2023年6月のWWDC23で発表された空間コンピュータ「Apple Vision Pro」には、左右合計で2300万ものピクセルを持つ超高解像度ディスプレイが搭載されており、生成された空間イメージは優れた臨場感を実現する。今回は、それを可能にするmicro OLED技術について解説しよう。
Vision Proが搭載する超高解像度ディスプレイ
Vision Proが搭載するようなゴーグル型デバイスで高精細なディスプレイを実現するには、高解像度でありながら、極めてコンパクトなフォームファクタであることが要求される。Vision Proの場合、両目で約2300万ピクセルという膨大な画素数を実現するためには、単一で約1150万ピクセル、すなわちM1搭載iMacの24インチ4.5Kディスプレイ(4480×2520ピクセル、計1129万ピクセル)に匹敵する解像度のディスプレイが必要だ。
しかも、それをわずか1.4インチのサイズに凝縮しなければならない。Vision Proのディスプレイは両目合わせて23MPもあり、これは片目分だけでM1搭載iMacの4.5Kディスプレイのピクセル数に匹敵する。しかも膨大なピクセル数をわずか切手サイズの中に凝縮している。
そのためVision Proには、専用に開発された超高解像度OLED(有機ELディスプレイ)である「microOLED」が採用されている。
WWDC(世界開発者会議)23では、iPhoneに採用されているSuper Retina Displayと比較して、その1ピクセルサイズにVision Proは64個のピクセルを持つと発表された。そこから逆算すると、およそ3600DPI(インチあたりのピクセル数)という桁外れの超高解像度OLEDであることがわかる。ではVision Proにはなぜ、それほどの高い解像度が必要なのか。
フルスクリーン表示が前提のVRゲーム機やVRゴーグルであれば2Kや3K程度の解像度でも十分楽しめる。しかし、Vision Proは「空間コンピュータ」だ。眼前のスクリーン全体に外部カメラの映像から生成された実空間イメージが表示され、そこにシステムやアプリケーションによる複数の仮想イメージがマッピングされる。
つまり、仮想イメージはスクリーンの一部に表示されるため、そのイメージ内の十分な視認性を考慮すると4K以上のスクリーン解像度が必要だ。そしてフルスクリーンで楽しむコンテンツやゲームでは、その超高解像度によって、より高い臨場感を体験できる。
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micro OLEDが実現する空間コンピーティングの世界
このような超高解像度OLEDは、microOLEDと呼ばれている。量産できるメーカーは極めて限られているが、その中でもソニーセミコンダクタソリューションズ社は、古くからこのmicroOLEDを手がけてきた。
同社が2011年に初めて実用化したmicroOLEDは、デジタルカメラのEVF(電子ビューファインダ)用ディスプレイで、現在も多くのメーカーのデジタルカメラやビデオカメラのビューファインダに同社のmicroOLEDが採用されている。また同社は、VR/ARヘッドマウントディスプレイ(HMD)向けのmicroOLEDも発表している。
Vision Proに搭載されているmicroOLEDは、そのピクセル配置がソニーセミコンダクタソリューションズのmicroOLEDと非常に似ている。OLEDのピクセル配置はメーカーによって特徴が異なるため、Vision Proの搭載するmicroOLEDは、ソニーセミコンダクタソリューションズ社製とみて間違いなさそうだ。
microOLEDが実現するVision Proの圧倒的な高解像度イメージ空間は、全周を包み込む空間オーディオのリアリティと合わせて、私たちを新しい体験へと誘ってくれるに違いない。
※この記事は『Mac Fan』2023年11月号に掲載されたものです。