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誰もがAIで開発できる時代へ──Claris ライアン・マッキャンCEOが語る「FileMakerの進化」と「日本市場の可能性」

誰もがAIで開発できる時代へ──Claris ライアン・マッキャンCEOが語る「FileMakerの進化」と「日本市場の可能性」

2025年7月9日に最新バージョンがリリースされた「Claris FileMaker 2025」では、AI機能が本格的に統合され、製品構成やライセンス体系も大きく刷新されました。

その背景には、開発者の裾野を広げ、より多くのユーザが自分の手でソリューションを生み出せる未来を描くビジョンがあるとClaris Internationalのライアン・マッキャンCEOは話します。

AIとの向き合い方、日本市場の特性、新たな世代へのアプローチについて話を聞きました。

ライアン・マッキャン CEO

2013年に米州セールス担当シニアディレクターとしてClarisに入社し、2025年3月に同社CEOに就任。入社前は、Roambi社、Oracle社、Host Analytics社、Infor社、Cognos社(現在はIBMに合併)で戦略担当および経営幹部を歴任。カリフォルニアルーセラン大学で理学士号および経営学士号を取得。

ノーコードには限界がある──Clarisが信じる“続けられる開発”のかたち

──CEOに就任されてからおよそ4カ月が経過しましたが、これまでを振り返ってどのようなお気持ちでしょうか? また、この間にもっとも力を入れてこられたことは何でしょうか。

CEOに就任してから私がもっとも大切にしてきたのは、Clarisが掲げる「パーパス(目的)」にしっかりと沿って、継続的な成長を実現していくことです。私たちの目的は、「パワフルなテクノロジーをすべての人に使ってもらえるようにする」こと。そのビジョンを見失わず、常に意識しながら取り組んできました。

Clarisはこれまでも、技術面でさまざまな大きなシフトを経験してきました。そして今、AIという新たな波が押し寄せています。こうした技術の変化に柔軟に対応しつつも、私たちは一貫してユーザコミュニティに価値を届けるという姿勢を変えていません。

──つまり、技術は進化しても、コミュニティへの向き合い方やスタンスは変わらないという理解でよろしいでしょうか?

はい、そのとおりです。たとえば、1980年代のデータベース技術、1990年代のインターネット、2000年代のクラウドやモバイルの普及といった変化を経て、今はAIが次の技術進化の中心にあります。そうした変化を、確かな形で市場に届けることが、私たちの責任だと考えています。

──今回の来日は、FileMakerの新バージョン発表と時期が重なっていますが、それと関係しているのでしょうか?

今回は日本市場がClarisにとって非常に重要であるという理由から来日しました。日本には、他国とは異なる特徴があります。たとえば、多くの国ではプロフェッショナル開発者が市場を牽引していますが、日本ではビジネスユーザや「シチズンデベロッパー(市民開発者)」の活動がとても活発です。加えて、製造・教育・医療といった特定分野において、アプリが非常に深く活用されています。私自身、以前の仕事で5年間ほど日本市場に関わっており、そうした経験からも日本独自のニーズに自立的に応えていくことの重要性を実感しています。

──確かに、日本では特定業種に根ざした活用が進んでいます。では、AIの機能強化によって、日本市場ではどのような変化が起こるとお考えですか?

AIによって、より多くの人が開発に関わるようになると考えています。特に、自然言語を活用した開発支援によって、これまで参入のハードルが高かった初期構築フェーズが取り組みやすくなり、多くの人がアプリ開発に参加しやすくなるでしょう。それによって、日本市場におけるClarisの存在感もさらに高まると期待しています。

──なるほど。FileMakerを開発プラットフォームとして見ると、現在は「成長期」「成熟期」「変革期」といったフェーズのうち、どの段階にあるとお考えでしょうか?

難しい質問ですね(笑)。ひとつ言えるのは、私たちのプラットフォームには、業務アプリケーションをしっかりと支えるだけの力があるということです。ただし、それを最大限に活用するには、ある程度のスキルが必要なのも事実です。

近年、AIの進化に伴って、世界的にノーコードツールが急増しています。それにより市場の競争も激化しています。7年前はノーコードツールを提供する企業は十数社程度でしたが、今では100以上の企業が参入している状況です。

ノーコードツールは、“始めやすさ”という利点がありますが、その一方で、多くの場合すぐに限界に直面するという課題もあります。その点、FileMakerは最初こそ多少の学習が必要ですが、一度習得すれば高度な開発にも対応できる拡張性があります。“without boundaries(制限がない)”というのが、私たちの強みです。

そして今、私たちはAIを活用して、さらに参入障壁を下げる新機能を開発しています。これにより、初心者から上級者まで、幅広い層にFileMakerを届けられると確信しています。

「Claris FileMaker 2025」は、プログラミングの専門知識がなくても直感的な操作でオリジナルのアプリを作成できるのが大きな特徴です。世界中で130万人以上が、業務効率化やアイデアの具現化に活用しています。




AIの革新とAppleクオリティのユーザ保護を両立する

──FileMakerの新バージョンでは、AI関連の機能がかなり増えている印象です。マッキャンCEOが特におすすめしたいAI機能は何でしょうか?

私は開発者というよりも、エンドユーザに近い立場です。その立場から見ると、やはり自然言語でビジネスに役立つ知見をすぐに引き出せるようになった点は、非常に画期的だと感じています。

──また、今回の発表では「Claris Connect」や「Claris Studio」が追加料金なしで利用できるようになりました。ライセンス形態が大きく変わったように思いますが、どのような狙いがあるのでしょうか?

より多くの方にスムーズにプラットフォーム全体を活用していただくことです。初期コストを上げることなく導入時のフリクション(障壁)を減らし、Claris製品全体を自然に使っていただきたいという意図があります。

──無料の評価版などを提供する予定はありますか?

現時点では、正式発表はありませんが、有力な検討対象であることは間違いありません。

──AIに話を戻します。日本企業の多くは「自社データを活用したい」というニーズがある一方で、「外部サービスにデータを預けたくない」というジレンマも強く感じています。今回強化されたAI機能では、その点も考慮されているのでしょうか?

まさに、そうした声を受け、今回の新機能では、RAG(検索拡張生成)など、自社データを活用できるAI連携を可能としました。多くのFileMakerユーザがこれまで蓄積してきたデータ資産を、より深く活用できるようになります。さらに、今回のリリースに含まれるAIモデルサーバにより、ローカルLLM環境の構築が容易になり、自社データを外部のAIに送ることなく、安全にAIを活用できるようになります。特に医療、製造、金融といった機密性の高い分野では、プライバシーへの配慮が不可欠です。データを外部に出したくないというニーズに応えるための、重要な施策だと考えています。

──一般的に、日本企業はアメリカ企業に比べて、データの扱いやリスクへの姿勢が慎重だと言われます。その点についてはどうお考えですか?

確かに日本企業はリスクに対して非常に慎重です。ただ、これは世界的傾向でもあります。AI進化のスピードが速いため、多くの企業が「自社データは本当に安全なのか」という懸念を抱いています。

その点、親会社Appleはセキュリティとプライバシーを最重要視する文化を持ち、Clarisもその姿勢を継承しています。無防備にAIに突き進むようなことはありません。

──AppleやClarisは、技術革新とユーザ保護のバランス感覚に優れている印象があります。

Clarisは過去40年の歴史において、ブランドの信頼性と責任を非常に大切にしてきました。だからこそ、新しい技術の導入においてもセキュリティやユーザ保護を最優先にしながら、慎重かつ大胆なイノベーションを進めたいと考えています。

ただ、今回のAIに関する技術革新と、これまでの技術進化との最大の違いは「スピード」です。従来以上に急速な変化が求められており、私たち自身も、これまでのペースのままではいけないと強く感じています。

私がClarisに入ってから12年になりますが、これほどまでに“緊急性”を感じているのは初めてです。だからこそ、リスクにしっかりと責任を持ちながら、前へと進んでいきたいと考えています。

最新のClaris FileMaker 2025では開発者向けツールが強化され、AIモデルとの連携を容易にする一連のスクリプトステップと関数に対応しています。これにより、ユーザは自然言語で会話するように求める情報にアクセスできます。

すべての人に開発のチャンスを──Clarisが目指す次世代開発者支援

──Clarisとしては、これからのローコードやノーコード開発者、特に若い世代に対してどのようなアプローチをお考えでしょうか?

まさに現在注力しているテーマです。特に直近12カ月間は、私たちは新しい世代の開発者に、どう関われるかを模索してきました。近く発表予定のロードマップにも、そうした新しい開発者に向けた機能が多数盛り込まれています。これから開発を始めようと考えている方にとっても、すでにFileMakerを活用している方にとっても、「あっ」と驚いていただけるような内容になるはずです。

──とても気になるお話ですが、発表はいつ頃になりそうですか?

なるべく早くいくつかの新機能をリリースしたいと考えています……と言いたいところですが、少し余裕を見て「今後6カ月以内」としておきましょう(笑)。今後、MCP(Model Context Protocol:AIエージェント向けのプロトコル)なども含め、多様なデータやアセットに簡単にアクセスできるような技術に投資していきます。こうした参入障壁を下げる施策と組み合わせることで、より幅広い用途で活用していただけると確信しています。

FileMakerのアップデートでは毎回、「エンジニアでなくても使える」ことを意識しています。その背景には、「テクノロジーは専門家だけのものではなく、課題を解決したいという意欲さえあれば誰でも扱えるべきだ」という私たちのビジョンがあります。

──まさに、初代Macの「For the rest of us(すべての人のために)」という精神ですね。最後に、我々『Mac Fan』主催のアプリ開発コンテスト「Claris FileMaker選手権 2025」の募集も佳境を迎えています。参加予定の皆さんに向けたメッセージをお願いします。

このコンテストは、すでにFileMakerを使っている開発者にとっても、新しい機能を試せる絶好の機会です。企業の方も学生の方も、ぜひ最新バージョンを活用して、プラットフォーム全体の力を最大限に引き出していただきたいですね。

Clarisの公式パートナー企業や開発コミュニティと連携したネットワークも整っていますので、そうした環境を活用すれば、はじめての方でも安心して参加できるはずです。特に学生の皆さんには、Claris日本チームが全国で開催している無料体験セミナーにもぜひ参加していただきたいです。ハンズオン形式でアプリ開発が体験でき、開発をスムーズに進めるためのヒントも得られるでしょう。

11月に開催される「Clarisカンファレンス2025」では、オープニングセッションに登壇する予定です。皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。




「Claris FileMaker 選手権 2025」の作品を募集中!

Claris FileMaker選手権 2025-1

Claris FileMaker 選手権 2025」は、ローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」の最新バージョンを使って開発された、オリジナルのカスタムAppのアイデアと技術を競うコンテストです。

たとえば、家族や友人の困りごとを解決するお助けアプリや、地域の課題に寄り添うアプリなど、日々の暮らしをちょっと楽しく、ちょっと便利に変えるアイデアをFileMakerでカタチにしてみませんか?

お一人でも仲間と一緒でも、どなたでもご応募は大歓迎。たくさんの挑戦をお待ちしています。

著者プロフィール

栗原亮(Arkhē)

栗原亮(Arkhē)

合同会社アルケー代表。1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。

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