2024年9月29日発売の『Mac Fan 2024年11月号』の表紙には、20代の頃からMacユーザだという堂本剛さんに登場していただきました。本記事では、音楽制作の裏側、そして主演映画『まる』について迫った本誌掲載のインタビュー全文をお届けします。
Macと出会い、使い続ける理由
──堂本さんは、古くからのMacユーザと伺っています。Macとの出会いや、なぜ使い続けているのかを教えてください。
はじめて手にしたのは、たしか20代の頃です。最初は、周りの人たちが使っているから何となく。主に音楽制作に使っているので、複雑じゃないというか…感覚的に使えるのがいいんじゃないですかね。
──はじめからWindows PCという選択肢はなかったのでしょうか。
そうですね。こだわりがあったり、詳しかったりするわけではないですけど。パソコンを使い始めてからずっと、ノートタイプのMacを使っています。デスクトップタイプを買っても、机にずっと座ってあれこれやることもないし、持ち運べるメリットのほうが多いので。
音楽制作に重要な“感覚”とMacの親和性
──詳しくないとはいえ、音楽制作をするにはそれなりの知識や操作技術が必要かと思います。
それはもう先人の知恵というか。その道のプロが周りにたくさんいるので、「これってさあ」って聞くと教科書以上に詳しく教えてくれます。音楽制作ソフトも、感覚的にできるものと“理系”っぽいものがあるんですけど、僕は感覚的なものしか使っていません。音を打ち込むときってあまり頭で考えていないから、おもちゃみたいなイメージでレコーディングできるものをチョイスしていますね。
──堂本さんが音楽を作る際は、“感覚”をかなり重要視されているのかと思います。作業環境にこだわりはありますか?
場所や周りの環境には、まったくこだわりません。思いついたときに打ち込めれば何でもいいので、持ち運べるMacBookさえあれば。今は外付けのマイクも簡単につなげられるじゃないですか。なので、フレーズやメロディが思いついたときにパッと吹き込んで、あとで時間があるときに整理整頓するって感じです。
堂本剛が“フィール”するとき
──ということは、ある程度の機材はいつも持ち歩いているのですね。
行き先や用事にもよりますが、簡易的なものは持ち運ぶことが多いですね。思いついたときに記録しておかないと、忘れちゃうんですよ。僕が作っている音楽はファンクミュージックが中心なので、あまり頭で作るものじゃないというか、“そのとき”のノリが大事で。フィールしたものをそのままアウトして、それを置いておく場所がMacBookです。
──どんなときに“フィール”することが多いですか?
仕事場より、お風呂とか、ボーッとしているときが多いですね。量も質もです。すぐお風呂から出て、Macに打ち込んでからまた戻ることもあったり。あとは寝る前とか、「寝られへんなー」と思っているうちに歌詞とか考えちゃって、パッと起きて打ち込んでから寝たりもします。
──忘れてしまうからというだけでなく、閃きを外に出すことでスッキリ寝られるという利点もありそうです。
そうですね。なるべく鮮度が高いものを圧縮してとっておきたい。で、落ち着いたときにそれを解凍して作り上げていくみたいな。こういうアイデアってすぐに使えるものばかりではなくて、5年後に花が開くようなものもあるので、とにかく思いついたものはMacにたくさん詰め込んでいます。といっても、本当にくだらないようなものも多いですけど。
映画「まる」。体験や経験を“スパイス”として演じた沢田という役柄
──では、世に出ていない作品の原石が、堂本さんのMacの中にたくさんあるのですね…。さて、ここからは堂本さんが約27年ぶりに主演を務めた映画『まる』について伺っていきます。まずは、演じられた沢田の役どころを教えてください。
沢田は、人気現代美術家・秋元のアシスタントをしている悩める男です。“自分”がハッキリしているせいで、社会に求められる自分と本当の自分とのギャップに苦しんでいます。多くの人は、たとえば仕事中の自分とプライベートの自分を上手く切り分けられると思うんですけど、沢田はそれができないんですよね。映画の中で、沢田は突如“アーティスト”として世間の注目を集め、大きな波に流されていきますが、彼がどんな決断をしていくのかを見守ってほしいです。
──感情を表に出さず、一方で苦しみを抱えた沢田を演じるのは難しいことも多かったのではないかと思います。
監督からもらっていたのは「寝ていない」というキーワードです。きっと食生活も健康的ではない。そう見えるよう、特に体を引き締めたりもしませんでした。あとは、僕自身の環境が大きく変わった時期でもあったので、その心のさまざまを沢田という役に反映できたらなと思っていましたね。
──環境の変化がある中、約27年ぶりの主演作に出演されるというのは堂本さんなりの挑戦なのでしょうか。
いえ、あくまで長い人生の中で出会う仕事の1つと捉えています。ただ、音楽を作るときもそうなのですが、自分が体感してきたことをスパイスとして、歌詞にしたり、メロディにしたり、芝居に落とし込んだりしているので、沢田を演じるのはとても良いタイミングだったかもしれません。
沢田の部屋に溢れる“まる”。そのすべてを堂本さんが手描きした
──撮影時に印象的なエピソードがあれば教えてください。
明確な起承転結のある物語ではないので、監督の中でも答えが出ていないシーンがいくつもありました。そこに僕なりの答えを照らし合わせて作品を作っていけたのは、すごく良かったです。ディスカッションしていくことで、人間味のある荻上(直子)監督らしい世界観を作れたかなと。答えが決まりきった状態で撮影が始まっていたら、まったく違う作品になっていたかもしれません。もちろん監督と僕だけじゃなく、共演者の綾野剛さんたちも同じです。みんなで話し合いながら作品を作ったことで、現場はすごくいい雰囲気でした。
──苦労したこと、大変だったことはありますか?
作中でたくさん「まる」を描くのですが、利き手を骨折している設定なので、左手で描くのは大変でした。フィルム撮影なのでやり直しもあまりできず、“嘘”になるから練習もできませんし。あと、沢田が部屋中に「まる」を描くシーンで、本当に全部の「まる」を僕が描いたのも大変でしたね。美術さんがやってくれるものだと思っていたんだけど(笑)。
──沢田が最初に描いた「まる」は、逃げるアリを囲むように描いた「まる」でした。あの描写にはどんな意味が込められているのでしょうか。
僕も気になって監督に聞いたのですが、そこに深い意味はないみたいです。何かに囚われている自分をアリに投影して、それを「まる」で囲おうとして…くらいの。ちなみに、あのアリはCGなんです。
──そうだったんですか! かなりリアルだったので本物だとばかり。
すごく良くできていますよね。台本を読んだとき、絵の具でアリが傷ついたら嫌だなあと思っていたので、撮影前に監督に確認したんですよ。そしたら「CGです」と言われて、安心して撮影に臨めました。
初挑戦となる映画作品の音楽担当
──本作では音楽も堂本さんが手掛けていらっしゃいますが、映画作品の音楽を担当されるのは初かと存じます。いかがでしたか?
至難の業でしたが、学ぶことも多く貴重な経験でした。そもそも、『まる』は役者さんたちの“間”がすごくある作品なので、音楽でそれを消したくないなと。「曲いらなくないですか?」と監督とディカッションしたこともあったくらいです。結局、本当に必要なシーンに絞って、曲で支えるようなイメージで制作しました。
──沢田の住むアパートの一室も印象的でした。沢田はエンドリケリーを飼っていますよね。
セットについて特に僕から意見を出した部分はなくて、エンドリケリーを登場させるのも監督のアイデアです。基本的にはアクアショップの店員さんが来てくれていたのですが、不在のタイミングでは僕が水槽の管理担当をすることもありましたね(笑)。
──最後に、『まる』という作品をどのように楽しんでほしいですか?
フワッとした映画ではあるんですけど、深みもあって、2回3回と観ていくうちにどんどん悩んでいく人もいるかもしれません。でも悩むっていいことなので。ぜひ、たくさんの方に劇場でご覧いただきたいです。
「まる」
出演:堂本剛、綾野剛/吉岡里帆、森崎ウィン、戸塚純貴 おいでやす小田、濱田マリ、柄本明/早乙女太一、片桐はいり、吉田鋼太郎/小林聡美
監督・脚本:荻上直子
音楽:.ENDRECHERI./堂本剛
製作・配給:アスミック・エース
©2024 Asmik Ace,Inc.
美大卒だがアートで身を立てられず、人気現代美術家のアシスタントをしている男・沢田。独立する気配もなければ、そんな気力さえも失って、言われたことを淡々とこなしている。ある日、通勤途中に事故に遭い、腕の怪我が原因で職を失う。部屋に帰ると床には蟻が1匹。その蟻に導かれるように描いた○(まる)が知らぬ間にSNSで拡散され、正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名になる。突然、誰もが知る存在となった「さわだ」だったが、段々と○にとらわれ始めていく。
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著者プロフィール
関口大起
『Mac Fan』副編集長。腕時計の卸売営業や電子コミック制作のお仕事を経て、雑誌編集の世界にやってきました。好きなApple Storeは丸の内。Xアカウント:@t_sekiguchi_