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Podcastはなぜ再び注目されているのか。その要因はスマートスピーカ? Podcastの誕生と停滞、そして再興の歴史を辿る

著者: 牧野武文

Podcastはなぜ再び注目されているのか。その要因はスマートスピーカ? Podcastの誕生と停滞、そして再興の歴史を辿る

ここ数年、Podcastの人気が再燃している。

SpotifyやAmazon、GoogleなどがこぞってPodcastへの対応を始めた。一時停滞をしていたPodcastに活気が戻ってきている。

なぜ、Podcastは再び人気になったのか。これが今回の疑問だ。

※この記事は『Mac Fan 2021年2月号』に掲載されたものです。

Podcastが再成長。2005年ごろに一般化し、停滞を経て大きくユーザを増やした

Podcastが再びブームだ。米国でのデジタルメディア視聴状況を1998年から調査している「The Infinite Dial 2020」(Edison Research, Triton Digital)によると、米国の12歳以上でPodcastを聞いたことがある人は55%にのぼった。

米国の12歳以上で、Podcastを聴いた経験がある人の割合。推定で1.55億人に相当する。2012年から停滞の時期に入るが、2019年から再び増加し始めた。「The Infinite Dial 2020」(Edison Research, Triton Digital)より引用。

Podcastは2005年あたりから聴かれるようになり、順調に利用者数を伸ばしていたが、2012年頃に利用者数30%前後になったところで成長が止まった。

ところが、2016年頃から再び成長を始め、特に今年と昨年は利用者数が大きく増加している。一旦停滞があって、そこから再成長をしている状況だ。


Podcastを聞く時間も増えている。現在は週に6時間39分。1日あたり40分弱の計算だ。通勤中にニュース系の番組を聞き、自宅でスマートスピーカを使って音楽系番組やドラマ番組を聞くという人が一般的。「The Infinite Dial 2020」(Edison Research, Triton Digital)より引用。

iPodによる音楽革命。Podcastは、そのムーブメントの裏側で起こった草の根活動から生まれた

私自身も勘違いしていたが、PodcastはAppleが開発したのではなく、草の根から生まれた。2001年にiPodが発売されると、音楽の聞き方に革命が起きたことはご存じのとおり。しかし、iPodの弱点はラジオ番組が聞けないことだった。

そこで、なんとかiPodでラジオ番組を聞きたいという人たちが協力して開発したのがPodcastの仕組みだ。「iPodにキャスト(放送)する」ことから来たネーミングである。

PodcastはRSS(Rich Site Summary)を利用している。RSSとは、ニュースサイトやブログなどの更新情報を知ることができる仕組みのこと。各ニュースサイトのRSS用のURLにアクセスすると、以前アクセスしてから今までに新しい記事が追加されたかどうかを教えてくれる。それだけでなく、追加記事のサマリーや画像、音声データも取得できるようになっていった。

一時は、情報収集をするのにRSSリーダを使って、主要なニュースサイトを登録していた人も多かったはずだ。現在では、SNSで情報収集をする人が増えているものの、今でもRSSリーダを便利に使っている人は多い。

Podcastは、RSSリーダと同じように、新しく追加された番組だけを自動的にダウンロードしてくれる仕組みと考えれば理解しやすいだろう。

PodcastとiPod、iTunesの好相性。しかし“商業化”を果たす前にiPhoneが登場し、盛り上がりは下火に

AppleのiTunes(現「ミュージック」)がPodcastに対応したのは2005年。これにより、iTunesを開くだけで新しい番組がダウンロードされ、iPodと同期するだけで常に最新の番組が聞ける環境が整った。結果、Podcastを聞く人は増えていった。

しかし、2012年頃から成長が止まる。原因は、広告収入を得るという商業的な軌道に乗せる前にiPhoneが普及し始めてしまったことだ。

iPhoneであればPodcastを利用しなくても、直接音声をストリーミング再生できる。そのため、商業ラジオ局はネットでのサイマル放送を志向するようになり、Podcastは個人の音声ブログが多くなっていった。

日本では音楽著作権が課題に。ラジオであれば、JASRACとの契約によってスムースな一方で…

また、Podcastの成長鈍化の背景には、日本では音楽著作権の問題が絡み、Podcastはラジオ局と比べて音楽番組を放送しにくいという理由もあった。

ラジオ局の多くは番組で音楽を流すために、日本音楽著作権協会(JASRAC)と包括契約を結んでいる。わかりやすく言えば「使い放題サブスク」と同じで、一定額を支払えば、「どの曲を何回放送した」という申告をする必要がない。

JASRAC側がサンプル調査をし、音楽の使用規模によって料率を決め、各著作権者に適正配分してくれるという便利な仕組みが構築されている。

ややこしいPodcastにおける「音楽著作権料率」の計算。JASRACの考えもよくわかる

一方のPodcastに関しても、JASRACは、2006年6月という早い段階から音楽著作権料率を定め、きちんと使用料を支払えば音楽番組をPodcastで放送することを可能にしている。

しかしPodcastの場合は、誰の曲を何回かけたかを番組ごとにまとめ、別に使用料を支払う必要がある。つまり、ラジオ局が放送している番組をPodcastでも放送するとなると、編集し、使用料の計算をするという業務負担が増えてしまうのだ。

だったら、「radiko」のタイムフリー(過去1週間の期限付きアーカイブ)などを使い、ネットで聞いてもらえばいいと考えるのも仕方がない。

Podcastはデジタルデータが利用者の手元に残るため、簡単に複製が作れてしまう。JASRACとしては、放送と同じような包括契約にすることは難しいのだと思われる。

再興の鍵はスマートスピーカ? Spotifyほか、サービス側の対応も大きい

こうして、次第に忘れかけられていたPodcastだが、昨年あたりから利用者数が増え、にわかに盛り上がりを見せている。その最大の要因は、スマートスピーカの普及だ。

たいていは音楽再生を主な用途に使っているだろうが、時にはそれだけでは飽きてしまい、Podcastを聞くようになる。特に、ニュースやラジオドラマが人気のようだ。

また、音楽サブスクのSpotifyがPodcastに対応したことも大きい。これによって、Spotifyはより多くの新規ユーザを獲得しただけでなく、Podcastのビジネス性を示すことにも成功した。Podcastに独自に広告を入れたり、課金制度を導入したりして、それを音声コンテンツを聞きたがる(Podcastとの親和性が高い)ユーザへ届ければ、収益化のハードルは下がる。

さらに、プレイリストに音楽と同じようにPodcastの番組を入れることで拡散効果を期待でき、新たなリスナーを獲得できる環境も整う。

最近では、GoogleやAmazonもPodcastへの対応を始めたことから、Podcastブームはさらに過熱しそうだ。Podcastは、仕事中でもリラックス中でも、お風呂でも楽しめる。音メディアは、どのようなシーンでもながら聞きができるのが特徴だ。

まずはAppleのPodcastアプリがおすすめ。慣れたらほかのアプリも試してみよう

MacやiPhoneでPodcastを聞くには、「Podcast」アプリを使う。非常によくできていて、どのデバイスで再生してもシームレスに状況が引き継がれる。

Macにプリインストールされている「Podcast」。これだけでも十分楽しむことができる。もちろん、どのエピソードを聞いたかは、iPhoneやiPadとも同期される。
どれを聞いたらいいかわからない人は、まず「ワンボタンの声」がおすすめ。Apple関連のニュース解説番組だが、Mac好きの出演者が集まって、楽しくMac話を展開している。2日に1回のペースで、新しいエピソードが追加される。

ただし、使いづらい点もある。1つはエピソードを古い順に再生できないことだ。1つの番組の中であれば古い順に再生できるが、複数の番組を合成したプレイリストは新しい順での再生しかできない。

古い順での再生ができれば、番組登録だけをしておけば自動ダウンロード&自動再生と、手間いらずのPodcastライフが楽しめる。

そのほか、Googleをはじめとするさまざまなサードパーティ製アプリも公開されていて、いずれも複数のデバイスで同期できるようになっている。Appleの「Podcast」アプリを試してみて、慣れてきたら自分に合う別のアプリを探すのがいいのではないかと思う。

個人的におすすめなPodcastアプリが「Overcast」。自動ダウンロードや自動削除、スマートスピード、ボイスブースターなど多彩な機能があり、無料で利用可能。もちろん、複数デバイスでシンクロされる。残念なのは、Apple Watch版はあるのにmacOS版がないこと。

また、海外Podcastの中には音楽番組も豊富で、海外の最新音楽トレンドを楽しむことができる。ニュース、ドラマ、語学学習、音楽などに興味がある人はPodcastをぜひ始めてみていただきたい。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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