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レタッチの基本と注意点

レタッチとは何か

昨今、写真画像を中心としたSNSの人気が堅調だが、何も考えずにスマホのカメラで撮影したままの写真を投稿していたのでは、ほかの写真の中に埋没してしまう。いわゆる「インスタ映え」している写真は、スマホで撮影した「だけ」の写真ではない。もちろん、ロケーションや構図をきちんと整えれば、そのまま撮影しても目立つこともあるが、多くの場合、何らかの加工や補正などの画像編集が行われている。この写真の加工、補正、編集の作業こそが「レタッチ」なのだ。

iPhoneでレタッチを行うには、iPhone標準の「カメラ」アプリを利用するか、アップストア(App Store)にある画像編集アプリを使う。アップストアには実にさまざまな写真アプリが存在しており、その中でも有名なのが「フォトショップ(Photoshop)」で知られるアドビシステムズの「フォトショップ・エクスプレス(Adobe Photoshop Express)」や「フォトショップ・フィックス(Adobe Photoshop Fix)、「フォトショップ・ミックス(Adobe Photoshop Mix)だ。

「傾きや構図を正す」「不要なものを消す」などの絞られた目的であれば一般的なレタッチアプリ単体で解決できるが、「傾きや構図を正して不要なものを消したい」といった多目的な場合は、複数のアプリを用いて画像を仕上げる。フォトショップシリーズであれば、写真の傾きや回転などを補正したり、ゴミ取りや赤目修正などの基本的は操作を行うときはフォトショップ・エクスプレスを、歪みや明るさを調節したり、人物や不用なオブジェクトを消したりするときはフォトショップ・フィックスを、画像を重ね合わせてコラージュをするフォトショップ・ミックスと使い分ける。

iPhoneやデジタルカメラで撮影した写真画像のレタッチには、大きく分けて2つの作業がある。1つは、撮影時に失敗した写真を救出する作業。もう1つは写真をより良く仕上げる作業だ。具体的にレタッチでは何が可能なのかを大別すると、次の8つに分けられる。

写真レタッチでできること

(1)傾きを直す

iPhoneでは思ったときにすぐに撮影することが多いのでじっくり構えていられないし、デジカメのようなファインダやグリップ(握り)がないので顔から離して行う。すると水平位置をうまくキープできないことが多い。そのようなときは、レタッチアプリの「切り抜き」「回転」などのツールで縦横のグリッドを表示させ、本来の水平や垂直のラインに合わせて画像を回転させる。アプリによってはツール選択時や、「角度補正」アイコンを押すだけで自動的に水平に補正してくれる。

iPhoneの「写真」アプリで傾いている写真を[編集]で開き「トリミング」ツールを選ぶと自動的に水平に合わせた補正が加えられる。

(2)構図を整える(トリミング)

iPhoneでの撮影時は特に被写体や中心部分ばかりを見てしまいががち。そのため周りに不要な物が写ってしまうことも多い。写真の不要な箇所を大きくカットしたり、トリミングして大胆に構図を変えたいときなどは、切り抜きやトリミングツールを利用する。その際には縦横比をInstagram投稿用の正方形や16対9などの一般的なアスペクト比を指定したり、自由な縦横比で切り取りも可能。食べ物はアップで撮影したかのように切り取って美味しそうに見せる。

iPhoneの「写真」アプリの[編集]において「トリミング」ツールで料理の皿全体から注目させたい箇所をアップになるように切り抜き美味しそうに見せる。

(3)不要な物を取り除く(ゴミ、電線、人物)

被写体以外の人が写っていたり、道路や芝のゴミが目障りなど、不要なオブジェクトが写り込んでしまう失敗も多い。トリミングで取り除けない写真の内側にある不要なオブジェクトは、フォトショップ系のアプリであれば、修復ブラシやコピースタンプツールなどを使って、目立たなく消すことができる。写真の一部分をソースに指定して、消したい部分に重ねてブラシのサイズを調整しドラッグする。ソースを塗り重ねながら周りになじませることで自然に消すという仕組みだ。

Photoshop Fixの「スポット修復」ツールで目障りな電線をなぞり、指を離すと自動的に電線が消える。

(4)色味を整える(記憶色に近づける)

色が地味でぼんやりとして印象が薄い写真は、色味を調整することで見映えが良くなる。iPhoneなどの小さな画面で写真を見るときは、微妙な淡い色の表現よりも、多少派手目な写真のほうが人目を引く。たとえば曇天時の屋外写真がねむくくすんで見える場合は、ハイライトは押さえながらシャドウや中間調の明るさを強調すると効果的。また、「空は青」「桜はピンク」などは色の固定概念があるため、そのままよりも彩度を高めるとより印象的に仕上がる。

暗く色が地味な印象の風景写真を「Polarr」で極端に明るく鮮やかに修復。多少オーバー気味に調整することで印象づける。「自然な彩度」は空や緑の鮮やかさの強調に最適。

(5)顔やスタイルを修正する

人物写真のしわを消したい、目を大きく見せたいなどの修正をしたいときは、複数のレタッチツールを使って理想に近づけていく。Photoshop Fixでは顔を検出すると目、鼻、口などのパーツごとに大きさや位置を微調整できる。体型もワープツールで柔軟に調整し、これに伴いゆがんだ背景も消しゴムツールで元に戻せる。また、「Relook」という有料アプリは、人物の顔写真の修正に特化しており、小じわやしみ、そばかすの修正、フェイスラインの引き締めなども行える。

人物補正アプリ「Relook」はメイク感覚で指で肌をドラッグしてトーンを整えられる。肌の赤みやしみなどを目立たなくしたり、顔や体のラインをシェイプできたりする。

(6)イメージを大きく変える(トイカメラ、白黒写真)

写真の印象を大きく変えたいなら、画像をモノクロームやダブルトーンにしたり、トイカメラ風にしてみよう。トイカメラ風やモノクロ写真などは「Photograph+」などの多機能カメラアプリを使うのが便利。また、トイカメラ風にしたりきれいなモノクロ写真にしたいのであれば「Snapseed」でフィルタを簡単にかけたり、「Enlight」でチルトシフト効果をかけるのも効果的。「Lightroom」ではモノクロ化したあとに着色し、印象的な作品に仕上げることもできる。

Lightroomの[カラー]→[B&W]で白黒化し、[混合]で元の色ごとにコントラストを調整。さらに[効果]→[明暗別]でハイライトとシャドウに着色し独特のイメージを作り出す。

(7)コラージュ&合成する

Photoshop Mixの「スマート」ツールで切り取りたいオブジェクトをなぞって切り取り、同アプリに背景写真を読み込みレイヤーに重ねて合成。指による微調整が可能。

(8)文字やフレームを加える

写真を文字やフレーム、アイコンなどのオブジェクトで飾るなど、SNSならではの目立たせ方に特化しているアプリで加工する。たとえば、「Phonto 写真文字入れ」アプリは日本語フォントの種類が豊富なのに加えて、文字のサイズ、傾き、縁取り、透明度や影付けなどを細かく調整し、さまざまな雰囲気の写真に合わせて文字入れデザインが可能。「Fotor」(無料)のフレームツールにはクラシカルなギャラリー風からスタイリッシュなフレームも用意されている。

「Phonto 写真文字入れ」で文字を追加。文字、フォント、スタイル、傾き、移動の項目にはさらに細かい調整機能が含まれている。

iPhoneとMac、レタッチってどう違う?

画面サイズが作業に直結

iPhoneとMacとでは、レタッチ環境に大きな差がないのではないかと思ってしまいがちだが、作業環境において非常に大きな違いが存在する。

まずiPhoneは、基本的に指で操作する。iPadにはアップルペンシルという優れたペン入力デバイスがあるが、iPhoneには非対応。基本的にレタッチ作業での選択範囲の作成や輪郭の抽出などの細かな作業を指で行う。これに対しMacでは、マウスやトラックパッドだけでなく、ペンタブレットなども使えるので、作業効率や精度は比べるべくもない。

また、iPhoneでは液晶の画面サイズがそのまま作業領域になる。レティナ(Retina)液晶で高精細な画を表示できるが、画面の面積自体は手のひらサイズ。iPhoneで一番画面サイズが大きいiPhone Xは5.8インチサイズで約134(ノッチ部を除くと約130ミリ)×62ミリ、5.5インチサイズのiPhone 8プラスの画面面積は約121×69ミリ、4.7インチサイズのiPhone 8の画面面積は約104×59ミリ。この狭い作業範囲を指で操作する。

これに対しMacの場合、15インチのMacBookプロで約241×350ミリ、13インチのMacBookプロで約210m×304ミリ、iMacの27インチモデルでは590×330ミリと広大だ。

iPhoneの画像編集アプリでも細かなディテールも拡大表示すればレタッチ作業は可能だが、画像の一部分しか表示できないことにつながる。細かなレタッチをするために拡大、作業エリアを移動、倍率を戻して全体確認の操作を繰り返すのでは、効率が悪くなってしまう。

カラーマッチングの問題

もう1つの問題点として、iPhoneの液晶はシリーズや個体によって色が若干異なる場合がある。当然、アップルのガイドラインに沿って発売されているが、個体によっては液晶画面が若干黄色みが強かったり、青みが強かったり、目で見てわかるほどの差がある場合も。iPhoneは厳密なカラーマッチングについてはあまり強くないので、色を管理する画像には不利だと言ええる。

また、iPhoneに搭載されている内蔵メモリは2GB、3GBというものに対し、Macやパソコンでは8GBや16GBが当たり前の環境だ。OSが大きく異なるので単純比較はできないが、レタッチにおいて内蔵メモリは多いほうが有利だ。

そうなると本来iPhoneはレタッチには向いていないと思えてしまうが、実際にはiPhoneには即効性と携帯性という非常に大きな特徴、有利性がある。撮影したその場でレタッチし、すぐにSNSなどに投稿できるのは大きなアドバンテージだ。これがデジタルカメラとMac、パソコンという組み合わせであれば、確かに高画質な写真と高度な画像編集機能で人目を引く画像を作ることができるが、そのために数キロの大きな荷物を常に持ち歩くことになる。iPhoneであれば、わずが200グラムほどで手帳サイズ。手軽にいつでもどこでも撮影、レタッチ、そして投稿が可能だ。

また、SNSなどへの投稿写真は、iPhoneなどのスマートフォンで閲覧することがほとんどだ。閲覧するほうの画面も小さいのだから、わざわざ拡大しなければわからないような細かなディテールまで作り込む必要がない。言ってしまえば、iPhoneなどのスマートフォンで見る写真画像であれば、iPhoneのレタッチアプリで十分速報性を活かした「見映えの良い」写真ができる。

パソコンで鑑賞したり、大きく印刷したりする写真画像の編集であれば、操作性に優れた高機能なMacやパソコンのレタッチアプリが向いている。逆に、スマートフォンで見る写真やすぐに投稿したい写真であれば、iPhoneのレタッチアプリが向いている。このように、iPhone、Mac、どちらのレタッチアプリにも、向き不向き、得手不得手があるので、目的に合わせて使い分けるのがいいだろう。

●iPhoneの画面の個体差

iPhoneでも初期状態で表示されている色が、機種や個体によって異なる場合がある。左から順にiPhone 6s Plus、6s、8、X。多くの人が初期状態のままで使用している状況では、同じ色が表示されているとは限らない。

●iPhoneなら外出先ですぐレタッチ

撮影直後にレタッチ作業ができるiPhoneだが、基本的に指での操作になるので、手持ちで作業するよりは、カフェでの食事の合間などテーブルに置いて作業したほうが安定して作業効率が上がる。

●画面サイズ比較

iPhoneとMacでは画面サイズが大きく異なるため、レタッチの作業効率が大きく変わる。しかしながら「いつでも、どこでも」作業ができるiPhoneのレタッチは非常に魅力的だ。

iPhoneでレタッチする際の注意点

フィルム派は色なしを

iPhoneの「写真」アプリで撮影すれば、その「写真」アプリだけでレタッチが可能だ。しかしながら、インスタ映えを狙いたいときや、iPhoneで鑑賞できるような作品に仕上げるときには注意しておきたい点がある。

iPhoneでのレタッチ作業は、指を画面で操作する際スムースに指が動かせることが重要だ。スマートフォンの場合、画面保護のためにフィルムなどを貼る場合が非常に多いが、レタッチ作業はこのフィルム越しに作業をすることになるので、フィルムは滑らかでスムースに指が動かせるものを選びたい。

もちろん、レタッチ作業は「色」を重視するので、可能であれば色がついていないものが望ましい。また、反射防止のマットフィルムは、透明度の高い磨りガラス越しに見るようなものなので、かえって乱反射がおこり画像のディテールがわかりづらくなる。マット仕上げのフィルムは、画像をしっかりと確認したいという点ではあまり望ましくないだろう。ブルーライトカットガラスやのぞき見防止ガラスも色が変わる要素があるので、iPhoneでレタッチをする場合は、無色透明、グロス仕上げのフィルムを選んだほうがよい。

また、iPhoneのカメラは性能が高いが、Macやパソコンでレタッチして十分な観賞用の写真作品に仕上げるためには、あらかじめデジタルカメラと同様、画像形式は「Raw」を選んで撮影しよう。Rawは現像作業に適しており、画像を劣化させることなく、何度でも現像、編集が行える。ただしiPhone標準のカメラアプリではRaw撮影ができないので、「アドビ・ライトルーム(Adobe Lightroom)」などのRaw撮影対応アプリのインストールが必要だ。なおRaw対応機種はiPhone 6s、6s プラス以降のモデルだ。

調整は「徐々に戻す」

画像形式に注目すると、iOS 11から「HEIF」という画像形式が採用されている。iPhoneではiPhone 7、または7プラス以降のモデルのみ撮影できるが、圧縮率が高くファイルサイズが非常に小さいという利点のみならず、レタッチした場合はオリジナルの画像情報と編集内容を合わせて格納できるという「Raw」と似た特性を持っている。

Macでも、最新のmacOS ハイ・シエラ(High Sierra)であれば対応しているので、HEIFの画像形式を特に意識することなく使用できる。ただし、ハイ・シエラ以外のmac

OSやウィンドウズ環境では、HEIFの画像形式が対応していないためJPEG画像として扱われる。

iPhoneのレタッチ全般にいえることとして、レタッチの効果を徐々にかけるとオリジナルとの差がわかりづらく適正値を見つけにくい。効果を掛ける場合は最初に効果を大きくはっきり適用させてから徐々に戻していくと調整量を認識しやすい。また「明るさ」→「カラー」→「シャープ」などの調整順を決めておくと、数多くの写真も効率良くレタッチをこなせる。

また、レタッチを行う際、可能であれば昼白色や昼光色などの場所で行うと、周りの色の影響を受けずに済む。強いオレンジ色の電球色下などでは色の認識にも影響が出るので避けたほうが無難だ。暗い部屋では、自動調光でiPhoneの液晶も暗くなってしまう場合もあるが、画面が暗くなると画像が見えにくくなってしまうので注意しておこう。

●レタッチをやりすぎないコツ

iPhoneでのレタッチ作業では、画面が小さい分、どこが変わったのかがわかりづらい。効果は最初に大きくかけて画像の変化を確認し、そこから徐々に戻したほうが最適値を見つけやすくなる。

元画像

最適な調整

オーバー気味の調整

●保護フィルムには要注意

指紋防止のマットな仕上げや覗き見防止、ブルーライトカットやミラー効果などさまざまな保護フィルムがあるが、色が変わったり滲んで見えたりするので、レタッチにはクリアで光沢のあるフィルムが適している。

指紋防止のマットなフィルムを貼ると色が拡散されにじんでいる状態

ミラーフィルムを貼って著しく視認性が悪くなっている状態

上半分にのぞき見防止フィルムを貼った状態。上下で色味が変わっている

●iPhoneで撮影可能な画像ファイル3種類

HEIFはJPEGの半分ほどのファイルサイズだが、画質にはほぼ差異はない。RAW(DNG)は当然ファイルサイズが巨大になるが、作品として作り込みたい場合には適している。

土屋徳子

ライター・イラストレーター・Eラーニング講師。画像加工や写真編集アプリの使い方、レタッチ、写真の活用方法をWeb、書籍で解説。LinkedInラーニングやAll About CG・画像加工ガイドとして活動中。