“ジェネリック”なブラウン管を採用したStudio Display。それでもジョブズがゴーサインを出した理由は?
今でこそ、プロのクリエイターもハイエンドのLCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)上で創作のための作業を行い、作品のカラーチェックなどもキャリブレーション済みのLCDを使って完結できている。しかし、2000年前後には、まだ表現できる色空間や輝度、コントラストなどの点で液晶パネルはCRT(Cathode-Ray Tube:ブラウン管)に劣る部分があった。
そこでAppleも、省スペース性や低消費電力が求められる家庭市場やビジネス市場向けにはフラットパネル化を推し進めつつ、クリエイティブユースの映像や画像処理のためにCRTを採用したディスプレイ製品も販売していた。
2001年発売のApple Studio Display(17インチ、ADC)も、そのようなCRTディスプレイのひとつで、三菱電機製の平面ブラウン管である「ダイヤモンドトロン」を採用することにより、歪みや、外光の映り込みや反射による目の疲労が少ない表示を実現。ダイヤモンドトロンは、高コントラスト・高画質のアパーチャーグリル方式のブラウン管だが、その元祖であるソニーのトリニトロン関連の特許が切れたことで、三菱電機が開発したジェネリック製品だった。
ジェネリックとはいえ、ブラウン管自体はソニーから供給を受け、電子ビームを出力する電子銃を、ソニーの1ガン3ビーム方式から一般的な3ガン方式へと変更したもので、だからこそトリニトロンにこだわりを持っていたスティーブ・ジョブズもゴーサインを出したのだろう。
滑らかな曲面のクリアボディとチルトスタンド。“極致”に到達したAppleのポリカーボネート応用製品
その平面ブラウン管を収めた筐体は、滑らかな曲面で構成された完全に透明なもので、この時代のAppleが到達したポリカーボネート応用製品の極致といえる仕上がりを持つ。
また、そこに組み合わされるチルトスタンドの造形も素晴らしく、「メビウスの輪」を思わせる曲線美を見せている。個人的には、このスタンド部分だけでも“欲しい”と感じさせる魅力を秘めていたと今でも思うのだが、読者の皆さんはいかがだろうか?
贅沢なことに、そしてまた、Appleにありがちなことに、このディスプレイは、同社独自のコネクタ規格「ADC(Apple Display Connector)」を装備するPower Mac G4、またはPower Mac G4 Cubeのみに対応しており、他の機種に接続して使うことができなかった。したがって、喉から手が出るほど使いたくても、横目で眺めるしかない他機種のユーザもいたことだろう。
ADC自体は、電源、映像信号、USB信号を1つのコネクタにまとめた規格で、これもまさにジョブズ好みの、ケーブル1本のみでMac本体とディスプレイを接続するために発想されたものだ。ディスプレイ側の電源スイッチでMacの電源を入れたり、スリープさせることも可能という便利な面もあったが、Appleが徐々に業界標準的な規格を採り入れる方針に転換したことで消えていった。
いずれにしても、Apple Studio Display(17インチ、ADC)はApple史上最後の外部CRTディスプレイであり、それに相応しいデザインをまとった製品なのであった。
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※この記事は『Mac Fan』2021年1月に掲載されたものです。