Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

1MB=1万円だった時代/ウィンチェスターディスク・Hard Disk 40SC

著者: 大谷和利

1MB=1万円だった時代/ウィンチェスターディスク・Hard Disk 40SC

ウィンチェスターディスクとProFile

今日ではすっかり死語となったが、’70年代後半から’80年代前半にかけて、ハードディスクはウィンチェスターディスクと呼ばれることが多かった。しかし、その名を初めて聞いたときには、意味不明な名称だと思ったものだ。検索エンジンなどない時代のこと、いくつか資料をあたるうち、それがIBM製の大容量ストレージ機器だとわかった。

もともとハードディスクの商用化は1956年にIBMによって行われ、その際には「ディスクファイル」と呼ばれていた。しかし、磁気ディスク部分が交換式で構造的に小型化には向かない。そこで、全要素を一体化し、コンパクトで大容量化しやすく改良したものが、ウィンチェスターディスクだったのである。

「ウィンチェスター」は、IBM内部の開発コードネームだ。その由来は、かつて単発式のライフル銃をレバーアクションという仕組みによって連射可能とし、「西部を征服した銃」の異名をとったウィンチェスターライフルにあやかったものと勝手に推測していたが、この原稿のために改めて調べると、そのとおりだった。

ウィンチェスターディスクは、サンノゼにあるIBM施設で開発されたが、同市内には、かつてのウィンチェスターライフルのメーカー創業者の未亡人の住居で、現在は幽霊屋敷として史跡兼観光名所になっているウィンチェスター・ミステリーハウスもある。たぶん、そのことも影響したのだろう。

話を戻すと、フロッピーディスクの何十倍ものデータを高速に読み書きできるウィンチェスターディスクの名称は、一般名詞化して他社も使うようになり、アップルはシーゲート製のユニットを用いてProFileの製品名で商品化した。そして、Apple IIIやMacの前身のLisaの周辺機器として販売されたが、容量5MBでアメリカ現地価格が3499ドル! とても手が出ないうえ、Macには対応していなかったこともあって、憧れの存在だった。

おすすめの記事

初めてのハードディスクはHD 40SC

1985年にAppleは、Mac 512K向けに20MBの容量を持つ、その名もズバリ「Hard Disk 20」という製品を発売した。外部フロッピードライブポート接続なので転送速度は期待できず、価格もアメリカで1495ドル(現在の貨幣価値換算では倍以上)ということから、やはり縁がなかったものの、徐々に身近になってきているという感覚はあった。

そして、ついに1988年、HyperCardを使ううちに、スタックのデータをフロッピーディスクに保存する容量的な限界や、スタック内のリンク先のカードが読み出される遅さでユーザ体験が台無しになる危険を感じ、ちょうど発売された「Hard Disk 40SC」を購入した。SCは、SCSIという周辺機器接続規格を表し、当時としては高速なデータ転送が可能だったのも決め手だった。

とはいえ、その価格は40万円! 安くはなったが、1MBあたり1万円という高価な代物だった。それで、ちょうどこの原稿を書こうとした矢先に、某家電量販店からのプロモーションメールが届き、そこにある「4TB HDDが10,800円」の文字を見て、今や1バイトあたりの単価がなんと100万分の1以下になっていることを改めて認識した。そう考えると、ハードディスクは物価の超優等生なのである。

※この記事は『Mac Fan』2017年8月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

この著者の記事一覧