チップ間インターコネクトは、メタルから光ファイバーへ
光接続と言えば、フレッツ光に代表される光インターネット接続をイメージする人が多いだろう。ところが最近、この光ファイバーによる信号伝送が、より短距離のネットワーク接続にも用いられるようになってきている。
今回解説する「Co-Packaged Optics(CPO)」は、光電変換部品(レーザー光源やフォトディテクター、DSPなど)をシリコンチップ上に混載する新しい光電融合技術だ。

画像:TSMC/HotChips
従来の光接続では、光電変換部品はシステム基板(ロジックボード)上やSFP(Small Form-Factor Pluggable)モジュールなどに搭載され、プロセッサなどのシリコンチップから光電変換部品までは、基板やメタルケーブルなどによる電気信号伝送が使われていた。
このため数cm〜数十cmの距離を銅配線などで伝送する必要があり、また光電変換部品の他にも帯域変換(ビットレートとレーン数を変換する)部品が必要になることから、多くの電力を必要とする。
結果としてAIデータセンターに代表されるような大規模データ処理施設では、伝送路を含めた消費電力が無視できないほど大きくなっており、データセンターの脱炭素化のために原子力発電所を新設する、といった話すら現実味を帯びているのはご存じのとおりだ。
光インターコネクトのエネルギー損失を低減するCPO技術
この光電変換と帯域変換、そしてそこに至るまでの銅配線によるエネルギー損失を大幅に低減するための技術として、今、CPOが注目されている。CPOではプロセッサやスイッチなどのシリコンと光電変換チップを、同じパッケージ上に搭載する。これによって電気信号の配線長が極端に短くなり、伝送経路のエネルギーロスを大幅に低減できる。
さらに配線長が短縮されることで高速伝送が実現し、帯域変換部品が必要なくなり、ここでも消費電力が抑制される。同技術の開発で先行するBroadcomによれば、従来の(SFPなどの)光モジュール伝送に比べて、CPOの導入により伝送路の消費電力を1/3以下に低減。また、その実装サイズも大幅にコンパクト化できるとする。

画像:Broadcom
NVIDIAがデータセンター向け製品に、TSMCのCPO技術「COUPE」採用を表明
このCPOに目を向けたのが、世界最大の半導体ファブであるTSMCとデータセンター向けプロセッサ(GPU)の覇者NVIDIAだ。TSMCでは2021年に光学チップと電子チップを積層し、同一パッケージ上に実装する「COUPE(COmpact Universal Photonic Engine)」を発表している。
これはDSPなどの信号処理チップのウエハー上に光学部品を積層し、そこに光ファイバーコネクタを設けたものだ。2024年6月に開催されたTSMCシンポジウムの場で、このCOUPEがTSMCファブにおけるオプション機能として設定されたことが示されている。
2025年3月にカリフォルニアで開催されたGTC(GPU Technology Conference)において、NVIDIAはネットワークスイッチ「Spectrum-X」およびInfiniBandスイッチ「Quantum-X」にCOUPEを採用すると発表した。それにより数百万個のGPUを備えたAIデータセンタへの道を開く一方で、従来の光接続方式に比べて電力効率が3.5倍、信号品質は63倍に向上するとしている。

クレジット:NVIDIA

画像:NVIDIA
Apple製品における光インターコネクトの用途と、CPO採用の可能性
では、Apple製品にCPOが採用されるとしたら、どのような用途になるのだろうか。CPOが必要なほど大規模で高速なデータ通信が必要になるとしたら、それは現在のAppleシリコンの性能を大きく超えるような大規模データ処理が必要となるケースだろう。
たとえば現在Mac Studioに採用されているAppleシリコン「M3 Ultra」は、2個の「M3 Max」を超広帯域のシリコンインターポーザで結合した構造になっている。単純に2つのAppleシリコンを「接続」するのではなく、あたかも1個の強力なAppleシリコンとして動作させるためには、ファブリックやGPUなどを「蜜に結合」する必要があるからだ。Appleによれば、M1 Ultraにおいて、2つのM1 Maxのシリコンを接続する信号数は1万本を超えており、その帯域は2.5TB/秒に達するという。
今後Ultraシリーズを超える規模の(5個以上のシリコンを結合するような)Appleシリコンを開発するには、CPOのような光インターコネクトでシリコン同士を結合する必要が出てくると考えられる。
CPOでは現在、光コネクタ1ポートで1.6Tb/秒(0.2TB/秒)の高速伝送を実現でき、これを多数束ねることでシリコン間を広帯域かつ低レイテンシ(遅延)で接続できる。また、今後さらに光電変換部品が進化することによって、ポートあたりの伝送速度の向上にも期待できる。

画像:Apple
より最寄りで現実的な用途としては、AppleがPCC(Private Cloud Compute)向けにBroadcomと共同で開発中とされるAIチップ「Baltra」への採用だろう。今後のApple Intelligenceの機能や性能の強化には、AIサーバであるPCCの性能向上が欠かせないが、Appleはそこに自社開発のAIサーバ向けシリコン「Baltra」を導入すると見られる。
PCCでは大規模なAIモデルを複数動かすために、膨大な数のBaltraを装備したAIデータセンターになると思われるが、そこでBaltraチップ間の接続にCPOが採用される可能性が高い。というのも、Baltraのシリコン設計を行うとされるBroadcomはすでにCPOを実用化しており、Baltraのチップを製造するファブはTSMCになると思われるからだ。
意外なところに存在する、光インターコネクト技術のルーツ
実はCPOのような光インターコネクト技術のルーツは、Macに標準装備されているインターフェイスに存在している。それが「Thunderbolt」だ。現在Macに搭載されているThunderboltは、USB-Cコネクタを用いたメタルケーブル接続となっているが、Thunderbolt自体は光ケーブルでの接続もサポートする規格だ。
メタルケーブルでの伝送距離は最大2m(Thunderbolt 4)または最大1m(Thunderbolt 5)だが、光ケーブルを使えば(規格上は)最大60mまで伸ばすことができる。
というのも、ThunderboltはIntelが開発した光インターコネクト技術「Light Peak」をベースに開発されたからだ。Light Peakは一対の光ファイバーケーブルを使ったインターフェイス規格で、2009年秋にIntelから発表された。
Light Peakは2011年6月にリリースされたSONYのVAIO Zに採用され、オプションの「Power Media Dock」との接続に光ファイバーが使用されている。Power Media DockはGPU、ブルーレイドライブ、複数のUSBポートとHDMIなどを搭載し、VAIO Zに接続することで機能や性能を大きく拡張できるシステムになっていた。しかしこれ以降、Light Peak技術を採用したPCはリリースされていない。

画像:Intel
もし将来のMacにおいて、現在のThunderboltを凌駕するような高速伝送が必要になれば、高性能化した最新の光インターフェイスが再びMacに採用される可能性もある。そのときにはおそらく、Appleシリコン上に光ファイバーを直結するようなCPO技術が導入されるのではないだろうか。
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