Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

シリーズ初のタワー型「Macintosh Quadra 700」の思い出/今井隆の「Think Vintage.」

著者: 今井隆

シリーズ初のタワー型「Macintosh Quadra 700」の思い出/今井隆の「Think Vintage.」

今回は、1991年に販売開始された、高性能プロセッサ68040を初めて搭載した「Macintosh Quadra 700」についてご紹介しよう。

圧倒的な性能を誇ったXC68040プロセッサ

XC68040はモトローラ(現NXPセミコンダクターズ)が1990年にリリースした68000系のプロセッサで、Macintosh SE/30、IIx、IIcx、IIci、IIfxが搭載していた32ビットプロセッサMC68030の後継チップだ。

リリース時の型番はベータ版を示すXC68040で、これは初期にリリースされた仕様書どおりにチップが完成しなかったことを意味しているが、周辺回路の修正でカバーできる範囲だったと聞く。

XC68040はMC68030では外部オプションだったFPU(浮動小数点演算ユニット:MC68881またはMC68882)のサブセットを内蔵し(ただし超越関数は非サポート)、キャッシュメモリを大幅強化、命令パイプラインのステージ数を3ステージから6ステージに増強した。

その結果、XC68040は同クロックで動作するMC68030の約3倍の性能を示したとされる。

これらの性能強化によってXC68040のトランジスタ数は、MC68030の約30万から4倍の約120万に増え、消費電力の増加にともなってヒートシンクが必要となった(FPUを持たないXC68LC040はヒートシンク不要)。

Quadra 700およびQuadra 900には、Macintoshで初めてモトローラのXC68040プロセッサが搭載された。XC68040はそれまでMacでの主力CPUだったMC68030プロセッサの約3倍の性能を発揮し、1994年にPowerPCプロセッサに移行するまでMacの主力CPUとして使用された。写真はヒートシンクを外したところ。

当時最速と呼ばれたIIfxの2倍の性能。最強の座は「Quadra」に

この当時最速のMacは、1990年3月にリリースされたMacintosh IIfxで、IIやIIxと同じ筐体に40MHz動作のMC68030プロセッサを搭載。32KBの二次キャッシュメモリや高速なデュアルポートSIMMを用いたメモリシステムを備えていた。

また同時にリリースされたApple純正のNu-BUSビデオカード「Macintosh Display Card 8・24 GC」は、13インチディスプレイで24ビットフルカラーをサポートし、AMDの32ビットRISCプロセッサ「Am29000」をQuickDrawアクセラレータとして搭載するなど、やはり最強のビデオカードとされた。

1990年当時はIIfxと8・24GCの組み合わせは最強のコンビとして知られ、プロのデザイナーなどに愛用されていた。

Quadra 700がリリースされる前年1990年のモジュラータイプMacのラインアップ。Macintosh IIとこれをコンパクト化したMacintosh IIcxおよびIIci、そしてIIシリーズの最高峰となるMacintosh IIfxの4モデルで構成されていた。

1991年10月にリリースされたQuadra 700とQuadra 900は、このIIfxから最強の座を奪うほど強力な製品だった(ちなみにQuadra 700はIIfxより低価格だった)。

Appleのカタログによれば、25MHz動作の68040を搭載するQuadra 700は、IIfxの2倍相当の処理能力を実現するという。

またQuadra 700は13インチディスプレイで24ビットフルカラーをサポート(VRAM-SIMM増設時)し、デュアルポートVRAMの採用とプロセッサバスへの直結によって高速なグラフィック描画を実現した。

その描画性能はQuickDrawアクセラレータを搭載する8・24GCをも上回っていたため、その後のサードパーティ製Nu-BUSビデオカードの市場に大きな影響を及ぼした。

Quadra 700にはオンボードDRAM(メインメモリ)が4MBとオンボードVRAM(ビデオメモリ)が512KB搭載され、30ピンDRAM-SIMM4スロットと68ピンVRAM-SIMM6スロットを使って、メインメモリを最大20MB、ビデオメモリを最大2MBまで拡張できた。

Apple初のタワー型デザインを採用したQuadraの革新性

Quadra 700とQuadra 900は、Appleでは初めてとなるタワー型デザインを採用した。

Quadra 900は新規設計の筐体デザインを採用し、リムーバブルドライブベイを2基備えていたため、後にCD-ROMドライブを搭載できた(このサイズで金属フレームなしで筐体が巨大な樹脂パーツでできていることに驚いた)。

Quadra 700は一見すると新規設計のデザインだが、その外形寸法(ゴム足を除く)や内部構造はMacitosh IIcxやIIciと同一で、ロジックボードとボトムケース、リセット&インタラプトスイッチ、ゴム足とLEDレンズの形状が異なるのみで、それ以外の部品は共通だった。

このため当時、IIcxやIIciからQuadra 700にアップデートする「Quadra 700アップグレードキット」がリリースされていた(当時48万円だったと記憶している)。

これは電源ユニットやドライブベイ、FDDおよびHDDドライブやスピーカ、トップカバーなどはIIcxまたはIIciのパーツをそのまま流用する仕組みだった。

Quadra 700のサービスマニュアル(Service Source)に記載された部品構成図を見ると、IIcxやIIciの図版が兼用されていることがわかる。Quadra 700はそのデザインこそタワー型だったが、内部構造やサイズは横置きデザインのIIcxやIIciとほぼ同一だった。内部は徹底したモジュラー構造となっており、ビス2本を外すだけで全パーツを容易に着脱できた。

Quadra 700は、1993年に公開された映画「ジュラシック・パーク」の第1作目に登場したことでもよく知られている。

映画中ではコントロールルーム内にSGI(シリコングラフィックス)のワークステーションとともに複数台が設置され、SuperMac社製のディスプレイと組み合わせて使われていた。

次回はQuadra 700リリース時の日本語環境についてご紹介しよう。

おすすめの記事

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

この著者の記事一覧