Microsoftは米国時間8月1日、399ドルのタブレット型PC「Surface Go」を発売した。高い質感のデザインと評判の良いペンへの対応、そしてIntelチップを搭載し、これまでどおりWindowsアプリを利用できるこの製品は、Appleにとってどんな脅威をもたらすのだろうか。
サーフェスという存在
マイクロソフトは世界でもっとも多くのPCにインストールされているOSを供給する一方で、「サーフェス(Surface)」シリーズによるPCハードウェアも展開している。
サーフェスはマイクロソフトによるコンピュータのあるべき姿を体現する製品であり、タブレットとPCの2イン1スタイルであるサーフェス・プロ(Surface Pro)、ディスプレイを取り外せる「デタッチャブル」というカテゴリを示したサーフェス・ブック(Surface Book)、巨大なタッチスクリーンを備えたクリエイティブプロ向けのサーフェス・スタジオ(Surface Studio)、ライトなノートPCのサーフェス・ラップトップ(Surface Laptop)がラインアップされている。
いずれのモデルもすっきりとした見た目で、また落ち着いたカラー展開、手触りの良い布系の新素材アルカンターラを用いるなど、これまでのパソコンのデザインやスタイルとは一線を画している。そうしたストーリーは、アップルがMacで仕掛けてきた手法と重なる部分もある。
もちろん、マイクロソフトはいずれのデバイスでもパフォーマンスにもこだわり、また「ビジネス向け」の製品を設定してオフィス(Office)をバンドルするなど、企業に対して「即戦力マシン」としてのアピールも欠かさない。
サーフェス・ゴーの戦略
そうしたラインアップに新たに加わったのがサーフェス・ゴー(Surface Go)だ。サイズは245×175ミリ、厚さ8.3ミリ、重さは522グラムというコンパクトなボディに、タッチ対応の10インチディスプレイを備える構成だ。キックスタンドや、アクセサリとなるトラックパッド付きキーボードカバーなどはすべて上位モデルのサーフェス・プロと同じように用意され、評判の良いサーフェスペンもサポートしている。小さく、もっとも持ち運びやすいサーフェスという存在である。
注目されたのは価格だ。サーフェスシリーズは性能にあまり妥協せず、価格もほかのPCより高めに設定されてきた。そうした中でサーフェス・ゴーは、シリーズの高い質感や機能を保ちつつ、米国では399ドル(日本ではオフィスをバンドルするため6万9984円)からという低価格が設定されたことで、高い注目を集めた。
発売タイミングが8月だったこともあり、米国の新学期シーズンに合わせて、持ち運びしやすく、タブレットとしても活用できるパソコンというポジションも狙っているだろう。教育市場向けに299ドルで販売されるアップルの9.7インチiPadや、200ドル台で手に入るグーグルのクロームブック(Chromebook)に対抗する製品、と位置づけられる。
力不足が目立つ
低価格に抑えたサーフェス・ゴーは、製品の美しさや持ち運びのしやすさ、といったタブレットPCのトレンドを押さえているが、やや割り切りすぎた部分も目立つ。たとえば、処理性能は2018年モデルのiPadはおろか、2017年モデルの製品にも勝てない。
1.6GHzインテル・ペンティアムゴールド搭載のサーフェス・ゴーをベンチマークソフト「ギークベンチ」で実測してみると、シングルコア2086、マルチコア3937。A10フュージョンで動作するiPad第六世代のスコアはそれぞれ3520と5964で、大幅に処理性能で劣っていることがわかる。
サーフェス・ゴーでは、オフィス製品は問題なく動作するが、たとえばプレゼンテーション作成の「パワーポイント」では、3D効果を満足に動作させられないなど、パフォーマンス面での制約がついて回ることになる。
また、399ドルという低価格にも落とし穴がある。後述の理由から、キーボードとトラックパッドを備えたタイプカバーは必須であり、追加で129ドルが必要だ。またサーフェスペンも99ドルかかり、これらを揃えた「サーフェス体験」を実現するには合計で627ドルかかる。この価格は、性能が高いiPadにキーボードとアップルペンシルを加えるより100ドル高くなるだけでなく、クロームブックに対しても競争力に欠ける。
また、サーフェス・ゴーにインストールされるウィンドウズ10の問題もある。ウィンドウズそのものやアプリは「完全なタッチ操作」に対応していないのだ。たとえばインターフェイスに表示されるボタン類の小ささは、マウスが必要であることを表している。そのため、キーボードとトラックパッドが内蔵されるタイプカバーを必ず組み合わせるべきであり、結果として399ドルではなく、129ドルを加算した528ドルを最低価格とすべきなのだ。
iPadの優位性は高まる
一方、iPadはiOSでタッチ操作を前提としており、OSだけでなくアップストアを通じて配信されるアプリを使う際にも、アクセサリに頼る必要はない。もしアップルペンシルを追加したとしても、299ドルに99ドルを加算した398ドルが最低価格であり、サーフェス・ゴーよりコストの面で勝っている。また、パフォーマンスの高さは長期的な利用の面でも有利で、アップルがとなえるクリエイティブを用いた学習の実現を可能とする。
iPadのほうが、タブレットとしての完成度が高く、おそらくその差は今後も埋まっていかないだろう。そのためサーフェス・ゴーが教育市場において、価格面でクロームブックを、学習充実度でiPadを脅威に陥れる可能性は意外なほど低い。やはり、iPadの代替にはなり得ない存在なのだ。
ただし、ビジネス用途においては、異なる評価が与えられるかもしれない。特に日本においては、ウィンドウズ向けのソフトウェアを前提としたサービスや、インターネットエクスプローラでのみアクセス可能なWEBサイトが数多く存在する。サーフェス・ゴーはこれらに問題なく対応できるため、iPadやクロームブックにない優位性を発揮することになるはずだ。
さらに、Macユーザにとっては、もっともスマートでコンパクトなウィンドウズPCとしての活用も、1つの道かもしれない。というのも、MacBookシリーズで利用しているUSB−Cケーブルと充電器でサーフェス・ゴーを充電できるというメリットがあるのだ。低価格なサーフェス・ゴーは、Macユーザのビジネスシーンを助ける1台になり得るかもしれない。