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Appleシリコン「M3」の規格外のパワー

著者: 今井隆

Appleシリコン「M3」の規格外のパワー

iPadシリーズの心臓部になる可能性も

M3ファミリーのベースモデルである「M3」チップは、MacBookシリーズやiMacMac miniなどのエントリーモデルのためのAppleシリコンであると同時に、今後登場するiPadシリーズ(iPad ProやiPad Air)の心臓部としての採用も予想される。そのため、M3には高い性能と同時に、長時間のバッテリ駆動を実現するための優れた省電力性能も要求される。

M3はM1登場以来受け継がれてきたAppleシリコンの特徴である、ユニファイドメモリアーキテクチャを採用。チップ上に搭載されたメモリチップを広帯域で接続することで、高速なデータへのアクセスを実現している。
画像●Apple

Appleは、M3は「M1と同じ性能をわずか半分の消費電力で実現」すると言及している。これは高効率コアの性能向上と、3nmプロセスの採用によるエネルギー効率改善の恩恵と考えられる。このため一般的なカジュアルな使い方であれば、M3搭載モデルはバッテリ駆動時間の向上が期待できる。

M3は動作速度の向上とアーキテクチャの更新により各プロセッサの処理性能を引き上げると同時に、3nmプロセスの採用や電力管理の改善によって省電力化をも果たした。AppleによればM1と同じ性能を半分の電力で実現するという。
画像●https://www.youtube.com/watch?v=ctkW3V0Mh-k

気になる処理性能については、「Geekbench 6」によるCPUベンチマークにおいて、シングルコア性能(高性能コア1基の性能)でM2の約20%アップ、M1の約30%アップが確認された。またCPU全体の性能(マルチコア性能)では、M2の約20%アップ、M1の約65%アップとなっている。ちなみにこのスコアはM1プロの8コアモデルを上回っており、M1 ProやM2 Proの10コアモデルに匹敵する。

「Geekbench 6」を見ると、M3のCPU性能(マルチコア)はM1やM2を大きく上回り、M2 ProやM1 Proに匹敵することがわかる。GPU性能はM1やM2を少し上回るレベルで、従来のソフトではその威力を発揮しない。

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GPU性能はソフト次第?

一方で、Geekbench 6のメタル(GPU)ベンチマークの結果はM2と比べて数%の向上に留まった。8コアGPUのM1と比べても20%程度の向上で、これは今のGeekbench 6が次世代GPUの新機能に対応していないためと考えられる。ちなみにMaxonがリリースした最新のベンチマーク「Cinebench 2024・1」(以下、Cinebench)はM3の新機能に対応したレンダリングエンジン「Redshift」を搭載しており、M3はそこでM2の2倍近いGPUスコアを叩き出している。

M3の次世代GPUが備えるハードウェア・アクセラレーション機能を使用するソフトでは、その性能はアクセラレータを持たないM2やM2 Proを大きく上回っている。今後対応するソフトが増加すれば、その威力が発揮されるシーンも増えるはずだ。

今後ソフト側の次世代GPUへの対応が進めば、M3は本来のGPU性能をフルに発揮するだろう。特に3Dソフトでは、モデリングやレンダリングの処理速度や品質が大きく向上すると考えられる。

また、10月にリリースされたWindowsゲームをmacOS上に移植するためのツール「ゲームポーティングツールキット」は、メタルに対応しており、M3の次世代GPUのアクセラレータによりゲームのグラフィック処理が加速される。つまり、M3搭載Macは今後移植される数多くのWindowsゲームで高フレームレート化および高画質化が期待できる、というわけだ。

※この記事は『Mac Fan』2024年1月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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