※この記事は『Mac Fan』2018年3月号に掲載されたものです。
Macintosh SE、Macintosh IIに覚えた“違和感”
1985年にスティーブ・ジョブズは、自身でペプシコーラの社長(当時)からヘッドハントしてApple Computerの経営面を任せていたジョン・スカリーと対立し、同社を去ることになった。当時は、インターネットもなく、ひと月遅れで到着するような海外の専門誌が情報源だったうえ、情報自体が錯綜して、ジョブズが辞めた理由もはっきりしないところがあった。しかし、いずれにしても、創業者の1人で、Macintoshチームを率いていた人物がいなくなるというニュースには、日本のAppleファンも衝撃を受けた。
もっとも大きな関心事は、彼なき後のMacがどうなるのか?ということだった。翌1986年に発表されたMacintosh Plusは、初代モデルの基本デザインを引き継ぐ形で登場し、ある意味で安心したものの、その1年後に登場したMacintosh SEとIIには、かなりの違和感を覚えた。それは僕だけではない。当時のApple Japanのスタッフも含めて、この2つのニューモデルを初めて見た人は、その直線的でビジネスライクな外観や、ジョブズが嫌った拡張スロットを備えたオープンな仕様に驚きを隠せなかったのである。
確かに、初代Mac〜Mac Plusは、その可愛らしい外観が「Macはオモチャ」との風評につながる要因ともなり、質実剛健的なデザインを貫くIBM PCが台頭する市場に受け入れられるためには、やむを得ない変化だともいえた。加えて、SEやIIのデザインは、実際にはジョブズがその才能を見込み、巨額の契約金を支払って専属化した西ドイツ(当時)のフロッグデザインが手がけたものであり、彼の嫌った拡張性を除けば、その意志が反映された遺産的なところもあった。
“悪評”のマシン。しかし、歴史的には時流に先んじた存在だった
Macintosh SEは、初代Macのイメージも残しつつ、フロッグデザインが規定した「スノーホワイト」と呼ばれるデザイン言語(デザインに共通性を持たせるためのルール)に基づいた細かなスリットを持ち、これが精密感を与えるとともに、冷却気の吸い込み口という機能性を担っている。Mac Plusまではなかった電動ファンを内蔵し、動作の安定も図られたが、コアなMacユーザの目には、この点もある種の堕落と映った。
Macintosh IIは、さらにそれまでのMacの常識を覆したマシンであり、縦型のトールボーイスタイルを捨てて、ディスプレイを分離した四角四面のビジネスライクなデザインを身にまとっていた。そして、SE共々、後にインテルがUSB規格開発のヒントにしたといわれる周辺機器接続用のI/OポートであるADB(アップル・デスクトップ・バス)を内蔵し、パワーキー(電源ボタン)を備えたADB対応の純正キーボードから本体を起動できた(SEは未対応)。しかし、このキーボードには、やはり若き日のジョブズが毛嫌いしたファンクションキーが付いており、これもベテランユーザには評判が悪かった。
それでも、時を経て冷静な目で振り返ると、両モデルのデザインが当時の業界水準から飛び抜けた存在だったことは明白だ。後年、フロッグデザインに自社のコンピュータや周辺機器のデザインを発注する企業が増えていったが、その意味でもAppleは時流に先んじていたのである。
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著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。