Appleは教育機関向けの学習管理アプリ、「Schoolwork」を公開した。クラスの設定や年次の更新はApple School Managerに任せ、Schoolworkアプリは、学校の教員と児童生徒が授業に取り組むことに特化している。
グーグルに対抗
アップルは2018年3月27日に米国シカゴで開催したスペシャルイベントで、第6世代iPadとともに、「教えるツール」群を披露した。6月に開催された世界開発者会議「WWDC 2018」では教育向けセッションも用意し、米国の秋の新学期シーズンに向けて、デバイス、そしてソリューションの両面を取り揃えたことになる。
アップルが公開した新アプリ 「スクールワーク(Schoolwork)」は、いわゆるLMS(学習管理システム)に相当し、グーグルの教育向けGスイート(G Suite)における「グーグル・クラスルーム(Google Classroom)」が直接的な競合となる。できることのほとんどは同じだ。
スクールワークでは、クラスの児童生徒に対して課題を出したり、コミュニケーションを取ったり、サポートをしたり、授業に関連することのほとんどすべてをアプリ上で行うことができる。教室での授業を前提に設計されているが、通信教育でも活用することができるだろう。
スクールワークに合わせて、アップルは教育用のアイクラウド(iCloud)アカウントを用意する。教育機関のデバイス、アプリ、アカウントを管理するためのWEBサイトポータル「アップルスクールマネージャー(Apple School Manager)」から設定するアカウントには、無料で200GBのストレージを提供。これにより、個人iPadを持たずデバイスを共有する場合でも、自分のデータをすべてクラウドに保存可能だ。
学校のポリシー設定にもよるが、これによりメールやアイメッセージ(iMessage)、フェイスタイム(FaceTime)といったコミュニケーション機能を利用できるようになる点も大きい。従来は、iPadを使いたくてもメールサーバを独自に用意しなければならず、教育向けGスイートを併用しなければならなかった学校は多い。アイクラウドのメールや200GBものストレージを無料で利用できるようにしたことで、Gスイートに頼らずにiPadが利用可能になった。
使い始めも簡単
AppleのSchoolworkアプリは無料。アプリを開くと、Apple School Managerで設定したクラス(教科)が自動的にダッシュボードに表示される。クラス(教科)をタップすると、クラスごとにハンドアウト(課題)を作成可能だ。
体験で差をつける
LMSとしてはグーグル・クラスルームと同じような機能を持つスクールワークだが、体験の面では大きな差をつけることに成功している。中でも、PDFやEブックのほか、特定のアプリを用いて児童生徒に課題を出せるのが特徴だ。
たとえばガレージバンドで音楽やポッドキャスト制作の課題を出すと、スクールワークからガレージバンドを起動してトラックを仕上げ、そのままスクールワークに提出できる。しかも、児童生徒がゼロからすべて作るだけでなく、あらかじめ教員が用意したデータを編集して仕上げるような課題の出し方にも対応する。
また、ページズ、ナンバーズ、キーノートといったアプリでも課題提出の際に、編集中のレポートに教員がコメントを入れることができる。加えて、さまざまなサードパーティの教育向けアプリもスクールワークに対応し、アプリ内の一部(個別のレッスンやステージ)を、配布資料や課題として指定することが可能だ。
このように、スクールワークは、単にクラスや児童生徒の管理をするだけでなく、課題として児童生徒が学ぶこと、やることを指定し、その進捗を教員がリアルタイムでサポートすることができるのだ。
いつでもリアルタイム共有
SchoolworkでPages、Numbers、Keynoteを使えば、いつでもどこからでも児童生徒たちと一緒に課題に取り組める。また、児童生徒の書類に直接書き込んだり自分の声を録音してコメントをすることも可能だ。
初等教育のニーズに応える
アップルはiPhoneがそうしてきたように、アプリ開発者のパワーを取り入れる仕組みをスクールワークにも与えた。これは、学校の教育現場にいる教員とのコミュニケーションからニーズをすくい上げた結果と評価できる。特に、学習の中に制作を伴うアクティビティを含めることができるようにした点は、教科書型の学習の枠を超えたiPadによるデジタル教育の可能性を体現する点でアップルらしい独自性を発揮している。
アップルはプログラミング学習アプリ「スウィフト・プレイグラウンド(Swift Playgrounds)」と無料のコースを配信し、誰でもプログラミングが学べる、教えられる環境を整える「エブリワン・キャン・コード(Everyone Can Code)」を展開してきた。これに加え、前述の3月のイベントでは、誰もが創造性を学べる「エブリワン・キャン・クリエイト(Everyone Can Create)」を発表。ビデオ、音楽やポッドキャスト、写真、スケッチの分野にフォーカスし、広範な授業でクリエイティブアプリを用いて問題や課題に取り組む教育を誰でも行える環境を、米国の新学期となる秋から提供する。
すでにハードウェアとしては教育機関向けに安価で発売される新iPadを今年3月よりラインアップしている。新iPadは4Kビデオも編集できるだけのパワーを備えるA10プロセッサを搭載し、アップルペンシル(Apple Pencil)にも対応。また、iMovieやClipsなどのビデオ編集アプリ、ガレージバンドなどのオーディオ編集アプリも無料で利用できる。
これによって、教育機関や教員は、クリエイティブを取り入れた授業を非常に安いコストで計画可能だ。米国では、教員採用試験の面接でも、「いかにしてデジタル教育を取り入れるか」を問われる。その際、「iPadを用いたクリエイティブを取り入れた授業」の提案ができるようになるため、現場の教師から大きな支持を集めることができそうだ。
明確になったターゲット
スクールワークは、小学校から高校までのいわゆるK-12の教育市場をターゲットにしている。プログラミングやクリエイティブのカリキュラムを見ても、高度なものを目指すのではなく、より身近な問題解決の手段として体験を作ることにアップルは重きを置いている。
現在、iPadは米国では教育機関や学生向けに299ドルで販売されている。非常にパワフルで壊れにくいデバイスの価格としては非常に安く、クロームブック(Chromebook)やウィンドウズタブレットでiPadと同じことをこなそうとすると、より高いデバイスを選び、高額のソフトウェアの購入が必要になる。トータルコストで見てもiPadは非常に安い。
その一方で、1000ドル以下、10万円以下の選択肢はMacBookエアのみに限られている。アップルはMacBookプロがタッチバー非搭載モデルが教育向けに人気だというが、iPadとの価格差は5倍に開いており、初等教育市場向けを、価格の面でiPadに任せていることが明確となっているのだ。