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アップルテクノロジーがもたらす「新しい学び」の価値と効果

アップルテクノロジーがもたらす「新しい学び」の価値と効果

【Video】映像を駆使して演出力を養う

一般的に学校の授業でビデオというと、教材ビデオを使った学習を指す。課外活動や部活動で生徒が映像を作ることはあっても、正規の教育過程に映像制作を組み込んでいる学校は少ない。しかし、iPadを導入する学校では、生徒が映像作品に取り組む姿が珍しくない。

たとえば、課題提出や課題発表のフォーマットの1つとしてビデオを選択できるようにしている学校がある。ビデオを制作する過程で、生徒たちは与えられたテーマについて調べたものを整理し、映像でどのように表現したらうまく伝えられるか考える。そして演出プランに従って撮影し、タイトル、効果音、エフェクトを試しながら編集する。

情報をまとめて映像化する作業は、誰かに教えながら自分も学ぶのに似ている。そのトピックに関する理解や解釈を自然と深められる。また、与えられた時間で作業を終わらせるスケジュール管理も必要であるなど、映像制作というさまざまな要素が絡む作業を通じて、子どもたちはたくさんのことを学ぶ。

カメラやテレプロンプターにiPadを使用、キャスターも設定し、本格的な報道ビデオを作成している学生。

テキストブック、年表や資料から学んだ歴史の理解を深めるために、小学4年生がiMovieを使って、マルチメディアを駆使したテューダー朝の歴史解説を作成。

【Photography】観察力と感動を写真撮影で増幅する

南カリフォルニア大学やイエール大学の研究者が共同で行った実験で、写真撮影は人を前向きにするという結果が出た。たとえば、同じ料理を食べても、食べ物の写真を撮る人たちのほうが食事の満足度がより高かった。撮影を通じて、人々は写真という形で残しておくのに値する価値を探し、その価値が伝わるよう工夫して撮る。だから、写真を撮る人ほど前向きに楽しい体験に関わろうとする。

私たちは言葉でコミュニケーションしているようでいて、それ以上に目からの情報に頼っている。ここ数年でSNSなどオンラインコミュニケーションのトレンドが文字からビジュアルへとシフトしているが、一枚の写真は時に言葉で表現しきれない感情や感動を伝えたり、強い説得力を持つ。フィールドワークで写真を撮らせたり、写真のスライドショーを使った発表など、写真撮影を学習に組み込むと、子どもたちは記録しておくべきことを見つけるためによく観察するようになる。そして目当てのものを撮影できたとき、その達成感がより強い印象で残る。

授業の様子の撮影を勧めている学校もある。ノート・アプリを使ってiPadでノートをとりながら、実験の様子や先生の仕草などを撮影してその場でノートに貼り付ける。ビジュアルの記録も含めたノートのほうが、後で見返したときに授業内容をよく鮮明に思い出せる。

春はどのように訪れるのか、生徒たちが外に出て植物が息吹く様子を撮影。冬の終わりの荒涼とした庭の中に潜む生命を見つけ、その力が伝わるように工夫する。

【Music】「簡単で楽しい」から始まる音楽作り

音楽は多くの人に親しまれているのに、写真や絵などに比べて挑戦する人が少ない。作るには音楽の専門知識や楽器を弾く技術が必要と多くの人が思い込んでいるのが原因だろう。でも、GarageBandを使えば、iPadを使って誰でも簡単に楽しく音楽を作れる。曲作りと意気込む必要はない。正解の「ピコーン!」という音や何かにぶつかった音など、スライドや劇に使用する効果音を作るのも音楽制作である。

GarageBandを使った曲作りなら、わからないことが出てきても仲間に質問したり、仲間同士でいろいろ試すうちにほとんどの疑問が解決する。世界中にたくさんの利用者がいるから、ネットの力にも頼れる。

一人だと曲を作っても公開に踏み切れない人が多いが、授業のプロジェクトなら制作の過程から仲間同士やグループ間で聴きあうことになる。それも楽しく、そして自信につながる。GarageBandとiPadは、写真やビデオと同じぐらい音楽制作を誰にとっても身近な存在にしてくれる。ある学校では、数学の授業でGarageBandを利用している。二次方程式の解の公式で、自分の言葉とリズムで覚えられるよう生徒にラップを作らせているのだ。簡単な曲でも最初に曲作りの楽しさを知ると、それがステップアップして本格的に音楽を学ぶ強いモチベーションになる。

作曲の知識がなくても「習うより慣れよ」で、遊ぶように楽器を弾いてみたり、オートプレイを試すうちに、リズム、メロディ、ハーモニーを感覚的に理解できる。

【Sketch】発想を描いて表現するセンスを身につける

Apple Pencilと組み合わせたiPadは、画材と呼べるような道具だ。App Storeには、Apple Pencilのなめらかで自然な書き味と表現力を活かせるドローイングやイラスト向けのアプリが数多く揃っている。自分の目的にあったアプリをインストールしておけば、スケッチブックや鉛筆といった道具を持ち歩かなくても、いつでも作品の構想を練ったり、スケッチやデッサンに取り組める。

デザイナーやアーティストを目指す学生にとって、スケッチはアイデアや考えをまとめていく創造に欠かせないプロセスである。エンジニアや他の分野でもスケッチは有効だ。スケッチから歴史を変えたアイデアが数多く誕生している。トーマス・エジソンやレオナルド・ダ・ヴィンチは大量のスケッチを残した。エジソンはそれらを見返す習慣を持ち、気づいたことをさらに書きとめていた。

さまざまな実験で、キーボードを打つよりも手書きのときのほうが脳の一部がより活発に働くことが明らかになっている。文字のメモでもいいのだが、インフォグラフィックやマインドマップがそうであるように、ビジュアルのほうが一目で理解しやすく、そして共有しやすい。見返すことを考えると、スケッチのほうが効果的に書きとめたアイデアを活用できる。絵を描くのが苦手でスケッチを敬遠する人もいるが、アイデアのためのスケッチはアートではない。うまく描けなくても、コツをつかめば、誰でもアイデアの要点を絵で表現できるようになる。議論の大枠を掴もうとする習慣がつくなど、思考を成長させられる。

表現力豊かな描き味で人気のスケッチアプリ「Tayasui Sketches School」。iOSのジェスチャー機能を活かし、操作ボタンを最小限にまとめたシンプルなデザインで、子どもでも扱いやすい。

「Paper by FiftyThree」を使って地層をスケッチ、見たまま写し取るように描くのではなく、地形や地層の変化がはっきりと読み取れるように強調して描く。

【Programming】プログラミング教育の3つの問題を解決

グローバル規模でプログラミング教育を小中学校の段階から取り入れる国が増えている。しかし、現状でプログラミング教育は多くの課題を抱えている。まず、時間の確保。他の教科や分野の授業との兼ね合いで、プログラミング教育に割り当てられる時間は限られる。効果的な指導方法も確立していないし、知識やスキルを持った教師も不足している。

そうした問題をうまく乗り越えられるように、AppleはSwift Playgroundsを用意した。これまでのプログラミング教育はPCを前提としたものだったが、iPadなら場所が限定されず、教室でも、部活の合間でも、自宅でも、いつでもコーディングできる。モダンな開発言語であるスSwiftはコードが簡潔で学びやすく、かつバグが発生しにくい。iOSプラットフォームに特化したプログラムだが、今の子どもたちがもっとも関心を持っているソフトウェアはスマートフォン用アプリ。それを自分で作れることが、子どもたちがプログラミングに関心を持つきっかけになる。

App Storeには、ブロックを並べるような操作で倫理的思考を身につけられるビジュアルプログラミングのアプリも数多く存在する。また、もっと深い知識を得たくなったときにiTunes Uで公開されている講義に挑戦するなど、あらゆるニーズに応える教材にiPad一台からアクセスできる。

Swift Playgroundsでは、プログラムの3D世界でコードを使ってキャラクターを動かしながらプログラミングを学ぶ。それだけではない。さまざまなデバイスの操作のプログラミングをサポートしており、本物のドローンやロボットも動かせる。

MITメディアラボが幼稚園児でもプログラミング思考を習得できるようにデザインした「ScratchJr」、ブロックを組み立てながら動く絵本やゲームを作れる。

【Augmented Reality】ユーザ体験優先、ARテクノロジーのあるべき進化

AR(拡張現実)はAppleが将来の成長を見通して力を入れているテクノロジーだ。VR(仮想現実)ではユーザが孤立しがちになるのに対して、現実環境にCGなどによる情報を重ねるARは人々のアクティビティを促進する技術になり得る。その違いは特に学校で仮想技術を導入する際に考慮すべきポイントになる。ARやVRは、校外授業を超えて実際に行けない場所や見られないものを体験させてくれる。だが、一人きりの体験なら自分しかいない部屋で教材ビデオを見せられるのと変わらない。仮想体験をクラスメートや先生と共有できてこそ、仮想技術による学習効果が高まる。

GoogleやMicrosoftとは異なり、Appleはビジネスではなく、優れた体験の実現を優先すると公言している。ARに関しては長期戦の構えで、今はまだゴーグルのような専用デバイスには踏み出さず、まずはiPhoneやiPadを使って多くの人が簡単に体験できるようにした。そんなAppleのAR戦略を地味という人もいるが、ゴーグル式と違って小さな子どもにも安心して体験させられる。

化学学習アプリ「Elements 4D」、元素が書かれた立方体の箱にiPadを向けると、箱がそれぞれの元素の特徴を表す3Dモデルに変わる。水素と酸素のボックスを合わせると水になるというように、さまざまな反応を感覚的に理解できる。

【Curriculum】モダンな教材で教科書に頼らないカリキュラム

ホームスクーリングも認められている米国では教科書に頼らないカリキュラムが珍しくないが、近年その傾向が強まっている。

Appleのプラットフォームでは、iBooks Authorを用いて教師がオリジナルのデジタルテキストブックを作成し、簡単に配布できる。クラスの子どもたちの学力や性格も踏まえてカスタマイズしたカリキュラムを組めるのがメリットだが、ビデオや写真、ウィジエットも用いたインタラクティブな教材を作れるのも大きな価値だ。インターネットの利用者層が若年化し、今日の子どもたちはティーンエイジャーになる前から多くの情報をインターネットから得始めている。本から知識を得るように指導することも大事だが、生徒たちが普段使っているテクノロジーを教育環境に取り入れて、カリキュラムをアップデートしていかないと、教育効果が減退し、最新のテクノロジーや情報とのギャップが広がる。

ネットの確かな情報にリンクしたテキストブックもそのひとつ。数学の授業において、住宅の市場価格に基づいて生徒たちが住宅資金計画を立てるというようなリアルタイムのオンライン情報を用いた実践的な教育を行っている学校もある。

米フィラデルフィアにあるフィラデルフィア・パフォーミングアーツは、これからの高校のあり方を考え、生徒と教師にとって優れた学習体験を作るために、既成の教科書を使うのを止め、教師がカリキュラムを作成する方法に切り替えた。

【Active Learning】「学び」を取り戻すアクティブラーニングの実践

近年のグローバル化の加速によって、価値観の多様化はさらに進んでいる。自分が正しいと思うことも、見方の違い、環境の変化などで変わってしまう。そんな不確実な時代において、答えが決まっている勉強ばかりでは激動する社会に順応しきれない。

これからの子どもたちには、正解がひとつとは限らない問題に対して、自らの課題を見い出し、他者と対話しながら、柔軟にソリューションに導く能力が求められる。与えられた答えを見つけるのではなく、自らの力で解決策を創造する力だ。

そうしたニーズに応える学習方法として、アクティブラーニングを採用する学校が増えており、その多くでiPadが採用されている。

子どもたちは、インターネットで調べ、フィールドワークに出て撮影や録音をし、グループでプロジェクトを共有して話し合い、そして工夫を凝らしたプレゼンテーションを作成する。子どもたちの自由を制限せず、主体的に行動させるのがアクティブラーニングの肝であり、そのためにはさまざまな道具を用意しなければならない。iPadはそれらすべてを1台でサポートしてくれる。

iPadで作成したプロジェクトをApple TVに映し出してほかの生徒たちに発表。教科書に書かれていたことやテストに出てきた問題は忘れても、自分で作ったものは記憶に残る。