両立が要求されるiPhoneにとって、熱間鍛造の効果は絶大といえるだろう。

熱間鍛造はアルミニウムを再結晶温度より高温に加熱して加圧する鍛造加工法で、加熱によって柔らかくなった素材に圧力をかけることで目的の形状に近づけることができる。また鍛造によって金属組織の密度が高まり、機械的な強度としなやかさが向上する。
Photo●Apple
熱間鍛造の次は、iPhone 7やMacBookシリーズと同じくNCフライズによる切削工程だ。切削後のUniBodyは表面が滑らかになるまで研磨され、最後に酸化皮膜(着色アルマイト)処理によって堅牢な酸化アルミニウム被膜が形成される。
Photo●Apple

ただしリアパネル全体をUniBodyで覆ってしまうと、ワイヤレス充電やUWBなどの無線通信ができなくなる。そこで受電コイルやアンテナ部分をくり抜いて、そこに強化ガラスパネルをはめ込む構造としている。とはいえ、リアパネルの大半の面積が放熱性に優れたアルミニウムに置き換わったことで、iPhone 17 Proの放熱性能は大幅に改善している。

リア面とサイド面をすべてアルミニウム製のUniBodyで覆ってしまうと、MagSafeによるワイヤレス充電や、UWBを使った位置測位ができなくなるため、UniBodyのリア面には大きな開口部が設けられ、そこに強化ガラスパネルをはめ込んだ構造になっている。
Photo●Apple

さらにiPhone 17 Proではロジックボードの配置を変更し、バッテリ上部のカメラブロック下に移動した。これによって表面積が大きいカメラハウジング(カメラバンプ)部を放熱に有効利用できると同時に、放熱場所を本体上部に持っていくことで、ユーザがiPhoneを手にしたときに熱を感じにくいよう配慮されている。

iPhone 17 ProではUniBodyへの熱拡散をコントロールすることで、主にカメラハウジング周辺に熱を逃がすように設計されている。これはユーザが普段iPhoneを持つ位置を考慮し、そういった場所の温度が大きく上がりにくいよう工夫されている。
Photo●Apple




UniBody化によるメンテナンス性の低下も

放熱性では圧倒的な効果を発揮するUniBodyの採用だが、一方で失われたメンテナンス性についても触れておきたい。

iPhone 16 Proでは前にも述べたようにサイドパネルとインナーフレームをベースとした構造に、両面からガラスパネルでサンドイッチした構造になっていた。これはつまりフロント・リアのいずれからも、iPhoneの内部にアクセスできることを意味している。この点はバッテリなどの部品交換時におけるメンテナンス性に優れていたことを意味しており、修理コストの抑制にも役立っていた。

iPhone 16 Proはインナーフレームをフロントパネル側に移設したことにより、リアパネルを外すだけでバッテリやその他の部品を交換できる。これにより精巧な有機ELディスプレイを備えたフロントパネルを外す必要がなく、修理時のリスクを低減できるメリットは大きい。
Photo●iFixit

しかしUniBody構造となった今、バッテリをはじめとする内部部品にアクセスするには、高価で精巧なディスプレイを備えたフロントパネルを外さなければならない。さらに各部品を個別に交換する場合も、UniBody上に取り付けられたさまざまな部品を順番に取り外していかなければならず、両面からアクセスできた従来のiPhoneに比べてメンテナンス性は明らかに低下している。

メンテナンス性の低下は修理コストの上昇につながるが、それでもUniBodyの採用は日常使いにおいてメリットが大きく勝る。今後登場するモデルでは、さらに放熱性とメンテナンス性を両立するような技術が採用されることを期待したいところだ。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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