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子が先か親が先か、広がれデザインエデュケーション

著者: 林信行

子が先か親が先か、広がれデザインエデュケーション

ミラノデザインウィーク(通称:ミラノサローネ)に向かう途中、8年ぶりにロンドンを訪問。デザインミュージアムを覗いてきた。

企画展のフェラーリの展覧会「Ferrari Under the Skin」が素晴らしかった。1つの製品をつくるまでに、いくつものプロトタイプを時には木を削ってつくり、見た目や触り心地などを確かめながら形にしていく。そこから生まれた美しい製品が、世界のセレブたちを虜にし、いくつもの映画なども生み出したという「ものづくりから文化づくり」にいたるまでを紹介した展覧会だった。

しかし、それに負けないくらい感動したのが最上階で行われていた無料の「DESIGNER MAKER USER」という常設展だ。イタリアの建築家エルネスト・ロジャースの「スプーンから都市づくりまで」という言葉を借り、今日、デザイナーが関わるべき領域が家具の造形から交通システムの設計、ヘルスケアサービスの立案、そしてソフトウェアづくりまで幅が広がっていることを紹介。そのいずれにおいても計画を立てるデザイナーと、形にするMAKER、そして出来上がったものを使うUSERがいることを意識させる構成の展覧会になっている。

歴史を変えたさまざまな商品の実物が年表のように飾られていたり、ブラウン、ソニー、そしてアップルの3社がいかに「デザイン」を真剣に考えているかを企業ロゴから人気商品の変遷にいたるまで詳しく紹介していたり、誰もがよく知る製品がどうやって企画され、つくられたかを丁寧に紹介していたりとかなり見応えがある内容だった。

後半では3Dプリンタなどの登場で、これからのものづくりが大きく変わっていくことを車1台プリントできそうな巨大な3Dプリンタを展示して紹介していた。

我々が日頃、目にしているモノの裏でどんな人たちがどんな思いを巡らせて、どんな技術やワザを使って形にしているのかがよくわかる素晴らしい内容だった。

よく「モノづくりニッポン」という言葉を耳にするが、ならばこうしたことこそ「義務教育」に取り入れるべきではないか。日本の中で、製品の背後にそれをつくっている人たちの思索や試行錯誤があることを感じている子ども達(いや、大人達も)はいったいどれだけいるのだろうか。金曜日のデザインミュージアムは「これは何だと思う?」と子どもたちに尋ねる親たちで溢れていた。

ちなみに筆者も理事を務めるジェームズ・ダイソン財団では、日本の全国の中学高校にデザイン・エンジニアリングのための特別授業を出張で行ったり、先生たちが自前で授業を行えるようにするためのキットの貸し出しを行っている。

アップルも「Everyone Can Code」、「Everyone Can Create」といった教育カリキュラムを提供している。生徒たちが使うiPadさえあればどんな学校でも先進的な授業を実践できる。そういう学校に恵まれなかった子どもたちもiPadが1枚あれば自習ができる。

このように教育機関のための環境は整備されているが、問題なのは保護者や教育者達がデザインというものの重要さを認識していないことだろう。

現在、デザインウィーク中のミラノのホテルでこの記事を書いているが、このイベントに参加していると日本には非常に優秀なデザイナーが多く、彼らの作品がヨーロッパ中を虜にしていることをまざまざと思い知らされる。だが、日本では彼らの活躍がまったく伝わってこないほどまでに社会環境としてデザインへの関心が薄く、それだけにデザインのための教育も少なければ、AI時代にも重要な職種として残るデザイナーを目指す学生も少ないのは残念なことだ。

Nobuyuki Hayashi

aka Nobi/デザインエンジニアを育てる教育プログラムを運営するジェームス ダイソン財団理事でグッドデザイン賞審査員。世の中の風景を変えるテクノロジーとデザインを取材し、執筆や講演、コンサルティング活動を通して広げる活動家。ツイッターアカウントは@nobi。