加速度センサとジャイロセンサを搭載したウェアラブル端末。もともとは、アプリと連係し、動きに合わせて音が鳴るスマートトイとして開発された。最近では、「モフトレ」「モフ測」などのアプリと連係し、介護事業者向けの介護予防プログラムでも活用されている。モフバンドを使ったトレーニングやレクリエーションの活動結果は自動で記録され、データは介護報酬加算の際の参考資料にもなる。
何も持っていなくても、腕につけて振ると剣のぶつかる音が鳴り、ギターを弾く真似をすると「ギュイーン」とギターの音がする。そんな近未来の「スマートおもちゃ」として2014年に登場した「モフバンド(Moff Band)」。それが今、来るべき超高齢社会に向け、新たな活用をされ始めている。
そもそもモフバンド自体は、「体の動きを検知する」というごくシンプルなセンシングデバイスだ。内蔵されているのは、加速度センサとジャイロセンサ、そしてブルートゥース接続のための部品。ボタンも電源ボタンしかついていない。そのシンプルな設計が功を奏した。モフバンドを見た介護関係者が、「これは高齢者の機能訓練にも使えるのではないか」と気づいたのだ。それを受けて、株式会社Moffのメンバーは、介護事業所向けの介護予防プログラムを開発した。その背景について、同社のエグゼクティブ・プロデューサーである園野淳一氏は次のように語る。
「もともとモフバンドはおもちゃとしても『子どもに体を動かして遊んでほしい』という目的で開発されました。運動訓練に使われるのも、自然な流れだったと思います」
ギタリストや魔法使いになれる! 動きを検知するデバイスの可能性
「Moff Band」はモーションキャプチャの機能があり、腕の動きをトラックできるウェアラブルバンド。元々は専用アプリと連係させ、その動きに合わせて音を鳴らすことで、さまざまな遊びを体験できるというコンセプトの製品だ。
トイからヘルスケア領域へ高齢者の機能訓練を支援する
Moffの代表取締役社長・高萩氏は、もともとヘルスケア領域へのチャレンジを考えていたという。そこで三菱総合研究所と資本・業務提携を実施し、早稲田エルダリーヘルス事業団と協業して、高齢者の自立支援につながるプログラム開発に挑んだ。
昨年8月にリリースした「モフトレ」は、ロコモティブシンドローム(運動器の障害のために「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態)を予防するトレーニングや、日常生活動作の訓練が行えるアプリだ。「膝伸ばし」「お風呂で髪を洗う」などのメニューを選ぶと、その動作の見本動画が表示され、それに合わせて動作することで簡単にトレーニングができる。モフバンドと連係し、正しい動きができているかどうかも測定する。
モフトレでは、「きよしのズンドコ節」など高齢者になじみのある音楽が鳴り、どんな動きでも画面上で反応が出る。「これができたら成功」「できなかったら失敗」といった概念や、優劣をつける要素などはなるべく避けた。これは、「できないことが増えていく」という高齢者の気持ちに寄り添い、楽しくトレーニングを続けてほしいという願いからだ。
「これまで無気力だった方が、モフトレをきっかけに運動を始められた。トレーニングが難しいといわれる認知症の方がモフトレ後にBGMを鼻歌で歌っていた。そんなエピソードを聞くと、本当にうれしくなります」
動きを測ると運動が楽しくなる支援者の負担も軽くする「モフトレ」
Moff Bandを腕や足に装着し、3Dモーションセンサで動きを計測。アプリ画面を真似するだけで、生活に必要な動きが訓練できる画期的なプログラムだ。今のところ、「ロコモ予防」「日常生活動作」のトレーニングと、体を動かすレクリエーションができる。
実際に要介護者を、モフトレを使ってトレーニングしたグループ(A)とそうでないグループ(B)に分け、可動域や認知機能についての検証も行っている。認知機能のテストには「長谷川式認知症スケール」が広く用いられているが、この検証の際に何度もテストを行い、実施に伴う負担を感じたその経験から、認知症テストを簡単に実施できるアプリ「ワスレナグサ」もリリースした。
センサから取得したデータを出力ありそうでなかったロガーアプリ
Moff Bandで記録した運動データを、CSV形式で出力できるアプリ「Moffロガー」。光学式のモーションキャプチャの機器は高額で、計測したデータをデバイス内でしか見られないなど、手軽に運動データを出力できるサービスは少ない。そのため、Moff Bandとアプリは専門機関などで重宝されている。App Storeでダウンロードし、Moffが発行するシリアルコードを入力すると使用できる。
アプリで認知症を予防しよう認知症テスト「ワスレナグサ」
「モフトレ」の効果検証の中で、何度も「長谷川式簡易知能評価スケール」の認知症テストを行ったMoffメンバーは、記録用紙や物品を用意する手間で実施するハードルが上がっていることに気づいた。そこで質問を表示し、回答はボタンを押すだけで済むアプリを開発した。本アプリはMoff Bandなしでも利用できる。
昨年11月には、モフバンドで腕の上がっている角度など、各種身体機能を計測・ビジュアル化するアプリ「モフ測」の実証実験を開始。これを使えば、今まで理学療法士などが目視で動きが改善したかどうかを確認していたところを、数値でフィードバックできる。
「リハビリというのは、孤独な戦いです。自分の動きがよくなっているのか、悪くなっているのか、わからないとやる気も出ません。モフ測で1週間前と今の自分を比べて見ることができたら、変化がよくわかるでしょう」
自分の動きを3Dモデルで表示改善が見えるとやる気もアップ!
最近リリースされたのが、身体機能を計測し、見える化するサービス「モフ測」。歩行や関節可動域を3Dモデルでわかりやすくフィードバックし、「足が通常よりも上がっていない」など転倒の原因なども発見できる。以前のデータと比較表示することも可能だ。
また、モフバンドでモーションキャプチャしたデータを、CSV形式で出力できる「モフロガー」というアプリも提供している。元々は管理側のテストツールだったが、ニーズが高かったためサービス化。病院や研究機関で活用されているという。もしかしたら今後は「モフロガー」で計測したデータが、バーチャル・ユーチューバーなどのモーションにも応用されるかもしれない。「動き」をデータ化し、価値に変えるというモフバンドの活用はさらに多くの領域に広がっていきそうだ。