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M4はM2 Proを超えた!? 新iMac、Mac mini、MacBook Proに見る「高性能CPUコア」の大幅強化

著者: 今井隆

M4はM2 Proを超えた!? 新iMac、Mac mini、MacBook Proに見る「高性能CPUコア」の大幅強化

Photo●Apple

M4シリーズとはどんなAppleシリコンなのか

M3シリーズの登場からほぼ1年。5月に先行してiPad Proに搭載されたM4と合わせて、M4シリーズを搭載した3モデルのMacが出揃った。今回はM4シリーズが新しいMacにどのような貢献をもたらしたのか、見てみよう。

M4シリーズはiPhone向けのA18シリーズと同じTSMCの第2世代3nmプロセスルール「N3E」で製造されるAppleシリコンだ。M3シリーズで採用された第1世代3nmプロセスルール「N3B」と比べて動作速度が向上し、エネルギー効率が改善。また歩留まりが大きく向上しているという。

M4シリーズは、台南のサイエンスパークに建設されたTSMCの3nmプロセス製造工場であるFab 18で生産される。A17 Proで使われた第1世代の3nmプロセスルール「N3B」より動作速度と省電力性能で勝り、歩留まりの向上した第2世代の3nmプロセスルール「M3E」が使用されていると推測される。
Photo●TSMC

M4シリーズの特徴は、CPUコアの再設計による性能アップとメモリ帯域およびNeural Engineの強化、そしてインターフェイスの機能と性能の向上にある。M4シリーズでは特に高性能CPUコアが大幅に強化され、10ワイド命令デコーダの採用や分岐予測の改善が行われ、演算結果を格納するリオーダバッファが40%向上した。

これらはいずれもCPUコアが同時に並列処理できる命令数を増やすもので、結果として高性能CPUコアのIPC(クロックあたりの処理性能)が大きく向上し、シングルスレッド性能で他社のあらゆるプロセッサをも凌駕する史上最速のCPUコアとなっている。

M4シリーズでは新設計の高性能CPUコアが採用されており、同時実行命令数が増強されてIPC(クロックあたりの処理能力)が大きく向上した。また高性能コアおよび高効率コアには次世代MLアクセラレータが採用され、Apple IntelligenceをCPUからもサポートする。
Photo●Apple

CPUやGPUの性能向上はメモリ帯域への要求が高まることから、メモリシステムにも改良が加えられた。M3シリーズではすべてLPDDR5-6400 SDRAMが採用されていたが、M4ではLPDDR5X-7500の採用で20%、M4 ProとM4 MaxではLPDDR5X-8533の採用で33%メモリ動作速度が向上している。

また全モデルでメモリ容量の下限が16GBに設定され、同時に現行モデルであるMacBook Airも16GBに引き上げられた。Apple Intelligenceの動作要件はM1搭載モデル(メモリ8GB以上)以降だが、今後のApple Intelligenceの機能強化に備えてメモリ容量に余裕を持たせたものと考えられる。

M4シリーズは従来より高速なLPDDR5X SDRAMの採用によってメモリアクセス速度が大きく向上している。中でもM4 Proはメモリバス幅も同時拡大されたことで、M3 Proの2倍近いメモリ帯域を実現している。

Neural EngineはA17 Proで初めて採用された次世代コアに更新され、その性能が38TOPSへと倍増した。これはApple Intelligenceのユーザエクスペリエンス向上のために、AI処理の応答速度を引き上げるのが目的と考えられる。

iMacのアップデート

新しいiMacの外観はM1搭載モデル以降ほとんど変わっていないが、その中核であるAppleシリコンは着実に進化してきた。iMacのM4搭載による恩恵は、なんと言っても処理性能の向上だろう。

CPU性能はM3に対して25%アップし、M3 Proに肉薄する性能になった。GPU性能も20%アップしているが、M3に比べて2倍のレイトレーシングアクセラレータを搭載しており、AAAゲームプレイ時のフレームレートや解像度を大きく向上できるようになっている。

Neural Engineの性能が向上しメモリ容量が倍増されたことで、Apple Intelligenceの応答速度が上がり、将来の新しいAI機能への対応力も向上している。

GeekbenchにアップロードされたiMacのCPU(Multi)およびGPU(Metal)のGeekbench 6スコア。そのベンチマークからはM4はM3からの伸びしろが大きく、M3 Proに迫るCPU性能を持つことがわかる。
Photo●Geekbench

インターフェイスでは背面のUSB-CポートがすべてThunderbolt 4に対応した(M3モデルは4ポートのうち2ポートはUSB 3.1 Gen 2だった)。

また外部ディスプレイのサポートが1台から2台に増え、本体ディスプレイと合わせて合計3台のディスプレイが使えるようになった(一部のモデルを除く)。

iMacは背面に2ポートまたは4ポートのUSB-Cを備えるが、M4の搭載により全ポートがThunderbolt 4に対応した。なお2ポートモデルでは外部ディスプレイのサポートが1台に限定されている。
Photo●Apple

Mac miniのアップデート

今回の新製品で、唯一その姿が変貌したのがMac miniだ。2010年にユニボディを採用した薄型モデルになって以降、Appleシリコンに移行してもそのデザインは長らく継承されていたが、実に14年ぶりにデザインが更新された。

新しい筐体は大幅に小型化され、Apple TVよりひとまわり大きいユニボディとなった。フットプリント(設置面積)は従来比で約42%となっている。これこそがAppleシリコンの優れたエネルギー効率を象徴する容姿だと言えるだろう。

Mac miniは実に14年ぶりにそのデザインが大きく変更され、Appleシリコン搭載モデルにふさわしい姿に変貌した。フットプリントは約42%に縮小されてCDジャケットサイズとなり、M4 Proの搭載を実現するために冷却システムが強化されている。
Photo●Apple

M2およびM2 Proを搭載していた前モデルからの性能向上は著しく、M4搭載モデルのCPU性能はM2搭載モデルより50%アップし、M2 Pro搭載モデルのCPU性能を超えている。さらにM4 Pro搭載モデルのCPU性能は50%以上アップし、M2 Ultraを搭載するMac StudioやMac Proに匹敵する性能となった。

GPU性能はCPU性能に比べると向上は控えめだが、Pro Class GPUに更新されたことで3Dグラフィックス性能が著しく向上し、特にレイトレーシングのレンダリング性能が飛躍的に向上している。3Dアプリのレイトレーシング表示が高速化され、AAA級ゲームを高画質でスムースにプレイできる。

GeekbenchにアップロードされたMac miniのCPU(Multi)およびGPU(Metal)のGeekbench 6スコア。それによればM4はM2 ProやM2 Maxに匹敵するCPU性能を、M4 ProはM2 Ultraに匹敵するCPU性能を持つことがわかる。
Photo●Geekbench

インターフェイスも強化され、M4搭載モデルでは背面にThunderbolt 4を3ポート、前面にUSB 3 10Gbpsが2ポート搭載された。さらにHDMIポートと合わせて最大3台のディスプレイをサポートする(従来モデルは2台まで)。さらにM4 Pro搭載モデルではMacでは初の採用となるThunderbolt 5ポートが3基搭載された。

Mac miniは新たに背面に3ポートのUSB-Cを備え、M4搭載モデルではThunderbolt 4、M4 Pro搭載モデルではThunderbolt 5がサポートされた。今後Thunderbolt 5対応の周辺機器が増えれば、そのメリットが発揮されるだろう。
Photo●Apple

MacBook Proのアップデート

新しいMacBook Proの外観は、M2シリーズ/M3シリーズ搭載モデルとほぼ同じだ。搭載するAppleシリコンは毎年最新のものに更新されてきたが、今回のM4シリーズの採用は歴代でもっとも大きな進化となっている。

特に機能向上が著しいのがM4搭載モデルで、CPU性能はM3搭載モデルに対して25%アップし、M3 Pro搭載モデルに匹敵する。GPU性能はM3に比べて約20%向上している。

またインターフェースがThunderbolt 3/USB 4からThunderbolt 4に更新され、ポートも2基から3基へと増加した。ディスプレイエンジンが2基から3基に強化されたことで、内蔵ディスプレイと合わせて最大3台のディスプレイに表示できるようになった。

M4 Pro搭載モデルではCPU性能がM3 Pro搭載モデルより約50%向上し、M4シリーズ中もっとも大きな伸び幅を示すと同時に、従来の上位モデルであるM3 Max搭載モデルに匹敵する性能となった。GPU性能はM3 Proに比べて約30%向上している。またインターフェイスがThunderbolt 4からThunderbolt 5に更新され、将来的な拡張性に余裕がもたらされた。

M4 Max搭載モデルではCPU性能がM3 Max搭載モデルより約25%向上し、過去最強のAppleシリコンだったM2 Ultraを20%以上超える性能を持つに至った。GPU性能はM3 Maxに比べて約25%向上しているが、こちらはM2 Ultraには及ばない。

インターフェイスはM4 Pro搭載モデルと同じくThunderbolt 4からThunderbolt 5に更新された。内蔵ディスプレイを含めて最大5台のディスプレイに表示できる。

GeekbenchにアップロードされたMacBook ProのCPU(Multi)およびGPU(Metal)のGeekbench 6スコア。M4 Maxは、史上最強のCPU性能を誇るAppleシリコンであることがベンチマークからもわかる。
Photo●Geekbench
M4搭載のMacBook Proでは新たに右側にUSB-Cが1ポート増え、M4 Pro/M4 Max搭載モデルと外観上の違いがなくなった。またM4搭載モデルはすべてThunderbolt 4対応、M4 Pro/M4 Max搭載モデルはすべてThunderbolt 5対応となっている。
Photo●Apple

Thunderbolt 5がもたらすもの

Thunderbolt 5はIntelより2022年10月に「次世代Thunderboltテクノロジー」として発表された。これはその発表の前日にUSB-IFからリリースされたUSB4 Version 2.0と同じ技術を用いたフル規格で、2023年9月に正式に「Thunderbolt 5」のブランド名でリリースされている。

Thunderbolt 5はUSB4 Version 2.0との互換性を保ちつつ、USB規格ではオプションとなっている機能の大半を必須要件とすることで、より多くの機能や高い性能を担保する上位規格となっている。
Photo●Intel

Thunderbolt 4は送受信双方向最大40Gbpsの伝送規格だが、Thunderbolt 5では双方向最大80Gbps、または送信最大120Gbps/受信最大40Gbps(帯域ブースト機能)での接続が可能となっている。

Thunderbolt 5はUSB4 Version 2.0の上位規格の位置づけとなり、USB4 Version 2.0ではオプションに設定されている機能の多くを標準でサポートする。

従来のThunderboltはUSB-Cの4対の高速レーンのうち、送受信にそれぞれ2対ずつを用いて対等(バランス)な送受信を行う規格だったが、Thunderbolt 5では受信レーン1対を送信に反転することで送受信でアンバランスな伝送を可能とした。
Photo●Intel

今後Thunderbolt 5やUSB4 Version 2.0対応の周辺機器が充実してくれば、より高速な外付けストレージや、より多くのデバイスが接続できるドッキングステーション、より解像度やリフレッシュレートの高いディスプレイが利用できるようになるだろう。

KensingtonのSD5000T5は、Thunderbolt 5と最大140WのPD給電に対応するドッキングステーション。M4 Maxを搭載したMacBook Proで3台の4Kディスプレイのサポートを謳う。
Photo●Kensington
OWCのEnvoy Ultraは、Thunderbolt 5に対応した外付けSSD。IntelのThunderbolt 5コントローラ「JHL9480」とPCIe Gen.4×4のNVMe SSDを搭載し、6,000MB/秒以上の転送速度を謳う。
Photo●OWC

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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