ネイティブアプリのように振る舞うWEBアプリとして注目されている「プログレッシブWEBアプリ」(PWA)。そのサポートにAppleが動き出した。他企業と足並みが揃ったことで、PWAの標準化はほぼ確実になった。それはiOSアプリにとって脅威と呼べるようなライバルの出現を意味し、App Store戦略にも大きく影響する。
不可能だったUXを実現
「HTML5を過大評価しすぎたのは大きな失敗だった」。2012年にフェイスブックがアプリをネイティブアプリで構築し直した。その際のマーク・ザッカーバーグCEOのコメントだ。元々情報を共有するための技術として作られたWEBで、マルチメディアやアプリを扱えるように設計されたHTML5。WEBアプリ時代の到来を期待させたが、速度や機能、ハードウェアとの連動といった面で、ネイティブアプリとの差は埋められなかった。フェイスブックの断念によって過熱していたHTML5ブームが落ち着き、モバイルの「ネイティブアプリ対WEBアプリ」の論争にも決着がついた。
あれから5年、ネイティブアプリに劣らない操作性や表現力を持ち、オフラインでも動作するWEBアプリが実現されようとしている。それこそが「プログレッシブWEBアプリ」(PWA)だ。その要素技術であるサービスワーカーや、WEBアプリ・マニフェストが「サファリ(Safari)11.1」に追加された。
PWAは、HTML、CSS、ジャバスクリプトといったWEB技術によって構成される。クロスプラットフォーム、リンクやインデックスが可能であるというWEBアプリの長所はそのままに、アプリとして快適に使えるようにHTML5や周辺技術を発展させた。今年フラッシュ(Flash)がWEBの世界から消えようとしているが、PWAはインタラクティブコンテンツを発展させたフラッシュの空白を埋め、モバイルデバイスの体験を進化させる技術になると期待されている。
オープン戦略に舵を切るMicrosoftは、Windows 10でPWAがネイティブアプリと同様に扱えるようにWindows 10でサポート、ユーザがMicrosoftストアでPWAを検索・導入できるようにする。
PWAの波に抗わず
PWAを次代のHTMLに反映させるには、主要ブラウザがPWAサポートで足並みを揃える必要がある。グーグル、そしてモジラやマイクロソフトがサポートを表明する中で、唯一アップルは沈黙し続けていた。アップルにとって、PWAのサポートはiOSアプリの強力なライバルを生み出すことになる。成長著しいサービス事業で、もっとも売上高が大きいアップストア(App Store)への影響は避けられない。
ただ、PWAをサポートしなければ、かつてのインターネットエクスプローラがそうだったように、サファリがWEBの進化の障害になるかもしれない。プラットフォームのオープン化の波に抗うことがユーザの不利益になるなら、それはアップルの本意に反する。
アップルはまだ公式にPWAのサポートを表明していないが、同社がサポートするならば他のプラットフォームよりもPWAを便利に使えるように実装するだろう。たとえば、サファリ11・1はペイメント・リクエストAPIもサポートする。それによって、アップルペイ(Apple Pay)を利用できる仕組みをPWAに組み込める。
ネイティブアプリの差別化にも取り組む必要がある。アップルの場合、iOSデバイス向けにはプロセッサから独自に開発しており、PWA以上にセンサ類を活かし、ハードウェアやOSと調和した体験を実現できる。統合を深めることで、PWA時代にもネイティブアプリを使う明確な理由を示せる。
PWAを実行できる環境が整う今夏以降、PWAに対する注目はますます高まるだろう。WEBアプリかネイティブかという議論も再燃しそうだが、新たな競争はアップル製品ユーザにとってプラスに働くと期待できる。