Power Macintosh時代の到来
マイクロプロセッサ「68040」が登場した1990年頃、MotorolaのCPUは、競合するIntelの「80486 CPU」に対して性能面でアドバンテージを持っていた。
一方80486はその動作速度を順調に伸ばし、最終的に80486DX4では100MHzに達したが、68040の動作速度は伸び悩んでいた。
AppleはQuadra 700をリリースした1991年10月に、IBMおよびMotorolaとの「AIM連合」を結成し、IBMが1990年にワークステーション向けにリリースしたRISCプロセッサ「POWER1」をベースにPowerPCの共同開発を開始した。
これによりAppleは1994年に最初のPowerPCプロセッサ「PowerPC 601」を搭載した「Power Macintosh」シリーズを発表し、ここに初代から続いた68000系プロセッサを搭載したMacintoshシリーズはその役目を終えた。
このときAppleは、68040を搭載する従来モデル向けにPower Macintoshへのアップグレードパスを用意した。
それが「Macintosh Processor Upgrade Card」である。
Quadra 700を含むCentris/Quadraシリーズは、本カードを搭載することでPower Macintoshとして生まれ変わることができた(Centris 660AV/Quadra 840AVを除く)。


Macintosh Processor Upgrade Cardによる拡張
Macintosh Processor Upgrade Cardは1994年1月にサンフランシスコで開催されたMacWorld Expoで発表され、当時の価格は11万8000円と比較的リーズナブルだった。
このカードを搭載したCentris/QuadraシリーズはPower Macintoshとして動作するが、メインメモリやビデオメモリ、インターフェイス類はベースモデルのものを使用する。
初代Power Macintosh(6100/7100/8100)のメモリバスは64ビットだったが、Centris/Quadraシリーズは32ビットだったことからメモリアクセス性能に制限を受ける。
その影響を低減するために、カード上には1MBのキャッシュメモリが搭載されていた。
Macintosh Processor Upgrade Card上に搭載されたPowerPC 601はその型番「080」からわかるように80MHz動作対応品だったが、実際の動作速度はベースモデルの68040の動作速度の2倍に固定された。
たとえば25MHz動作の68040を採用するQuadra 700/900では50MHz動作、33MHz動作の68040を採用するQuadra 800/950では66MHz動作となった。

68040を採用するCentris/QuadraシリーズのサポートはMac OS 8.1までだったが、Macintosh Processor Upgrade Cardを搭載することでMac OS 9.1まで利用することができるようになった。
ベースモデルのロジックボードには68040が載っていることから、Macintosh Processor Upgrade Cardを搭載した状態で68040とPowerPC 601を切り替えて使用することができた。
切り替えには「Power Macintosh カード」というコントロールパネルを使用し、設定変更後に一度Macをシャットダウンする必要があった。
また、CPUを切り替えた場合にはMacの起動音が変わった。


Macintosh Processor Upgrade Cardは、68040時代のMacを長く使いたいと願うユーザにとって貴重な存在となった。この頃のApple製品にはこういった「アップグレードパス」によって、ユーザに買い換え以外の選択肢が提供されていたのが大きな特徴だったと言えるだろう。
次回はMacの魅力を全世界に広めるきっかけとなったエントリーモデル「Macintosh Plus」をご紹介しよう。
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