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最後のPowerPC搭載モデル「iMac G5(iSight)」。わずか3カ月で「最新型」が「旧型」に…。

著者: 大谷和利

最後のPowerPC搭載モデル「iMac G5(iSight)」。わずか3カ月で「最新型」が「旧型」に…。

PowerPCからIntel移行前夜。Appleの本音とは?

Macは原稿執筆時である2022年現在、Appleシリコンへの移行の真っ最中だが、すでによく知られているように、過去にも2度、大掛かりなCPUの転換を行ってきた。

現在のAppleにはMac以外にも安定した収益源があるため、AppleシリコンMacの発売前にIntel Macの買い控えが起こってもビジネスへの影響は最小限で済む。しかも、発売後はその圧倒的な性能差によって好調な売れ行きを示しているので、まだラインアップに残っているIntel Macの売れ行きが落ちても、さほど問題とはならない。

しかし、iMac G5(iSight)が登場した2005年10月はPowerPCからIntelへの移行前夜にあたり、しかもクリスマス商戦のための目玉が必要だった。ここで買い控えが起こることは何としても避けたい、というのがAppleの本音と言えた。

改めてiMac G5(iSight)の仕様を、前身である同年5月デビューのiMac G5(Ambient Light Sensor)と比べてみると、CPUクロックは「1.8/2.0 GHz」から「1.9/2.1 GHz」と雀の涙ほどのアップに留まっている。これでは、名目上「性能も上がっています」というためだけの差だが、上位のPower Mac G5との差別化なども考慮すると、もうそれがギリギリの選択だったのだろう。



「もうモデルチェンジ!?」という驚き

それでも、新型にはiSightカメラが内蔵されて、FaceTimeなどの際にカメラを外付けする手間がなくなり、かつ、基本デザインは前モデルを踏襲しつつも、厚みが約18.8cmから約17.3cmへと1.5cmほど薄くなっていた。そのため、G5のiMacとしての1つの完成形として考えれば、それなりに魅力的ではあった。

さらに、翌2006年にはIntel Macが発売されることがわかっていたものの、最初のモデルはMac miniと噂され、次のiMacのモデルチェンジは最低でも半年先と考えられた。そこで、安心してiMac G5 (iSight)の購入に踏み切った人も、それなりにいたものと考えられる。

ところが、である。2006年1月にAppleが発表した最初のIntel Macは、MacBook Proの15.4インチモデルと、iMacだった。デザインそのまま、CPUのみIntel Core Duo(1.83/2.0 GHz)に置き換えた成り立ちを持つこの製品が、iMac G5(iSight)ユーザに与えたショックは想像に難くない。わずか3カ月ほどで最新型が旧型になってしまったのだから。

AppleシリコンMacに対するIntel Macであれば、Boot Campが使えるメリットもあるが、このときのPowerPC Macは、しばらくの間はソフトや周辺機器の互換性が高い程度の利点しかなかった。そのため、真っ先にIntel化されるとわかっていたら、iMac G5(iSight)を買う人は激減したに違いない。

裏を返せば、スティーブ・ジョブズは、こういうことができる経営者でもあった。どのタイミングで、どんな仕様の製品を市場投入すれば、安定したビジネスにつながるのか? スタイルは異なっても、ジョブズもティム・クックもその判断ができたからこそ、今のAppleがあるのだ。

※この記事は『Mac Fan』2022年4月号に掲載されたものです。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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