eMacの“e”は、“education”。ジョナサン・アイブの没案がeMacに流用された?
アカデミー賞8部門を受賞した映画「スラムドッグ$ミリオネア」の監督、ダニエル・ボイルによるファンタジー映画「イエスタディ」では、ビートルズが存在しなかった世界で起こる出来事がコメディタッチで描かれていた。今回採り上げたeMac(2002年発売)をこれになぞらえると、LCDが存在しない世界で初期のiMacがモデルチェンジされていたら、こうなっていただろうと思わせる製品である。
また、もう1つの仮説としては、iMac G4のデザインの検討時に、ジョナサン・アイブが当初考えていたという、初代Macからのキープコンセプトでフラットパネル化した形は、ひょっとするとこのようなものだった可能性もある(さらにいえば、そのデザインを完全な廃案とするのは惜しいので、eMacに流用したのかもしれない)。
いずれにしても、一見するとLCDに思えるこのモデルのディスプレイは、17インチのフラットCRTであり、大画面化とコストを両立させるための仕様であることが伺える。その理由は、やはりeMacが元々は教育市場を対象に企画・命名(eMacの”e”は、”education”の”e”)されたマシンだったためだろう。
17インチとはいえ、画面解像度は1280×960ピクセルに過ぎず、実効的な解像感よりも絶対的な画面サイズが優先されている(同時期の17インチiMacは、ややワイドな縦横比で1440×900ピクセル)。これは、子どもでも見やすい画面サイズを求める初等教育現場のニーズを汲んだ結果といえる。
教育市場から一般市場へ。シンプルかつ高コスパなeMacは、確実にファンの心を掴んだ
eMacは、あえて製品名には謳われていないが、PowerPC G4プロセッサを搭載し、基本モデルのアメリカでの教育市場向け価格は999ドルだった。これに対して、細かな仕様が異なるとはいえ、共通のアーキテクチャに基づく17インチiMac G4の基本モデルは1999ドルであり、約2倍の開きがある。
確かに斬新なiMac G4のデザインやスイベルや角度調整可能なスクリーンは魅力的だが、消費者にとってこの価格差は無視できないほど大きく、設置面積も既存のCRT iMacとさほど変わらないため、eMacの一般向け販売を希望する声は高まっていった。
そこでAppleも、最初の発表から2カ月月後に、基本モデルを一般市場でも1099ドルで販売することになり、自社にとって手薄な価格帯を埋める製品となった。
デザイン的に見ると、初期のiMacと比べてより直線的なフォルムとなり、カラーもオールホワイトの1色のみ。スピーカにもグリルはなく、スピーカコーンが剥き出しになっている点は、小学生などに指でいたずらされそうだが、実際には直接触れられないようにするカバーも付けられるようになっていた。
いずれにしても、シンプルでコストを優先した筐体ではあるものの、サイドには専用の金属ボルトを配し、視覚的なアクセントにすると同時に、内部へのアクセスを容易にして整備性を高める工夫がなされている。背面の排気口にかけて見る角度によって大きく印象が変わる点は、CRT iMacの系譜を受け継ぐ特徴だった。
オーナーの中には、寿命が来たeMacのケースだけを活かして犬小屋にした事例もあり、メインストリームモデルではなくとも、それなりにファンのいるモデルといえた。
※この記事は『Mac Fan』2020年11月に掲載されたものです。