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新しいiPhoneに込められた地球環境を守るためのメッセージ

新しいiPhoneに込められた地球環境を守るためのメッセージ

環境対策をビジネスの中核に

環境保護活動への取り組みをCSR(企業の社会的責任)の一環として掲げる企業は多くあります。しかし、日本ではいまだに企業の活動本体とは切り離された文化事業やイメージ向上の手段としてしか認識されていない傾向があるようにも思われます。特にハードウェアを手がける製造業においては、サプライヤーからの部品供給、製造、流通、販売、使用済み製品の回収とリサイクルといった一連の活動において本気で環境に配慮された製品を作ろうとすれば莫大なコストが掛かるのが容易に想像できますので、無理からぬことかもしれません。

しかし、アップルは国家規模ですら実現が困難なこうした地球環境への配慮や気候変動への対策といった大きなテーマへの取り組みを、事業活動への中核に位置付けようとしています。そのことは新しいiPhoneを発表するスペシャルイベントにおいても明確に宣言されました。登壇したのはアップルの環境・政策・ソーシャルイニシアティブ担当バイスプレジデントのリサ・ジャクソン氏。2009年から2013年までオバマ政権下で米国環境保護庁長官を務めるなど環境対策の分野で世界をリードするエキスパートです。発言の内容は2018年4月22日のアースデイで発表されたものと重複する部分も含まれていましたが、アップルの環境への取り組みがどのように製品開発に活用されているのか、また私たちがiPhoneを選ぶということにどのような意義があるのかを改めて認識させるものとなりました。

再エネ100パーセント

ジャクソン氏はまずアップルの全世界のオフィス、アップルストア、データセンターなどで用いる電力を100パーセント再生エネルギーで賄うことを実現させたと報告しました。

スペシャルイベントの会場にもなった「アップルパーク( Apple Park)」はそれを象徴する施設で、屋根に設置されたソーラーパネルとバイオガス発電でエネルギーを作り出し、高効率な熱伝達システムで空調などの省エネルギー化も実現しています。こうした取り組みは「アイメッセージ(iMessage)」や「フェイスタイム(FaceTime)」などを扱う同社のデータセンターにおいても同様に行われていて、膨大な電力消費が再生エネルギーによってすべて転換されています。なお、中国では大型の風力と太陽光を組み合わせた発電施設の計画が進められ、国土に設置の余裕のないシンガポールや日本ではビル屋上にソーラーパネルを多数展開することでこれを賄っています。

再生エネルギー100パーセントを転換したグローバル企業は、ほかにもグーグルなどがありますが、ソフトウェアやサービスに加えMacやiOSデバイスなど消費電力の高いアルミニウム加工製品をメインで取り扱うハードウェアメーカーとしては偉業を成し遂げたと言ってもよいでしょう。こうした理想主義とも思われる目標を現実に達成してしまうところに、アップルの本気度が感じられるのではないでしょうか。

「長く使える」iPhoneへ

iPhone本体のリサイクルの取り組みも具体的な数値が述べられました。たとえば、ロジックボード配線に用いられる錫(スズ)の材料をリサイクル素材に変更することで、年間で1万トンの新たな採掘を抑制できたとしています。年間2億台以上出荷されるiPhoneでは、ほんのわずかな仕様変更が大きな成果を生むことがよくわかります。また、それ以外のパーツも再生プラスチックやバイオ由来のプラスチックを用いることで環境負荷を下げています。

また、素材レベルはもちろんのこと、ソフトウェアによって製品寿命が長く保たれることもiPhoneの利点だとジャクソン氏は述べています。7世代に渡って最新のOSが使えるという事実はそれだけでも注目すべきことですが、それにも増して「地球環境のために最新モデルでなくても快適に使い続けられるようにした」という点をアップル自らが表明したことには驚きを禁じえません。通常、営利企業であれば買い替えのサイクルを早めたいと考えるのが一般的なはずですが、アップルは地球環境の保全にはそれ以上の意義があり、製造者にはその責任があることを述べたわけです。これらの総合的な環境配慮への取り組みにも関わらず、一部の環境保護団体からはアップル製品のライフサイクルの短さが批判されていましたが、これが実に不適当なものであったことがわかります。

未来世代へのギブバック

もちろん、どのようなアップル製品であろうとも、いずれ手放すときがやってきます。この際に利用できる公式のリサイクルプログラム「アップル・ギブバック」や、回収されたiPhoneを素材レベルにまで自動分解するロボット「デイジー(Daisy)」の機能向上についても改めて紹介され、アップルが長期にわたって持続可能な循環型のエコシステムを志向していることが示されました。

また、今回の講演では触れられませんでしたが、今年に入りドイツでは環境保護とプライバシー尊重に関するアップルのCMキャンペーンが展開されました。これはEUのGDPR(一般データ保護規則)の施行を受けての動きではありますが、通底するのはユーザの人権を最大限尊重し、いかなる不利益をもたらさないようにするアップルの基本姿勢です。常にユーザのために、そして未来のユーザのためにギブバック(お返し)していくことで地球環境も守っていくという道筋に共感する人は多いのではないでしょうか。今回のスペシャルイベントで掲げられた新社屋アップルパークのデザインを思わせるリングは、その調和のアイコンとしての意味合いが込められているのではないかと思わずにはいられませんでした。

2018年4月に発表されたiPhone分解ロボット「Daisy」は、2016年の「Liam」からさらに性能を向上させ、9種類のiPhoneを1時間に200台分解できるようになりました。回収した資源は新たな製品としてリサイクルされています。

再生可能エネルギーとリサイクルに関するAppleの取り組みについて語っているのは、環境・政策・ソーシャルイニシアティブ担当バイスプレジデントのリサ・ジャクソン氏です。

スペシャルイベントが実施された新社屋「Apple Park」もまたAppleの環境問題への姿勢を体現した象徴的な建物です。屋根のほとんどにソーラーパネルが設置され、バイオガス発電との合計で17MWhの発電量を持ちます。

最新のiPhoneではロジックボードにリサイクルされた錫(スズ)を使用して1年間で1万トン以上の採掘を削減、スピーカのエンクロージャは35%の再生プラスチック、カバーガラスのフレームは32%がバイオプラスチックが使用されていると発表しました。いずれも性能や耐久性を落とすことなく実現したといいます。

地球環境のために可能な限り長く使い続けられることもアップルデバイスの特徴と強調しました。たとえば、iOS 12はiPhone 5sから最新のiPhoneまで対応します。5年以上も最新OSをサポートするスマートフォンはほかに例を見ません。

不要になったアップルデバイスは「Apple giveBack」プログラムで返却できます。下取り分は次のiPhoneなどを購入する際に利用可能で、下取り対象外でも無料でリサイクルされ、新しいデバイスのために生まれ変わります。

2018年9月のスペシャルイベントのデザインとして採用された金のリング。環境との調和を意味しているようにも見受けられます。