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iPhone 16分解レポート/内部レイアウト変更、新しいバッテリ交換技術など進化が凝縮

著者: 今井隆

iPhone 16分解レポート/内部レイアウト変更、新しいバッテリ交換技術など進化が凝縮

Photo●iFixit

修理情報の提供やツールの開発販売を手がけるiFixitは9月22日、iPhone 16の分解調査結果を公表しました。その情報と、9月10日(日本時間)に開催されたAppleの新製品発表会で公開された内容をもとに、iPhone 16の内部に秘められた新テクノロジーを探ります。

部品レイアウトの変更

iPhone 16の外観は、前モデルであるiPhone 15と比べて、大きな変化が2つありました。その1つはカメラレイアウトの変更、もう1つはカメラコントロールの搭載です。

カメラレイアウトの変更は空間写真や空間ビデオのクオリティを向上させるためのもので、メインカメラと超広角カメラが従来の対角配置からiPhone XやiPhone 12のような縦配置に変更されています。さらに超広角カメラのイメージセンサが大型化されたことで、iPhone 16のカメラユニットはiPhone 15に比べて縦に長いスペースが必要になりました。

一方カメラコントロールは、タッチセンサと圧力センサ、タクトスイッチを重ね合わせた構造で、その仕組みはMacBookシリーズのトラックパッドに近いものです。この新しいコントロールユニットは、ユーザがiPhoneを横に倒してカメラ撮影する際にちょうど人差し指が当たる位置に配置されており、これによってこの側面フレームの厚さが倍増しています。

そのままだとiPhoneのエネルギー源であるバッテリの収納スペースは、上方向をカメラシステムに、右側面をカメラコントロールに圧迫されて縮小してしまいます。そこでAppleはロジックボードの形状を大きく変更することで、バッテリ容量の減少を防いでいます。

具体的にはL字形状のロジックボードの長辺側、バッテリの横に位置する場所にあったAppleシリコンを、L字形状のロジックボードの短辺側、すなわちバッテリの上部に移動しました。つまりロジックボードの長辺幅を大幅に細くすることでバッテリの横サイズを拡大し、カメラの移動によって抑えられた高さ分の容積を確保しています。そしてロジックボード上で最大サイズを占めるA18は、従来のメインカメラが超広角カメラの下部に移動してできた新たなスペースに収まっているのです。

iPhone 15とiPhone 16のX線画像を比較すると、右側サイドに新たに設けられたカメラコントロールと、上部のカメラ配置の違いにより、バッテリスペースに差があることがわかります。その違いによるバッテリ容量低下を抑えるべく、ロジックボードの形状が変更されています。
Photo●iFixit
iPhone 16とiPhone 16 Plusの内部を比較すると、カメラやロジックボードをはじめとして、構成するコンポーネント(部品)の形状にはほとんど違いが見られません。唯一の大きな違いは、搭載されるリチウムイオンバッテリのサイズです。 Photo●iFixit
iPhone 16シリーズに新設されたカメラコントロールは、MacBookなどのトラックパッドを小型化した構造になっています。
Photo●iFixit

iPhone 16シリーズに新設されたカメラコントロールは、MacBookなどのトラックパッドを小型化した構造になっています。 Photo●iFixit

上から順にタッチセンサ、メカニカルスイッチ、圧力センサで構成されており、指先の僅かな動きでカメラ機能を自在に操ることができます。
Photo●Apple

上から順にタッチセンサ、メカニカルスイッチ、圧力センサで構成されており、指先の僅かな動きでカメラ機能を自在に操ることができます。 Photo●Apple

ロジックボードの放熱対策

iPhoneのような小型のモバイルデバイスでは、Appleシリコンで発生する熱をいかに効率よく外部に放熱するかが重要です。Appleシリコンの熱が十分放熱できなかった場合、その熱でシリコン自体や周辺回路がダメージを受けることを避けるために自動的に性能や機能を抑制する保護機能が働きます。これが一般的にサーマルスロットリングと呼ばれる動作です。

iPhoneのロジックボードは2017年に登場したiPhone X以降2階建て構造になっており、これによってロジックボードの小型化を実現しています。Appleシリコンはその片側のボードの内側に実装されていますが、それゆえに外部に熱を伝えにくい構造と言えます。従来はAppleシリコンを搭載した側のロジックボードの熱伝導性を高め、主にそのボードで熱処理を行う設計でしたが、iPhone 16のロジックボードでは反対側の基板にヒートシンクを装着(SMT実装)し、その間をサーマルペーストで満たすことで反対側のロジックボードも放熱板として積極的に使うよう、設計が見直されています。

9月に開催された新製品発表イベントの中でも、AppleはiPhone 16の熱設計について、最大30%長くその性能を発揮できる、としています。その理由としてA18をiPhoneの中心部に配置したことや、放熱機構の見直しを行ったことを説明しました。iPhone 16は、より強力なAppleシリコンがその性能を存分に発揮できるよう、さまざまな放熱対策を施しているのです。

iPhone 16のロジックボードは2階建て構造になっていますが、上側の無線通信基板の裏面にはスチール製の放熱プレートが溶接されており、下側のメイン基板上のA18の熱をサーマルペースト経由で上側基板に伝達することで、熱伝導効率を向上させています。 Photo●iFixit
ロジックボードを放熱機構として有効活用するほかにも、ロジックボード形状の変更によるA18の中央配置も熱伝達性能の向上に寄与します。
Photo●Apple

ロジックボードを放熱機構として有効活用するほかにも、ロジックボード形状の変更によるA18の中央配置も熱伝達性能の向上に寄与します。 Photo●Apple

そのほか、最適化されたアルミフレームによる熱伝達性能の向上なども相まって、Appleは従来に比べて最大30%長い時間性能を発揮できるとしています。
Photo●Apple

そのほか、最適化されたアルミフレームによる熱伝達性能の向上なども相まって、Appleは従来に比べて最大30%長い時間性能を発揮できるとしています。 Photo●Apple

新しいバッテリ交換技術

iPhoneシリーズで実際にもっとも交換頻度の高いパーツは、有寿命部品であるリチウムイオンバッテリです。iPhone 15ではリアガラス(MagSafe面側)を取り外し、バッテリ上辺にある2つのプルタブを引っ張って、バッテリをフレームに固定している両面テープを外す方式でした。しかしこの工程だけでバッテリが簡単に取り外せるわけではなく、残った接着剤を溶剤などで弱めて剥離する必要がありました。さらに取り外し中にバッテリのラミネートパッケージを損傷したり変形させることは安全上の大きなリスクとなるため、容易な作業ではなかったのです。

iPhone 16ではこのバッテリの固定に、極めて斬新な方式が採用されました。それは電極に電流を流すことで接着力を弱めることができる、画期的な接着シートの採用です。その方法はiPhone 16の出荷開始とほぼ同時に、Appleのサポートページに掲載されました。この接着シートは電極とフレーム間に9Vの電圧をわずか90秒間加えるだけで粘着力が大幅に弱まり、吸盤などでバッテリを容易に持ち上げることができる、とされています。

この技術を使ってバッテリを交換できるのは、必要な資料と工具を備え交換用部品を手配できるサービスディーラーに限られており、ユーザ自身が容易に交換できるようになるものではありません。しかしバッテリとデバイス本体の双方をダメージなく分離できるこの技術が、iPadやMacBookをはじめとするバッテリを搭載するApple製品に全面展開されれば、パーツのリサイクルによるサステナビリティの向上だけでなく、バッテリ交換コストの低減にも期待が持てます。しかし残念なことにこのテクノロジーが採用されたのはiPhone 16のみで、同時にリリースされたiPhone 16 Plus、iPhone 16 Proシリーズは従来のプルタブ式の両面テープのままでした。

このようにiPhone 16は最新のAppleシリコンやカメラコントロールのような外観に影響を及ぼす改良以外にも、内部では新たな試みが行われていることがわかります。そしてiPhone 16で培われたこれらの技術のいくつかは、次の世代のiPhoneの完成度を高めるために引き継がれていくのです。

iPhoneは長らくリチウムイオンバッテリをプルタブ付きの両面テープを剥がす方式を採用してきましたが、iPhone 16では電流を流すことで接着力を弱めることができる新しい素材が採用されています。
Photo●iFixit

iPhoneは長らくリチウムイオンバッテリをプルタブ付きの両面テープを剥がす方式を採用してきましたが、iPhone 16では電流を流すことで接着力を弱めることができる新しい素材が採用されています。 Photo●iFixit

iPhone 16のバッテリの交換方法はAppleのサポートページにも記載されています。
Photo●Apple

iPhone 16のバッテリの交換方法はAppleのサポートページにも記載されています。 Photo●Apple

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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