Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

Apple製品の要素技術は自社開発化されるのか?

著者: 松村太郎

Apple製品の要素技術は自社開発化されるのか?

AppleはiPhoneを年間2億台以上販売する規模と、高付加価値製品に特化する戦略によって、競争優位性を作り出してきた。特にiPhone向けプロセッサは、競合製品を勝るパワーと省電力性を両立させた。こうしたメリットを、さらに拡大させていく可能性がある。

自社設計が優位な理由

2つの業界を大きく揺るがすであろう、アップルにまつわる2つの情報がある。1つ目は、新しいディスプレイ技術として注目されるマイクロLEDをアップルが自社開発・製造し、早ければ2018年のアップルウォッチ(Apple Watch)から採用するという話。そしてもう1つは、これまでMacで採用してきたインテル(Intel)チップを2020年から自社開発のチップに置き換える、という話だ。

アップルは自社製品のデザインや設計は自ら行い、それを実現するパーツをサプライチェーンから集めたり、共同で開発したりするなどして、中国で製品を組み立てて世界中に販売してきた。自社工場を持たないビジネスモデルを組み立ててきたのは現在のCEO、ティム・クック氏だったが、その方針に変化が見られるのだろうか? またそうだとしたら、その理由は何だろうか。

自社設計化を進める理由は、容易に推測できる。なぜならアップルには開発を行うだけの資金が手元に十分あり、既存のパーツの問題解決を実現すれば圧倒的な競争優位性を作り出すことにつながるからだ。競合となるアンドロイドスマートフォンは、クアルコム(Qualcomm)やメディアテック(MediaTek)などのプロセッサを用いているが、そのこと自体がアップルのプロセッサに敵わない構造的問題を抱えている。

半導体メーカーは自社のチップをメーカーに採用してもらわなければならず、コストとニーズの中で採算性を考える。スマートフォンメーカーはそうしたパーツを集めてスマホを作って販売し、利益を確保する必要がある。チップはできるだけ安く、またコンパクトであることが望まれ、スマートフォンメーカーもできるだけ安く調達しようとする。

しかしアップルは、チップは本体の価値向上に貢献していれば良く、多少コストがかかり、またチップが大きくなっても、iPhone自体の設計とコスト計算の前提に組みこめば良い。簡単に言えば、半導体メーカーの製品よりも「ぜいたく」ができるということだ。

アップルは自社開発したチップを自社製品以外に供給することはしないだろう。そうすることで、作り出した優位性を独占し続けることもまた約束されているのだ。

もっと自由設計な製品を

こうした自社設計のパーツのメリットを考えると、ディスプレイとMac向けプロセッサがやり玉に挙がることは非常に納得がいく。ディスプレイはスマートフォンやタブレットの「顔」とも言えるパーツであり、Mac向けプロセッサもその性能を決定づけるほぼ唯一の要素だ。そしていずれも、一社のサプライヤーが独占している。

iPhone Xの有機ELディスプレイは、サムスンのみによる提供だ。そのため価格は高止まりし、結果として製品の価格も999ドルとこれまででもっとも高い価格となった。サムスンが値引きに応じない姿勢を貫けるのも、アップルの品質と需要に見合うディスプレイ供給が可能な企業がほかにないからだ。

Mac用プロセッサを供給するインテルはPC向けにも広くプロセッサを供給しており、特にノートパソコン主体となったPC市場では、差別化することが難しくなってしまった。「Mac軽視」の批判が上がった要因も、インテル待ちを余儀なくされる状況に一因があった。

アップルの自社開発のニュースは、それだけでも独占供給している企業の株価を大きく引き下げ、また性能面や価格面でもプレッシャーを与えることになる。そしてもし実際に自社パーツに切り替えたとすれば、アップルは自由に製品の設計をし、高付加価値化、性能面での優位性を確保する製品作りに取り組めるようになる。

可能性は非常に大

アップルはマイクロLED技術を持つ企業をすでに買収しており、シリコンバレーでマイクロLED製造をテストしているとみられている。また、Mac向けにはすでにタッチバー(Touch Bar)やシステムコントローラにアップルの自社チップが組み込まれるようになっている。さらに、自社プロセッサ「アップルA」シリーズを搭載している現行iPadプロの性能から考えると、数世代先のチップが廉価版のMacを動作させるだけの性能を備えることは可能だと考えられる。

要素技術の自社開発化は、アップルが自分のペースでコンピュータの性能や価値を発展させるためのチケットであり、汎用性から独自性を追求するブランドへの展望が透けて見える。