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初代iPad登場。大ヒットにつながったとも言えるスティーブ・ジョブズの“ある判断”とは?

著者: 大谷和利

初代iPad登場。大ヒットにつながったとも言えるスティーブ・ジョブズの“ある判断”とは?

実はiPhoneよりも先に構想されたiPad

先頃、故スティーブ・ジョブズの未亡人であるローリーン・ジョブズ、元Appleデザイン・ディレクターのジョナサン・アイブ、そして、現Apple CEOのティム・クックが、ジョブズの偉業を称え、その人となりを伝えるWebサイト「Steve Jobs Archive」を起ち上げ、故人を偲ぶトークセッションを行った。その席上で、iPhoneよりも先に構想されていたにもかかわらず、ジョブズの判断によって発表が後回しになった製品としてクックが挙げたものが、この初代iPadである。

そもそもiPadは、マルチタッチ技術のことを知ったジョブズが、これを利用して直感的に操作できるデバイスを作れないかと、社内のエンジニアに先行試作させたことに端を発している。そのプロトタイプの出来が思いのほかよかったので、プロジェクトを進めることにしたが、大半の消費者は急進的過ぎる製品を容易には受け入れてくれないことをジョブズは理解していた。

そこで、携帯電話というわかりやすい製品カテゴリにマルチタッチディスプレイをもたらすiPhoneを先に開発して市場投入。その後に満を持して、より大きな画面を持ち、動画や新聞、書籍などのコンテンツを閲覧するのに適した新ジャンル製品として、タブレットデバイスのiPadをデビューさせることにしたのだった。




iPadは“単に大きなiPhone”にすぎない?

まず、初代iPhoneの発売から3年かけて、指で画面に直接触れるマルチタッチ操作とインターネットコミュニケータの便利さを消費者に浸透させたAppleは、2010年に初代iPadを発表。アナリストたちは「単に大きなiPhone」と揶揄し、iPhone自体がすでに成功を収めていたにもかかわらず、例によって「成功するとは思えない」という論調の記事も多く見かけられた。

実は、彼らの見立てのうち、「大きなiPhone」という部分は当たっていたといえるが、それこそがまさにAppleの狙いだった。つまり、iPhoneユーザであれば、すでにiPadの操作方法を知っていることになる。そのうえで、小さな画面では難しい、やりにくい処理も、より大きなiPadであればこなせることが直感的に理解できたので、この製品はあらゆる予想をはるかに上回る大ヒットを記録することになった。

継続的に需要を喚起する術に長けたAppleは、初代iPadにカメラ機能を内蔵しなかった。それがなくても本体の機能性だけでアーリーアダプターは購入し、第2世代モデルでカメラを搭載すれば、また、そこで買い替えてくれることを知っていたからだ。

ジョブズの賢明な判断

こうして市民権を得たiPadは、iPhone以上にスワイプという操作方法を一般に認知させるうえで大きな役割を果たすことになる。未就学児でも電子絵本などをそのようにして読むことができたため、アメリカでは2歳児が普通の絵本もスワイプできるものと勘違いして操作しようとする事態まで発生した。

筆者も最初にiPadに触れたときに、iPhoneよりもマルチタッチ操作の真価が発揮されることを実感したが、同時に、こちらが先に出ていたら、どれほどの人が価格を含めてこの製品を受け入れられただろうかとも思った。その意味で、iPhoneを先行させたジョブズの判断はやはり正しかったのだ。

※この記事は『Mac Fan』2022年11月号に掲載されたものです。




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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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