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PowerBook G4のミニマルデザインという“冒険”。ジョブズの魔法とアイブのデザインが、新生Appleの行先をを示した

著者: 大谷和利

PowerBook G4のミニマルデザインという“冒険”。ジョブズの魔法とアイブのデザインが、新生Appleの行先をを示した

PowerBook G4登場。“奇抜”から“シンプル”へ。新生Appleの試金石となったハイエンドノート

未来からやってきたような初代iMacのレトロフューチャー的デザインや、貝のような初代iBook、アーム付きのiMac G4など、ともすれば奇をてらったかに見える製品は、Appleが自社ブランドの復活を世間に印象づけ、他社とは異なる価値を提供する企業であることをアピールするためには不可欠なものだった。

そのような位置づけの製品の必要性をよく理解していた当時のデザイン・ディレクター、ジョナサン・アイブは、ある意味であざといまでのフォルムとカラー、ギミックを持つデザインを、あえて行ったといえる。

しかし、アイブ本来のデザインは、機能を彼一流の解釈で形に落とし込むようなスタイルである。また、サプライズに満ちたデザイン路線を続けようとすれば、その傾向を常にエスカレートさせていくことになりかねない。したがって、どこかで、過剰なデザインと一線を画し、シンプルなデザイン路線に転じることが求められた。

その先駆けとなったのが、2001年にデビューしたPowerBook G4である。当時、デスクトップモデルや、コンシューマセグメントのiBookは、依然として表現豊かなデザインを続けていたが、PowerBook G4はプロシューマ向けのハイエンドモデルだ。納得できる特徴を持たせられれば、逆の意味での冒険が許されたともいえる。直線的で余計な装飾のないこのモデルは、新生Appleにとってのミニマルデザインの試金石だった。

薄さと純チタン。製品の魅力をブーストするジョブズの“現実歪曲フィールド”

PowerBook G4は、その名のとおり、ノートMacで初めてPowerPC G4プロセッサを搭載したモデルであり、業界初の15.2インチLCDを装備していた。今では珍しくないサイズだが、故スティーブ・ジョブズはメガワイドスクリーンと呼び、当時は巨大に感じられた。

重量も2.4kgと、今の基準からすれば重い部類だといえる(現行の16インチMacBook Proは2.0kg)。そこで、少しでも軽やかに見せると同時に、携行しやすい形状にしたかったのだろう。直線的なボディは厚さ1インチ(2.56cm)を実現し、ジョブズもその薄さをアピール。メディアは、こぞってその点を称賛した。

しかし、考えてみれば、サイズが大きい分、内部スペースには余裕が生まれ、部品の分散配置が可能となる。後のMacBook Airとは事情がまったく異なり、薄くできて当然なのだが、ジョブズの現実歪曲フィールドに、皆、飲み込まれてしまったのだ。

もう1つのアピールポイントは、外装がチタン製という点で、ジョブズは、スパイプレーン(諜報活動用の偵察機)と同じ素材だと説明した。実は、前年にIBMもチタン製を謳うThinkPadを発売していたが、ジョブズにいわせれば、あちらは、プラスチックにチタンパウダーを混ぜただけのまがい物。こちらは純チタンの本物だと強調した。純チタンは、加工が難しいとされ、直線的なデザインもその特性に沿ったものだと解釈された。

実際には、LCDカバーと底面がチタンで、その間はファイバーグラスだったのだが、その点はあまり問題とならず、PowerBook G4は待望の薄型モデルとしてヒットした。僕も購入して愛用したが、性能もさることながら、その純チタンの手触りはたしかに最高だった。

※この記事は『Mac Fan』2020年12月に掲載されたものです。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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