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iPhone XS/XS Maxの全貌②

iPhone XS/XS Maxの全貌②

スペックではわからないカメラの進化! デュアルカメラが写真撮影を変える

高度な画像処理で美しく

新モデルが発表されるたびに大きな進化を遂げるiPhoneのカメラ性能ですが、2017年以降進化の様相が変わってきています。今まではカメラレンズの画素数や絞り値の向上、LEDフラッシュの改良など、ハードウェア面でスペックアップが重ねられてきました。しかし、今年は特にソフトウェア処理での性能向上が著しく、スペック表ではわからないカメラ性能の進化が体感できます。

その中核を担うのが、新プロセッサ「A12バイオニック」です。機械学習処理向けの「ニューラルエンジン」は同時処理能力が最大9倍高速化し、画像処理を行うイメージシグナルプロセッサ(ISP)も強化。リアルタイムに複雑な画像処理をより素早く行えるようになりました(詳細は34ページ)。

たとえば、明部から暗部まで精細に再現するHDR(ハイダイナミックレンジ)は「スマートHDR」に進化。撮影すると被写体を分析し、動きのある被写体であれば、4枚のフレームの倍の8枚のフレームを露出を変えて同時に撮影し、ハイライトのディテールを把握します。さらに、シャドウのディテールがわかるフレームも追加。それらを瞬時に分析し、その中から最適なフレームを数枚ピックアップして合成し、美しいHDR写真を生成します。iPhone Xs/Xs Maxなら、逆光でも黒つぶれや白飛びの少ない写真を残せるようになるのです。

一眼レフ級の仕上がり

A12バイオニックによって、被写体の背景をぼかす「ポートレートモード」の質も向上しました。ISPの深度エンジンが、ニューラルエンジンから収集したデータを使って、被写体と背景を正確に区別。一眼レフカメラのようなナチュラルなボケ(スペシャルイベントでも「Bokeh」と表現されて紹介)を作り出します。さらに、「深度コントロール」機能が新たに追加され、撮影後でもボケ具合を自由に調整できるようになりました。スマートHDR、ポートレートモードの深度コントロールは、前面カメラでも使えるため、今後よりリッチなセルフィーがSNSを席巻するようになるでしょう。

ビデオもより高品質に

写真だけでなく、ビデオの性能も向上しました。カメラセンサの改良によって、暗い場所でのパフォーマンスとブレ防止性能がアップしたほか、拡張ダイナミックレンジにより、明部と暗部を綺麗に映し出します(最大30fps)。また、録音機能は従来のモノラルからステレオ録音、ステレオ再生に進化したので、思い出をよりワイドなサウンドで楽しめるようになりました。前面カメラでも拡張ダイナミックレンジが適用されるほか、新たに「映画レベルのビデオ手ぶれ補正」機能(1080pおよび720p)が追加。ビデオでもセルフィーのブレが減り、より精細な撮影が実現するため、映像作品の可能性がさらに広がります。

実際にiPhone XとXs/Xsでカメラを撮り比べてみると、写真、ビデオともに、今まで難しかった暗部と明部が混在するシチュエーションでも、見たままを美しく撮影できるようになっていることがわかります。また、背面カメラと前面カメラの性能差をほとんど感じないほど、前面カメラの性能が向上した印象です。ポートレートモードの進化も著しく、手軽に一眼レフクラスの写真が残せる楽しさもあります。子どもやペットをよく撮影する人、セルフィーが多い人などは、特に恩恵を受けることができるでしょう。

1200万画素のデュアルカメラを搭載

背面はiPhone Xと同様、広角と望遠のデュアル1200万画素カメラと、クアッドLED True Toneフラッシュを搭載。両カメラとも光学式手ぶれ補正に対応し、明るさは広角レンズがF1.8、望遠レンズがF2.4となっています。カメラセンサは暗所により強いものに改良されました。

ポートレートモードの大幅強化

背景のボケはより精巧になり、本格的なポートレート写真を撮 影できるようになりました。さらに、ポートレートモードで撮っ た写真の被写界深度を撮影後にスライダを使って調整できる 「深度コントロール」機能が新たに加わりました。今年秋のソフ トウェアアップデート以降は、リアルタイムでもボケが変更で きる機能が提供されます。

5種類のエフェクトが使えるポートレートライティング

ポートレートライティングは、iPhone Xから引き続き5種類のエフェクトを使用できます。Xs/Xs Maxでは、被写体の顔が検出されると、すぐにフェイシャルランドマークによってエフェクトを適用させます。

HDRの描写力が向上

HDR(ハイダイナミックレンジ)は「スマートHDR」に進化。露出を変えた複数のフレームを一度に撮影し、その中からさらに最適なフレームを合成して1枚の写真を生成します。太陽光、水面にできる影、水しぶき、髪の1本1本まで美しく再現します。

スマートフォン最高品質のビデオ性能

iPhone Xに引き続き、最高60fpsでの4Kビデオ撮影が可能。新たな拡張ダイナミックレンジ機能により、明部と暗部を精細に再現するため、より美しい映像を残せます。暗い場所でのパフォーマンスととブレ防止機能も向上しました。また、ビデオは初めてステレオ録音に対応。4つの内蔵マイクを使うことによって、アウトドアでも臨場感のあるサウンドを残せるようになっています。

前面カメラの性能を強化

前面のTrueDepthカメラは700万画素、F2.2レンズを搭載。背面カメラと同じく、ポートレートモードでは撮影後に「深度コントロール」で被写界深度を調整できます。セルフィーでもプロレベルの写真が撮れるようになりました。次ページで掲載している旧モデルと比較をチェックしてみてください。

HDR撮影の比較

A12 Bionicによって、より高度なHDR撮影が可能になったiPhone Xs/Xs Max。旧モデルと比べると、作例では空が白飛びすることなく、青がしっかりと表現されています。

ポートレートモードの比較

ポートレートモードは、より一眼レフカメラに近い描写が可能になりました。被写体と背景の境界線がよりナチュラルになっています。

前面カメラの比較(写真)

iPhone 7とiPhone 8のFaceTimeカメラ、iPhone XSのTrueDepthカメラを比較してみました。iPhone XSでは、顔色が明るく肌は滑らかに写っています。また、TrueDepthカメラでは背面カメラ同様、5種類のポートレートライティングを使うことができるのもメリットです。

前面カメラの比較(ビデオ)

iPhone XSでは、背面カメラと同じくTrueDepthカメラにも「映画レベルのビデオ手ぶれ補正」機能が加わりました。iPhone XSのTrueDepthカメラでムービーを撮影しても、手ブレが補正されてスムースな映像が撮影できます。

4Kビデオ撮影比較

60fpsでの4Kビデオ比較です。暗い場所の撮影でも、黒つぶれすることなく、しっかりと色が表現されています。また、ステレオでの録音および再生に対応したため、サウンドがよりダイナミックに感じられます。

プレビュー画面の比較

シャッターボタンを押す前のプレビュー画面を比較してみました。iPhone XS/XS Maxではより鮮やかに色が表現されています。

1つのiPhoneに2つのプラン デュアルSIM採用で通信の自由度アップ

海外旅行が便利に!

iPhone XS/XS Max/XRでは、LTEのセルラー通信に新たな機能「DSDS(デュアルSIM/デュアルスタンバイ)」が追加されました。

このDSDSをわかりやすく説明すれば、1台のiPhoneで2つのSIM(通信プラン)を同時利用できるようにするテクノロジー。1つは本体内蔵の「eSIM」、もう1つはトレイで挿入する通常のナノSIMカードとなっているのも特徴です。ちなみに、中国、台湾、マカオで販売されるiPhone XS Max/XRのみ、eSIMは使わず、2枚の物理的なナノSIMを使う仕様です(XSは2枚挿し非対応)。

デュアルSIMに対応したことにより、iPhone1台に会社用と個人用の電話番号を割り当てたり、海外旅行や出張の際にキャリアのローミングと現地のデータSIMを組み合わせるといった使い分けができるようになります。また、データ通信できるのは2枚のうちどちらか1つのSIMとなるので、音声通話やSMSは大手の通信キャリアで、容量が必要なデータ通信はMVNOの格安なデータプランを使うという組み合わせも考えられます。

ただし、残念ながら今回の発表では、日本国内の主要キャリアはこのデュアルSIMのeSIM対応リストには入っていませんでした。そのため、現状では海外旅行や出張に役立てるのが現実的と言えるでしょう(利用にはiPhone XS/XS MaxのSIMフリーモデルが必要になります)。

なお、グローバル展開するサービスプロバイダの「ギグスカイ(GigSky)」は日本国内でもサービス提供しているので、インバウンドで利用されるというシチュエーションが想定されます。

技術的に大きな可能性

DSDSは海外に出掛ける用事があまりない人にとってはメリットを感じにくい技術かもしれません。しかし、内蔵のSIM情報を書き換えられる従来の「アップルSIM」よりも汎用的な規格を採用したことで、キャリアやデータ通信プランの選択がより柔軟に行えるようになりました。これによりアップルが志向する「クラウドSIM・バーチャルSIM(SIMカードを必要としない高速インターネット接続環境)」の実現にまた一歩近づいたと言えるでしょう。

2つのSIMを同時利用できる

新しいiPhoneでは「DSDS(デュアルSIM/デュアルスタンバイ)」が初めて採用されました。内蔵eSIMと物理的なnanoSIMの2つで同時に待ち受け利用できる画期的なテクノロジーです。

SIMスロットの比較

iPhone X(左)とiPhone XS(中央)、iPhone XS Max(右)のSIMスロット比較です。iPhone XSのみスロットの形状が少し異なっています。

Apple SIMではなくeSIMを採用

Wi-Fi+セルラー版のiPadやApple Watch Sereis 3以降にもデータ書き換え可能なSIMである「Apple SIM」が搭載されてきました。DSDSではより標準的な規格である「eSIM」に準拠しています。

日本国内キャリアは未対応

発表されたeSIM対応キャリアには国内主要キャリアの名前はありませんでした。しかし、Apple SIMにはなかったVodafoneやVerizonなど強力なパートナーが参加しています。【URL】https://support.apple.com/ja-jp/HT209096

中国・香港はSIMカード2枚挿し

eSIMは世界のほとんどのエリアで利用可能ですが、当局の規制が厳しい中国・香港・マカオ地区ではnanoSIMカードを物理的に2枚トレイに挿せる独自モデルとして提供されます(iPhone XS MaxとXRのみ)。

複数プランの使い分け

SIMロックフリーのiPhone XS/XS Max/XRであれば複数のモバイル通信プランをアクティベートし同時利用できます。2つ目のプランからはラベルやデフォルト回線をどちらにするかなどが設定できます。

デフォルト回線の設定

複数の通信プランを設定すると、デフォルト番号の設定を行います。このデフォルト番号が「メッセージ」のiMessageや「FaceTime」に用いられます。プランの使い分けは以下の3パターンです。

ステータスアイコンの表示

デュアルSIMの電波強度アイコンはステータスバーやコントロールセンターにアイコンとして表示されます。[P]とあるのがプライマリの通信プランで、[S]とあるのがセカンダリの通信プランです。