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iPhoneでもっと上手に撮影! Appleから学ぶヒントとテク

著者: 氷川りそな

iPhoneでもっと上手に撮影! Appleから学ぶヒントとテク

iPhoneが発売されて早10年。この間に世に与えた影響は数多くあるが、その中には「写真を撮る」という行為を身近にしたという大きな功績が含まれるのは間違いない。成熟期を迎えつつある今、その流れはコンテンツ側にも影響を与え新たなターニングポイントを迎えつつある。その事例を紹介していこう。

写真を撮るアイデアを提案

写真を上手に撮るテクニック、というのはなかなか身につけるのが難しいものだ。これは本誌で幾度となく取り上げているテーマであり、ほかのメディアでも多数紹介されているが、それだけ多くの人たちがよりよい写真を撮りたいというニーズを持つようになっている証左でもある。

そんな中、ある記事がちょっとした話題になっている。「iPhoneで撮影する方法(How to shoot on iPhone)」と題されたそれは、アップルの公式サイトに掲載されているコンテンツだ。製品を販売する企業サイトでは、FAQ(よくある質問)や技術情報といったサポート記事が用意されることはよくある。しかし、実際の使い方、しかも一部の機能だけに特化してスペシャルコンテンツを用意するというはあまり例のないことだ。

興味深いのは、そのコンテンツの中身にもある。「パノラマで撮影する方法」「逆光を活かして撮影する方法」など、「こんな写真を撮りたい」という作例に合わせて必要なテクニックがまとめられていて、30秒程度のショートムービー仕立てになっている。紹介されているのは決して特別なテクニックではなく、初心者でも挑戦できそうなハードルの低いものばかりだ。

また、それぞれの作例も単に「撮っただけ」ではなく、ちょっとした工夫やアイデアを使ったクリエイティビティを感じさせる仕上がりになっている。その機能を使ったことがない人はもちろん、すでに知っていた人でも「こんな使い方があるのか」と思わず試したくなる、アップルらしいセンスある提案になっているのだ。

該当サイトには現在30以上のコンテンツがあり、さまざまな流行にも対応しながら、その数は日々増え続けている。アップルストアの人気ワークショップ「トゥデイ・アット・アップル(Today at Apple)」でも写真関連のワークショップが増えていることを考えると、このページは今後も継続的に拡充されていくことが予想できる。

Apple公式サイトが公開している「iPhoneで撮影する方法」【URL】https://www. apple.com/jp/iphone/ photography-how-to/

機能を使うには理由がある

このように作例を主題にしてテクニックを解説する記事は、アップル以外にも増える傾向にあるようだ。ガジェット・ハック(Gadget Hacks)に公開された「iPhoneでより上手に花火を撮る方法(Take Better Freworks Photos with Your iPhone)」はその好例だろう。花火の写真をたくさん撮っても、綺麗な写真が1枚もなかった…という経験は筆者にもあるが、そもそもこのシチュエーションというのは難易度が高く、カメラ愛好家やプロでもそれなりの事前知識と準備、そしてテクニックを要する。

だがこの記事では、そんな花火撮影の高いハードルを下げるさまざまなテクニックと要素を、機能ごとにステップを踏んで紹介している。フラッシュやデジタルズームは使わないといった基本的な約束事から始まって、AF(オートフォーカス)のロック、露出(明るさ)の調整、HDR(ハイダイナミックレンジ)モードの使い方などを、「その機能が必要な理由」を交えながら、図版とともにわかりやすく説明してくれている。

さらに筆者が興味深かったのは、撮影モードの提案だ。「とにかくたくさん撮る(Take lots of Photos)」という見出しだけではずいぶんラフな言い方に聞こえるが、花火は瞬間の芸術であり、またこちらの準備を待ってくれないことを考えれば、失敗を恐れず多くトライするというのは合理的なアプローチといえるだろう。

加えて、記事ではバーストモードによる連写や、ビデオに切り替えての撮影も提案している。どちらも「最高の1枚はあとから見つければいい」という発想だが、これらは従来のカメラだとかなりの高級機や高品質な記録メディアでなければ実現できなかったテクニックであり、あらためてiPhoneで撮る優位性に気づかされた部分でもある。

さらに記事では手ブレを防ぐためのテクニックや、サードパーティ製アプリの活用法にまで言及しており、かなりボリュームのある内容になっている。アップル公式サイトのアプローチとは異なる視点ではあるものの、「花火を撮りたい」という作例のニーズが明確なあたりは、読み手のモチベーションを高める意味で共通性を感じるところがあるだろう。

アメリカの情報サイト「Gadget Hacks」が公開した「iPhoneでより上手に花火を撮る方法」【URL】https://ios.gadgethacks.com/how-to/take-better-fireworks-photos-with-your-iphone-0185690/

時代が創造力を解放する

この2つのコンテンツから通底して感じられたのは、「写真を撮る」という行為の一般化と成熟化だ。iPhoneが日本に上陸して10年が経ち、特にそれまで高性能なカメラと縁遠かった女性層にとっては、「写真撮影」という行為のハードルが一気に下がり日常化した。

さらにネットの普及によって、「ほかの人に見せる」という行為も圧倒的に簡単になった。メッセージへの添付によるコミュニケーションはもちろん、インスタグラムに代表されるようなSNSにアップすれば「いいね!」をもらえる。これは多くの人にとって承認欲求が満たされ、写真を撮るモチベーションになっていることは間違いない。

こういった時代のさまざまな要素が絡み合い、写真を撮ることは特別な行為ではなくなったのだ。個人的な感覚でいえば、「料理を作る」ことと同じくらい一般的になったのではないかと考えている。その視点で2つのコンテンツの傾向を考えると、これらのアプローチは特別なものではなく、今後のスタンダードとなるはずだ。

料理を作るときも、我々は「包丁の研ぎ方」だったり「材料の切り方」だけの資料を探すことはないだろう。出来上がる料理を考え、そこから検索してレシピを探す。写真も同じで、撮りたい作品を先にイメージし、それを実現する方法を解説した記事がヒットするのが本来であれば普通のことなのだ。

そう考えると、この時代の変化は大きなターニングポイントになるかもしれない。かつては写真学校などで専門的な知識を学んでいなければ、クリエイティブな写真を撮ろうと思う人はそう多くなかったはずだ。しかし、iPhoneに代表されるスマートフォンが普及した今、そのチャンスは誰もが目の前で掴めるようになっている。

写真に限らず、クリエイティビティ溢れる作品を生み出すことは、その制作過程も含めて非常に有意義な体験となる。そのためのレシピを今まで以上に引き出せるようになったこの時代は、写真というジャンルを再び振り返ったときに、重要な分岐点となるに違いない。

パノラマ撮影を工夫したテクニック

「iPhone Xのパノラマで撮影する方法」の作例。パノラマ撮影中にセンターで一時停止し、その間に撮影者の背後から回り込めば、同一人物たちが両サイドに写ったトリック風写真を作ることも可能。まさにアイデア勝負の好例といえる。 photo/apple.com

逆光を演出に活かしたテクニック

「iPhone Xで逆光を活かして撮影する方法」の作例。露出の調整といった基本的なカメラ設定に加え、この項目ではあたりの地面を蹴って砂ぼこりを上げるという「雰囲気作り」も紹介。ちょっとした工夫で、こんなにドラマチックな写真を撮影できるのだ。 photo/apple.com

逆光を演出に活かしたテクニック

Gadget Hacksは、花火撮影時にはフォーカスをロックし、露出を下げようと提案している。露出を下げることで、夜空の黒色をノイズなく出すことができる。

意外と使えるのがLive Photosの長時間露光エフェクト。Live Photosはシャッターを切った前後1.5秒ずつの映像を記録するため、普通の写真では捉えきれない花火の軌跡もきれいに描写できる。