目次
- “微妙な価格”で登場したiPhone 16e。iPhone SEからの買い替えには高すぎる?
- かなり好調に売れているiPhone 16e。「廉価版iPhone」の需要が倍増する結果に
- 節約しつつ“ある程度”の機能は欲しい。「旧モデルのiPhoneを選ぶ層」の存在
- Apple Intelligenceも追い風か。“旧モデルキラー”となったiPhone 16e
- 成熟したスマートフォン市場で、iPhoneの買い替え周期を短くしたいApple
- iPhone 16eは、買い替えサイクルの長いユーザにAppleが与えた新たな選択肢
- 変化するAppleの収益構造。iPhoneの買い替えサイクル短縮は、サービス利用者増にもつながる
- 圧倒的に高いAppleのサービスの粗利率。iPhoneやMacは、“入り口”になっていく?
- iPhone 16eはAppleの秘密兵器。新iPhone発売後も、eシリーズの後継に注目
iPhone 16eは、iPhone SEシリーズのような低価格モデルを期待していた人を落胆させた。しかし、大方の予想に反して各国での販売は好調だ。
それだけでなく、iPhone 16eはAppleの収益構造を大きく改善するかもしれない。なぜなら、iPhoneの買い替え期間を短縮する効果があるからだ。
ではなぜ、iPhone 16eが売れると買い換え期間が短くなるのだろうか。
“微妙な価格”で登場したiPhone 16e。iPhone SEからの買い替えには高すぎる?
2025年2月20日、iPhone 16eという新しい廉価版モデルが発表になったとき、素直に歓迎できなかった人は多かったはずだ。スペックには満足感があるが、問題はその価格。
従来の廉価版モデル、iPhone SE3は5万7800円からだった。しかし、iPhone 16eは9万9800円から。かなり価格が上昇している。おそらく多くの人が、8万円代で登場することを期待していたと思う。

9万9800円からというのは非常に“微妙”な価格設定だ。12万4800円からのiPhone 16比べても、価格差は2万5000円しかない。36回の分割払いで購入した場合、利子を無視すれば月々の差は694円。それならiPhone 16を買おう、と考えた人は多かったのではないだろうか。
一方、これまでiPhone SEシリーズを使ってきた人にとっては4万2000円の値上がりとなる。それもあり、「既存のiPhone SEシリーズのユーザは買い替えを渋るだろう。だから、iPhone 16eのセールスも芳しくないはずだ」というのが多くの見方だった。
かなり好調に売れているiPhone 16e。「廉価版iPhone」の需要が倍増する結果に
ところが、iPhone 16eの売れ行きはかなり好調だ。
調査会社CIRPによると、2025年6月の米国におけるiPhoneの販売内訳では、iPhone 16eが全体の11%を占めた。なお、1年前の2024年6月では、iPhone SEの販売比率は5%だ。つまり、価格が上昇しながらも、廉価版iPhoneの引き合いが倍増していることになる。

いったい、どんな人がiPhone 16eを買っているのか。iPhoneの購入者を分類するとき、「Proシリーズを選ぶ人」「標準版を選ぶ人」「廉価版を選ぶ人」「中古を購入する人」の4種類が漠然と思いつく。しかし、実は第5の集団が存在する。それは「旧モデルを選ぶ人」だ。
節約しつつ“ある程度”の機能は欲しい。「旧モデルのiPhoneを選ぶ層」の存在
現在、Appleの公式サイトでも1世代前のモデルであるiPhone 15の販売が続いている。
価格は11万2800円からで、12万4800円からのiPhone 16と比べると少し安い。iPhoneは欲しいけど最新モデルは高い。しかし中古はなんとなく不安。そんな人が、旧モデルを新品で購入しているのだろう。

CIRPのデータによると、2024年6月に旧モデルを選んだ人は28%もいた。当時の最新モデル、iPhone 15を選んだ人より多かったことになる。
よくよく考えてみれば、iPhoneがたった1年で飛躍的に進化することはなくなっている。そのため旧モデルを選ぶことは、お金を節約しつつある程度イマドキの性能を備えたiPhoneを手にいれる、賢い方法とも言える。
ところが、iPhone 16eの登場によって「旧モデルを買う人」が激減した。旧モデルを選んだ人は28%から14%に。この層がiPhone 16eを選んだと見られる。
Apple Intelligenceも追い風か。“旧モデルキラー”となったiPhone 16e
もちろん、2025年は特殊な事情がある。Apple Intelligenceに対応するのが、iPhone 16以降のモデルに限られるからだ(iPhone 15 Proシリーズは除く)。
しかし、それがなくてもiPhone 16eを選ぶのは賢い選択である。iPhone 16eとiPhone 15を比較すると、チップとバッテリ性能は向上している。カメラに関してはシングルになるが、そこに納得できれば、基本性能が高いモデルがiPhone 15よりも安く手に入る。
おそらく、今後登場するであろうiPhone 17e(仮)に関しても、同様にiPhone 16より高性能になるのではないだろうか。つまり、eシリーズが登場したことにより旧モデルのiPhoneを選ぶ理由がなくなっている。
iPhone 16eは、旧モデルキラーだったのだ。

成熟したスマートフォン市場で、iPhoneの買い替え周期を短くしたいApple
なぜAppleは、旧モデルにeシリーズをぶつけるというカニバリズム的な戦略を取るのだろうか。
実は、これは非常に賢い戦略である。Appleとしては、旧モデルの販売はできるだけ早く打ち切ったほうが得策だからだ。
スマートフォン市場は成熟している。また、ユーザのロイヤリティが高いAppleおよびiPhoneでは、その需要の大半が買い替えによるものだ。Appleとしては、この買い替え周期をできるだけ短くしたい。
たとえば、全員が3年の買い替えサイクルから2年サイクルに変わると、それだけで毎年の販売数が50%上昇する。そのため、Appleは買い替え期間を短くする施作にも積極的だ。ローンやPaidy後払い決済などで36回払い(3年)で購入した場合、24カ月(2年)経過したところで残債を優遇する取り組みがその好例だろう。
iPhone 16eは、買い替えサイクルの長いユーザにAppleが与えた新たな選択肢
iPhoneの新モデルは、発売から2年後まで中古相場が高く維持される。中古需要があるからだ。しかし、旧モデルを2年間使用すると市場的には3年経ったモデルとなり、中古価格が大きく下落する。つまり、下取り価格が安くなってしまう。
新モデルを買う人は、下取り価格が高いからそれを売り、また新モデルに買い替える。一方、旧モデルの所有者は下取り価格が安いため、買い替える動機が弱い。その影響で、使用期間も長くなる傾向がある。
つまり、Appleとしては買い替え期間が長くなるiPhone SEシリーズや旧モデルの購入者に、別の選択肢を用意する必要があった。iPhone 16eはまさにそれだ。

変化するAppleの収益構造。iPhoneの買い替えサイクル短縮は、サービス利用者増にもつながる
さらに、Appleの収益構造が変わってきている。以前はiPhoneの売上が主体だったが、2025年にサービスの売上が第1位に躍り出る見込みだ。
Appleの主力事業はもはやiPhoneではない。Apple MusicやiCloud+、Apple TV+といったサービスなのだ。

このようなサービスに加入するタイミングは、新たにデバイスを購入したときだ。
Appleも、新しいデバイスを購入した人に無料特典などを与えている。つまり、iPhoneの買い替え期間を短縮することは、iPhoneの販売台数を伸ばし、サービス加入者を増やす機会の創出にもなるのだ。
圧倒的に高いAppleのサービスの粗利率。iPhoneやMacは、“入り口”になっていく?
サービスは初期投資に莫大な費用がかかる。しかし、それ以降は利用者が増えても経費がほとんど増えない。そのため、2025年Q3のサービスの粗利率は75.6%と、極めて高くなっている。
Appleは、製品の粗利率が34.5%と、業界の中では圧倒的に高い。しかし、サービスはそれをはるかに上回る。

Appleはサービス事業を主力にすることで、収益構造を大きく改善できる。iPhoneやMacBookはサービスへの入り口となり、任天堂の家庭用ゲーム機のようなビジネス構造になっていくのかもしれない。
iPhone 16eはAppleの秘密兵器。新iPhone発売後も、eシリーズの後継に注目
iPhone 16eは、Appleが収益構造を改善するための秘密兵器だ。旧モデルの購入希望者をiPhone 16eに誘導し、iPhoneの販売台数を増加させ、サービスの加入者を増やし、利益はサービスから得る。
そのため、来年2026年春に発売されると見られるiPhone 17e(仮)も、カメラを除く基本スペックはiPhone 16を上回り、価格はiPhone 16よりも安くなると予想される。
iPhone 17(仮)が発売されたらiPhone 16を購入しようと考えている方は、iPhone 17e(仮)の情報に注目しておこう。焦って購入せずiPhone 17e(仮)の登場を待ったほうが、満足度は高くなるかもしれない。
おすすめの記事
著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。







![アプリ完成間近! 歩数連動・誕生日メッセージ・タイマー機能など“こだわり”を凝縮/松澤ネキがアプリ開発に挑戦![仕上げ編]【Claris FileMaker 選手権 2025】](https://macfan.book.mynavi.jp/wp-content/uploads/2025/10/IMG_1097-256x192.jpg)
