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効率化を超え体験へ回帰するIT食

著者: 三橋ゆか里

効率化を超え体験へ回帰するIT食

今年5月頭に開催されたグーグルのカンファレンス「I/O 2018」で、レストランを予約してくれる音声アシスタントが発表されました。電話に出た店員の問いかけに応対し、時には「ええ」などと相槌を打ちながら予約をとってくれるというもの。電話に出た人は、まさかロボットと対話しているとは疑わないほどスムースに会話できると話題になりました。

食の分野では、注文にiPadを使うようなシンプルな導入を越えて、細かな改善の余地にITを活用する例が増えています。たとえば、あらかじめサービス側にクレジットカードを登録しておくことで食後の会計を省いてくれたり、ドタキャンにキャンセル料を課す仕組みの導入でレストランと有料顧客をつなぐプラットフォームだったり。

一方、消費者向けではオンデマンド型サービスが台頭。日本の一部エリアで展開する「ウーバー・イーツ(Uber EATS)」 のようなデリバリーサービスは、その一例です。このようにインターネットやスマートフォンを用いて何事も“効率化”を目指す流れがあると同時に、食の分野でも「体験」への回帰が見られていて、最近ではユニークなサービスが目立ってきました。

たとえば、「フィーストリー(Feastly)」。ミシュランスター獲得レストランのシェフや今後注目のシェフによる、一夜限りの食事が味わえるサービスです。「お任せ日本食」「3とおりで味わうマレーシアの蟹料理」など、料理のバラエティも豊富。各食体験はWEBサイトで場所やシェフでフィルターして検索することができ、あとは席を予約するだけ。コース内容もサプライズなら、テーブルを誰と囲むことになるのかも当日のお楽しみ。料理に舌鼓するだけでなく、食を通して新たな出会いをもたらしてくれます。

一食分に必要な食材や調味料が届くミールキットサービスでは、上場企業の「ブルーエプロン(Blue Apron)」や「ハローフレッシュ(HelloFresh)」などが有名どころ。こうしたサービスは、都市圏を中心に一般家庭に普及するまでになりました。中でも目を惹くのが、「シェフド(CHEF’D)」です。人気レストランのシェフが考案したメニューや、ニューヨークタイムズ誌などで紹介されたレシピのミールキットを提供。雑誌をめくっていて出会った美味しそうなレシピを、キットを使うだけで手頃かつ手軽に再現できます。また、ベジタリアンやビーガン、魚好きなど、ユーザの食の好みに応じたレコメンデーション機能も。

さて、野菜や果物を中心とした食材の宝庫であるカリフォルニア州発のアプリが、「ウォルツイン(WaltzIn)」です。ロサンゼルスで高く評価されるレストランで、メニューにはないシェフの特別テイスティングメニューを予約できるもの。超常連をキッチンに通したシェフが彼らのためだけに特別料理を調理するという映画のシーンがありましたが、一見さんにしてそんなVIP体験を味わうことができます。お任せコースで料理を選ぶ必要はなく、当日まで中身がわからないのも楽しみのひとつ。ドリンク代だけ食後に支払いますが、その他はすべて事前購入したチケット代に含まれているそう。

個人的にまず試してみたいのは、ウォルツイン。アメリカで食事をする際は、日本の食べログにあたるレビューサイト「イエルプ(Yelp)」を活用していますが、レビューを鵜呑みにすると痛い目にあうことも。そのため、主には気に入ったレストランに足を運ぶのですが、そうすると頼むメニューも定番ばかりになってしまいがち。ウォルツインなら、そんなすでにお気に入りのレストランをまた新鮮な形で楽しませてくれそうです。

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp