どの時間帯に行っても混み具合が尋常ではないロサンゼルス国際空港(LAX)。一時は禁じられていたUberを使った迎車も選択肢にあるものの、空港に入ってからの車の進み具合の遅さといったら。そんな混雑がネックなLAXですが、長所は離着陸する飛行機を超近距離から眺められるスポットが近所にあること。
腹ごしらえついでに飛行機ウォッチングができるのが、空港から車で5分ほどのところにあるファーストフード店「In-N-Out Burger」。昔ながらのオーソドックスなハンバーガーが懐かしいカリフォルニア生まれのチェーン店では、文字どおり“目の前”を飛行機が通過していきます。砂浜に寝転んで海を横断していく飛行機を眺められる「ドックワイラー・ビーチ」もおすすめ(空港から車で8分)。
さて、空の移動手段イコール飛行機という時代が少しずつ変わりはじめているようです。2017年秋ニュースになったのが、ドバイが取り組む“空飛ぶタクシーサービス”。9月にはそのヘリコプター式飛行装置のテストフライトを実施し、5分間かけて200メートルの飛行に成功。最終的には飛行時間30分までに対応する目的で現在も開発が進行中。また今年2月には、中国のドローンメーカーが空飛ぶ飛行機の開発に取り組んでいることが報道されました。無人ではありますが、すでに1000回を超えるテスト飛行を実施済みとか。
そんな個人が空を飛ぶ“パーソナルフライト”の到来に貢献してくれそうなのが、「GoFly」という国際的なコンペティションです。アメリカの大型旅客機と航空宇宙機器のメーカーであるボーイングがスポンサーし、開催期間は2年間と長期にわたります。
コンペティションの最たる目的は、パーソナルフライトの商用化です。具体的なお題はというと、ひと一人を乗せて20マイル(約32キロ)を飛行できる安全で静か、コンパクトで軽量な飛行装置を設計・開発すること。優勝者には、総額200万ドル(約2億2100万円)が支給されます。GoFlyはインキュベーションとしての機能も兼ね備えており、ソフトウェア、サービス、製品面での支援、またエンジニアリング・ファイナンス・法律などのメンターなどによるサポートも受けられるそう。
GoFlyには、世界95カ国から3000人が参加。6月14日に結果発表があった第一ステージでは、デザインプロトタイプが優れた10チームが選抜されました。ラトビア、オランダ、イギリス、台湾、アメリカのほかに、日本からのチームも。ホンダの研究開発員や東大の研究生など、8名から成る日本チームが開発するのは、「teTra 3」と名づけられた飛行装置です。一見するとバイクの進化版のような見た目で、その効率性と個人利用への商用化を見据えたスタイリッシュなデザインが特徴だとか。
優勝チームのデザインは、全体的にドローンの影響を受けているものが多いように見受けられ、基本的には既存の飛行装置の延長線上にあるようなものが目立ちます。そんな中、日本チームのteTra 3はコンパクトさと斬新なデザインとを兼ね備えている印象。各優勝チームは、これからデザインプロトタイプを構築するステージへと進みます。
2019年に予定される実技ファイナル「Fly-Off」には、完成された飛行装置がずらりと並んだ光景が拝められるはず。1908年にフォードが発売したモデルTが、人々の陸での移動に変革を起こし、その生活や仕事、旅行を根本から変えたように、GoFlyの存在がパーソナルフライトを同じように変えるカタリスト的存在になるのかもしれません。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp