Appleの新キャンパス「Apple Park」のアクセシビリティに配慮したデザインが話題になっている。昨年11月に一般の人たちも利用できるビジターセンターが正式オープンし、実際に利用してみて優れたアクセス性を実感。ミニマルなデザインの中に練り込まれた優れたアクセス性に気づいた人たちの体験談が広がっている。
誰もが使いやすい施設に
シンプルで使いやすい製品やサービスを通じて、アップルは「ユーザビリティ」を提供する企業として知られている。しかし、使いにくい状態のものを使いやすくするだけが、使いやすさの尺度ではない。障がいを持つ人や高齢者が利用できないものを使える状態にする「アクセシビリティ」があってこそ、すべての人に使ってもらえるものになる。だから、アップルはアクセシビリティの取り組みにも力を注いでいる。ユーザビリティに注目が集まってあまり気づかれていないが、ただ使いやすくするのではなく、アクセシビリティを前提にしながらユーザビリティも実現しているのが、アップルのデザインの特長の1つだ。それは昨年にオープンした「アップルパーク(Apple Park)」のデザインにも反映されている。
昨年11月に正式オープンしたApple Parkのビジターセンター。誰でも利用できる一般向けの施設で、Apple Park全体を見渡せる展望テラスやカフェがあり、ストアではビジターセンターでしか買えないAppleグッズを買える。
新キャンパスは建設段階から、レトロフューチャーなデザイン、自然の光を取り込む巨大なガラスの壁、自然と人工物の融合といったことで話題を集めてきた。そんなデザインに興味を持って、昨年11月にオープンした「ビジターセンター」を訪れた一般の人たちが、アップルパークの優れたアクセシビリティを報告し始めている。日頃、外出に困難が伴う人たちでも、他の訪問者と同じように快適に施設を利用できる。実際に使ってみて初めて気づくほど自然に、ミニマルなデザインに優れたアクセス性が組み込まれている。
ミニマルさと多機能性を両立
たとえば、駐車場の敷地を示すわずかな段差が設けられているものの、全体を見回してみると、ビルの一階フロアと駐車場、外に設けられたコミュニティスペースが、すべて同じ高さの平面になっている。車椅子の人でも自由に行き来できるから、車椅子専用のスロープや通路はない。
アップル製品を手に取れるストアスペースは、製品を置いた台が広い間隔で並ぶ。ゆったりとしているので、混雑しているときでもゆっくりと製品を体験できる。それは同時に、車椅子の人たちがストア内を自由に移動できるデザインでもある。棚も車椅子の人が手を伸ばさずに製品を取れるように低く備え付けられている。展望デッキは危ない場所を示すようにバーの形をした足下照明が用いられている。そのバーは白杖を使う目が不自由な人たちのためのガイドを兼ねている。
障がいを持つ人や高齢者の人たち専用に何かを作るのではなく、最初から幅広い人々の必要を考慮して設計されたユニバーサルデザインだ。しかも、必要最小限に見えるシンプルで美しいデザインに、ユニバーサルであるために必要な多機能性が込められている。より少なく、しかし豊かなデザインを実現しているのだ。
アップルパークの建設では、莫大な費用や完成までの長い時間といった桁違いの数字も話題になった。アクセシビリティに対しても「コストを度外視したデザイン」という声もある。たしかに、そうした数字は驚嘆に値するが、アップルがアップルパークを作った目的は、たくさんの人々が互いにつながって協力し、豊かなコミュニケーションを実現できる場である。建設に注ぎ込まれた金額や時間に価値があるのではない。ユーザビリティとアクセシビリティの両立から、その価値は生み出されるのである。