2018年3月28日、第6世代のiPadの発表と同じタイミングで、iWorkのアップデートがリリースされた。ユーザニーズに応える正常進化といえるようなアップデートだが、今後Appleがどのようなところに注力していきたいかという「Appleの狙い」も垣間見える。
弱点を埋める機能強化
ページズ(Pages)、ナンバーズ(Numbers)、キーノート(Keynote)からなるアップルのビジネスソフト「iWork」が、2018年3月28日にアップデートされた。Mac版とiOS版とで足並みを揃えてアップデートした形だが、iOS版独自のアップデートとしてはアップルペンシルへの対応の拡充程度で、機能の追加という点ではMac版が中心となる(互換性を維持するうえで、iOS版もMac版の新機能とほぼ同様の機能追加が行われている)。
一方、Mac版の機能向上は、多くのユーザが抱えていた要望に応える、いわば「正常進化」のアップデートだといえるだろう。他社製のビジネスソフトには存在していてiWorkには存在していなかった、iWorkのウィークポイントを埋める機能追加が目立つ。たとえば、ドーナツ型の円グラフ作成機能や、ページズの見開き表示への対応などは、マイクロソフト・オフィス(Microsoft Office)ではごく当たり前に使えていたものであり、「今までなかったの?」と改めて不思議に思うものかもしれない。
とはいえ、このアップデートによってiWorkがさらに使いやすいツールになったことは間違いなく、iWorkを使うすべてのユーザに恩恵をもたらすものだといっていいだろう。
3つのソフトに共通する新機能では、アイコニックな図形が数多く追加されたのがありがたいところ。アップルらしいクールなデザインのピクトグラムで、多くの文書にマッチする使い勝手のいい図形群だ。色も自由に変えられ、さらに形状もユーザ側で編集できるため、応用力も高い。
さらに、オンラインストレージ「Box」を介した共同編集の追加も大きなトピックだ。リアルタイムな文書の共同編集は、これまでもアイクラウド(iCloud)を介して行うことができた。MacやiOSユーザとのやりとりであればアイクラウドを使えばよいため、Box対応にメリットを感じる個人ユーザはあまり多くないかもしれない。
しかし、Boxは米国のビジネス市場で値ごろなクラウドストレージとしてシェアを伸ばしており、そうしたビジネスユーザとのコラボレーションという側面でメリットがある。米国のビジネス市場におけるiWorkユーザの拡大、ひいてはiPhone/iPad、Macのシェア拡大の一助にしたい狙いがあるのだろう。
iWork for Mac共通の主な新機能
編集も可能な豊富な図形群
ピクトグラム風の図形群が数多く追加された。これらの図形はベクター形式で挿入され、形状を自分で変更することも可能だ。
Boxを介して共同編集
これまでもiCloudを介してファイルを共同編集する機能があったが、新たにオンラインストレージサービス「Box」を介して共同編集する機能が加わった。利用には、Box側の設定も必要になる。
インタラクティブなイメージギャラリー
ツールバーにある[メディア]ボタンから[イメージギャラリー]を選択すると、複数枚の画像をスライド再生できるイメージギャラリーを追加できる。シンプルなギャラリーパーツで、画像下の切り替えボタンなどはカスタマイズできない。
ドーナツ型のグラフを作成
ドーナツ型の円グラフが作成できるようになった。ドーナツの「厚み」はスライダで調節可能だ。また、これまでの円グラフと同じように、一部を切り離す見せ方にも対応している。
デジタルブックに注力?
また、もう一つの注目点として挙げたいのは、ページズでデジタルブック用のテンプレートを追加したという点だ。ページズを使ってePub(電子書籍の共通フォーマット)などのデジタルブックを作成する機能は以前からあったが、テンプレートが追加されたことでこれまで以上にデジタルブックを作りやすくなった。
とはいえ、アップルはMac用のデジタルブック作成ツールとして、以前から「iBooksオーサー(iBook Author)」というソフトをリリースしている。iBooksオーサーにもデジタルブック用のテンプレートは用意されているし、iBookオーサーは使い勝手や機能の面でページズと近い部分がある。あえてページズでデジタルブック用のテンプレートを拡充する必要はないのではないか、と首をかしげる人もいるだろう。
しかし、それでもiBooksオーサーはデジタルブックに特化したツールである。学校の教師がはじめて教育用のデジタルブックを作りたいと考えたとき、ビジネスソフトのページズを使うほうが精神的なハードルは低いだろう。アップルは、そんな「これからデジタルブックを作り始めるユーザ」を意識して、テンプレートを追加したのではないだろうか。新機能の一つに「インタラクティブなイメージギャラリー(スライドショー)」というものも追加されたが、これもどちらかといえば、インタラクティブなデジタルブックでこそ生きる機能といえるかもしれない。
折しも、アップデートが発表された3月28日(米国時間27日)は、「教育向け」というスタンスでiPadの発表イベントが開催された。それを意識した結果かどうかは定かではないが、ページズに追加されたデジタルブックのテンプレートには「レッスン」「テキストブック」など、教育用途を意識したものがしっかりと含まれている。
デジタルブックが今後教育界の重要なキーワードになるかどうかはわからないが、少なくともアップルは、注力すべき要素の一つだと考えているようだ。
Pages 7.0 for Macの主な新機能
2つのページを並べて表示
連続するページを並べて表示できるようになった。MacBookなどでは、A4サイズの文書を見開きで表示でき、さらに設定パネルまでが1画面にスッキリと収まる。
デジタルブック用の新テンプレート
デジタルブック用のテンプレートが加わった。縦型と横型それぞれに複数のテンプレートがあり、デザインも秀逸だ。教師が教育用コンテンツを手軽に作りたいときに役立つだろう。
分数の自動整形
「1/2」などの文字列を入力したとき、1文字分の分数に変換できる機能がついた。すべての分数が変換されるわけではないが、日常的な文書で使うような分数表現には役立ちそうだ。
マスターページの編集
ありそうでなかったPagesのマスターページ機能。マスターページにオブジェクトを設定しておけば、以後新規ページを追加したときに自動で反映される。なお、マスターページが利用できるのは「ページレイアウト書類」のみ。
Keynote 8.0 for Macの主な新機能
ファイルサイズをコンパクトに
[ファイルサイズを減らす]というメニュー項目自体は以前からあったが、今回のバージョンアップではその後にオプション設定ができるようになった。ムービー品質をコントロールできるため、予想外の劣化が避けられる。