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Appleの純正ケーブルはなぜ高いのか。“高いことに意味がある”価格設定の裏側

著者: 牧野武文

Appleの純正ケーブルはなぜ高いのか。“高いことに意味がある”価格設定の裏側

※本記事は、『Mac Fan 2014年3月号』に掲載されたものです

さまざまな機器との接続に使われるのがケーブルだ。iOSデバイスならLightning、MacならThunderboltなど。ところが、Apple純正のケーブル単品を買おうとすると何気にお高い。

なぜ、同じ規格のケーブルでも激安のものから高価なものまで存在するのか。これが今回の疑問だ。

HDMIケーブルの品質は、コネクタ部のメッキでわかる

Appleの製品はさまざまなケーブルを使うが、周辺機器とのデータ転送や充電用のケーブルよりも如実に品質の差が現れやすいのが、テレビや外部ディスプレイなどの映像出力に用いるHDMIケーブルだ。HDMIポートを搭載したApple TVはもちろん、MacミニやMacBook Proなどでも利用することがあるだろう。

製品の品質は価格に直接反映される。HDMIケーブルの品質の差は、コネクタ部に金メッキあるいは高価なロジウムメッキが施されているかどうかでわかる。コネクタ部の接点は腐食すると転送エラーが発生し、最悪の場合は接点不良で映像が表示されなくなる。ただし、安価なケーブルでも新品でこうした問題が起こるのは論外であり、コネクタ素材は耐久性に関わる品質と捉えるべきだろう。

テレビの映像転送ケーブルであるHDMI規格のロゴ。メーカーはロイヤリティの支払いが必要だが、1製品あたり15セント(約15円)、さらにHDMIロゴを表示すると5セント(約5円)と格安だ。このほかに、企業として年会費1万ドル(約100万円)を支払う必要がある。ただしロイヤリティが安いせいか、違法なHDMIケーブルが出回っているのは見たことがない。

ケーブルは“安価で十分”。だがメーカーは吟味したい

もう1つは配線ケーブルそのものの品質だ。多くの人が、デジタルケーブルはデジタルデータを転送すると考えているだろう。それは教科書的には正しいのだが、実はケーブルはアナログ的なデータ伝送が行われている。

家庭用レコーダなどのHDMI機器の場合、ケーブルに対してデジタルデータを四角い矩形波で送り出している。しかし、さまざまなノイズ(冷蔵庫のサーモスタットノイズや空中の電磁波)を拾い、劣化してテレビに届く頃には角が丸い波形になってしまう。テレビはこれを〝矩形波とみなして”解読しているのだ。劣化があまりに激しいと矩形波とみなすことができずエラー訂正が行われるが、それでも訂正しきれないと「データ落ち」になる。画面上にノイズが乗ったり映像が途切れるのはそうした品質の劣化による場合が多い。

このようなノイズを拾ってしまうのを防ぐために、HDMIケーブルは線がねじられ、より合わされている。より合わすことでケーブルの周囲に電界シールドが発生し、ノイズを拾わなくなるのだ。しかし、この“より”を精密に行うのは難しく、最高品質のものでは「職人さんが手でより合わせる」ことになり、ここまでくると1本で100万円以上するものまである(このような最高級ケーブルは、品質の悪いケーブルを捨てるので歩留まりが極端に悪く、それが高価格の要因になっている)。とはいえ、映像ケーブルの場合、ノイズが乗るといっても、普通にニュースやバラエティ番組を見ている場合は気がつかないことがほとんどだろう。

保証解像度イーサネット3D
標準HDMI最高1080i××
イーサネット対応
標準HDMI
最高1080i×
ハイスピード
HDMI
最高2160p×
イーサネット対応
ハイスピード
HDMI
最高2160p
HDMIケーブルと一口にいっても、実は4種類のケーブルが存在する。気をつけたいのはハイスピード対応だ。Apple TVは1080pまで対応しているので、仮に標準HDMIケーブルで接続すると、Apple TVの性能を活かしきれない。Apple TVを使っている人はハイスピードHDMIケーブルかどうかを確かめておこう。

これは、結局は個人の考え方次第になってしまうが、自宅でテレビを楽しむ程度であれば安価なケーブルで十分ではないかと思う。ただし、極端に安いケーブルの中にはプラグ部分の接合部が弱くもげてしまうこともあるので、少なくとも汎用的な規格のケーブルについては名のとおったメーカーから一番安いケーブルを選ぶのが現実的だと個人的に思っている。

ケーブルで利益を埋め合わせる。量販店の裏事情

品質とは別にケーブルの価格が大きく異なる理由はもう1つある。それはどこで購入するかだ。量販店、Amazon、価格ドットコムによる最安値を調べてみたところ、量販店ではケーブルの価格がかなり高めな傾向があった。量販店は価格に対する消費者心理をよく知っているので、価格だけを見るとそう違わないように思えるが、アマゾンを「1」とする指数に直してみると、量販店は平均して25%ほど割高だ。

もちろん量販店ではポイントが付加されるという実質割引があるが、アナログ停波前の駆け込み需要があった頃は、私の記憶では量販店は40%近くも高い価格設定だった。

当時、その理由をある量販店の店員がこっそりと教えてくれたことがある。量販店は極限までの価格競争をしていて、テレビ本体の利益はひどい場合には数百円、ときにはマイナス状態まで価格を下げていく。もちろんそれでは経営が成り立たないので、ほとんどの人が同時に購入するケーブルで利益を得る作戦だったのだ。10万円のテレビを買ったときにはケーブルが2000円だろうが5000円だろうがあまり気にしないし、自分でケーブルを選ぶのではなく店員が適切なケーブルを選んでくれるのだから消費者にとっても悪い話ではない。

なお、製造元がわからないので純粋に比較の対象にはしなかったが、現在Apple Storeで販売しているHDMIケーブルはアマゾンと比べても特別に高い価格ではなかった。

某量販店Amazonネット通販最安値
S社HDMIケーブル1.2411.0000.919
P社HDMIケーブル1.2681.0000.960
V社HDMIケーブル1.2961.0000.950
N社アンテナケーブル1.0231.0000.916
V社光オーディオケーブル1.2761.0000.976
量販店、Amazon、最安ネット通販で同一製品の価格を比べてみた。Amazonの価格を1としてみると、量販店価格は約25%ほど高めになる。人件費や店舗の運営費を考えれば当然だが、量販店は厳しい努力をして差を縮めている。だが、アナログ停波前のテレビ駆け込み需要の際には、量販店は40%ほど高かったと記憶している。

Lightningケーブルの価格は品質を担保する

さて、“高い”というイメージのあるケーブルといえば、私たちが普段よく使っているLightningケーブルがある。Apple Storeでは1メートルのものが1980円になっているが、サードパーティー製では1500円前後が多く、中には150円、100円といった製品まで存在する。ピンとキリでは10倍以上の差があるのだ。

この違いはAppleのMFi(Made For iPhone/iPad/iPod)認証の仕組みに原因がある。Apple独自規格のLightningには多数の特許が含まれており、関連商品を発売したいメーカーは、事前にAppleの認証を得る必要があるのだ。

この認証料は極秘事項になっていて、認証メーカーの人間がその情報を漏らすと大きなペナルティを受ける可能性がある。それでもこっそり聞いてみたところ、メーカーがかわいそうになるぐらい高額だった。アイデアに富んだLightning周辺機器であるならともかく、ただのケーブルではほとんど利益は出ない。つまり、150円というケーブルは、このApple認証を受けていない“生”の価格ともいえる。

では、このMFi認証はAppleの囲い込み戦略にすぎず、消費者の不利益となっているのだろうか。私にはそう単純な話とは思えない。さらにメーカーの話を聞いていくと、Appleはただハンコを押すだけで認証料を徴収するのではなく、かなりしっかりとMFi対応製品の品質をチェックをしていることがわかる。その検査料と考えれば認証料が高いとはいいづらい。

Lightningケーブルなど、iOSデバイス関連製品の価格が高めなのは、MFi認証料がそれなりに高額であるためだ。低価格であるケーブルなどでは認証料の占める割合が大きくなってしまうが、スピーカなどの周辺機器などでは認証料の占める割合はさほど大きくない。この「Made for iPhone」などのロゴが付いていない製品は認証を受けていない製品で、iOSデバイスに挿しても利用できない場合がある。

ただのケーブルであれば価格の大半が認証料になってしまうが、アイデアに富んだLightning周辺機器で本体価格数万円というものであれば認証料もごくわずかとなる。Apple的には、「ただのケーブル」といったコバンザメ的な製品ではなく、Appleには発想ができないユニークな周辺機器を開発してもらい、iOSの世界を豊かなものにしてほしいという考えがあるのだろう。

Appleが進める“未承認”の排除

ときどきニュースで報じられるiOSデバイスの故障、発火といった事故も調べてみるとMFi認証を受けていないケーブルを使用していた場合が多いようだ。少なくとも認証製品を使った状況で、そのような重大事故は公式には報告されていない。

また、MFi認証を受けていないケーブルや周辺機器を使おうとすると、iOSデバイスが検出をして動作しないことも皆さんご存じだろう。ケーブルの場合は物理的には挿せても、充電やシンクロができないということになる。

Appleは、この“未認証”製品の排除を年々強化している。真面目に認証料を支払ってくれているサードパーティーを守るためだ。だから、もし「150円」などという格安のLightningケーブルを見つけても、Appleや誠実なメーカーのためにも買うことはおすすめしない。挿しても使えない可能性があるし、何より品質に不安があるからだ。最悪の場合、バッテリなどの発火事故を起こしかねないが、この場合はたとえ本体の保証期間であっても保証修理対象外となる。Lightningケーブルをはじめ、Apple関連のケーブルは確かに“高い”のかもしれないが、高いことに意味がある価格なのだ。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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