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「初代iPod touch」の功績──初代iPhoneと並ぶ“モバイルデバイスの原型”を振り返る

著者: 大谷和利

「初代iPod touch」の功績──初代iPhoneと並ぶ“モバイルデバイスの原型”を振り返る

画面をタッチ操作できるiPod

2022年5月、iPod touchが在庫限りで販売終了となり、iPodシリーズはその20年余りの歴史に幕を下ろした。2007年1月に初代iPhoneを発表する際に、故スティーブ・ジョブズは、それを「革命的なモバイルフォン、タッチコントロール付きワイドスクリーンiPod、画期的なインターネットコミュニケータが融合したもの」と表現したが、同年9月にリリースされた初代iPod touchは、その3つの特徴からモバイルフォンの機能を省いた製品といえた。

当時は、Appleの新製品に関して、今ほどリークされることがなかったため、何らかの携帯電話と画面の大きなiPodが開発されていると噂されていたものの、それらは別々の製品と考えられていた。iPod touchのみに注目すれば、その噂は当たっていたことになるが、統合的な開発をモットーとするAppleゆえに、iPod touchに電話機能を付加したものがiPhoneなのではなく、あくまでもiPhoneをベースに電話機能を省いた製品がiPod touchという位置づけだった。

そのため、音楽再生に留まらず(要Wi-Fi環境だが)インターネットコミュニケータとしての機能も持ち、SafariやSMSメッセージング、メール、YouTube、Googleマップなどのアプリも搭載されていた。しかし、初代iPhoneと同じく、この時点ではサードパーティのアプリ開発が解禁されていなかったため、あくまでもプリインストールされたアプリのみを使う前提であった。



iPhoneのユーザ体験がすでにここに

iPod touchは、携帯電話機能がない分、薄く、軽く、安価でバッテリの持ちもよかった。そして、特に初代モデルは、単にiPhoneの廉価版という以外に重要な役割を担っていた。それは、携帯電話規格の違いから初代iPhoneが販売されない国において、iPhoneのユーザ体験のサブセットを提供するということだ。

初代iPhoneは、当時のアメリカなどで主流だった第2世代移動通信システム(2G)にあたるGSM/EDGE規格(EDGEはGSM標準に基づきながら通信速度を3倍にした技術)を採用していたため、その通信網がない日本や韓国などでは利用できず、公式の販売も行われなかった。そうした地域では、筆者を含めて多くのAppleファンが、いち早くiPhoneライクな使い勝手を体験すべく、その代替品としてiPod touchを買い求めたのである。

また、iPhoneの販売地域においても、親がティーンエイジャーに買い与える場合などに、iPod touchには、携帯電話サービスに加入せずに利用でき、気づかないうちに高額な通信料金を課されることがないという安心感があった。

この原稿を書きながら、しまい込んでいた初代iPod touchを取り出してみたが、普段はiPhone 12 Pro Maxを利用していることもあって、改めてその小ささには驚かされる。厚みを除けばiPhone 13 mini(131.5×64.2×7.65mm、140g)よりもさらに小さく軽い(110×61.8×8mm、120g)のだ。あれから約15年を経てiPod touchはその役割を終えたわけだが、確かにそれは、初代iPhoneとともに現在のモバイルデバイスの原型を築いたのである。

※この記事は『Mac Fan』2022年7月号に掲載されたものです。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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